一般社団法人化学物質過敏症・対策情報センター

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化学物質過敏症と神経性炎症との関係 ① 翻訳

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化学物質にばく露すると神経性炎症が起こり、神経性炎症が起きていると、さらに化学物質にばく露したときに、化学物質過敏症を発症しやすくなるそうです。

以下、The Role of Neurogenic Inflammation in Chemical Sensitivity 2017年「化学物質過敏症と神経性炎症との関係」の翻訳です。

 

 

翻訳文責:
一社)化学物質過敏症・対策情報センター
代表理事 上岡みやえ

 

 

化学物質過敏症は、急性毒性の影響が考えにくいレベルでの環境化学物質へのばく露によって、呼吸器、心臓、胃腸、筋骨格、皮膚、および神経系を含む、観察可能な病状が同時に発現する、後天性の障害です。

発症のきっかけとなった化学物質は、化学物質過敏症の発症に関連づけて認知されます。

神経性炎症は、明確な定義のある病態生理学的プロセスです。化学的刺激によって、神経線維から、疾患を引き起こす炎症性メディエーターが放出されます。

本論文は、神経性炎症と、化学物質過敏症の関係性を説明する、科学的証拠を提示するものです。


レルギーと化学物質過敏症の関係性

化学物質過敏症は、アレルギーとは異なりますが、アレルギーに似ています。

分子のサイズが重要です。一般的に、アレルギー反応は、サイズが数千ダルトンのタンパク質分子に対する感受性で起こります。

(ただし、小さな分子<ハプテン>は、タンパク質に結合して大きな分子を形成し、アレルギー反応に関連する可能性があります)

化学物質過敏症に関連する物質のサイズは、一般に100ダルトン程度です。アレルギー反応のメカニズムは、約1世紀にわたって、免疫反応であると理解されてきました。

化学物質への感受性が高い個体は、マスト細胞および好塩基球として知られる免疫細胞の表面に結合するIgEクラスの抗体を作り出します。

タンパク質分子が、これらの細胞の表面にある2つのIgE分子をクロスリンクすると、マスト細胞と好塩基球が化学メディエーターを放出し、化学物質過敏症を発症させる強力な炎症反応を引き起こします。

化学物質の受容器を含む粘液膜の感覚神経線維は、化学物質に反応して神経性炎症を引き起こす強力なメッセンジャーを放出します。

これらのメディエーターはニューロキニンと呼ばれます。ニューロキニンAはサブスタンスPとしても知られています。炎症は組織に損傷を与え、化学反応性のしきい値が低下するように変化し、慢性疾患や化学刺激物質に対する過敏症を引き起こします。気道では、このプロセスは「リモデリング」として知られています。(Kumar,2001; Vignola et al., 2003; Yilmaz&Yuksel., 2016)

アレルゲンとして知られているタンパク質が、マスト細胞の免疫グロブリン受容体に結合すると、アレルギー反応が起こります。マスト細胞はヒスタミンや走化性因子を含む炎症のメディエーターを放出します。

アレルギー性炎症と神経性炎症の間には、クロスオーバーネットワークと呼ばれる関係があります。(Cavagnaro&Lewis., 1989)

アレルギー反応により、ヒスタミンは感覚神経に結合し、神経性炎症を活性化します(Schuligoi et al., 1997)。アレルギー性炎症から神経性炎症へのクロスオーバーは、鼻炎症へ神経炎症のメディエーターの放出を引き起こす、抗原による攻撃です。(Mosimann et al., 1993)

化学物質の刺激によって、神経細胞から放出されたサブスタンスPは、マスト細胞の一部に結合し、免疫原性炎症を活性化させます。

アレルギー反応や化学反応による炎症が、接種部位以外の臓器系に影響を与える可能性もあります。例としては、じんましんを引き起こす食物アレルギーです。

腸に抗原を接種すると、皮膚に反応が生じることがわかっています。これは、信号を送信する神経系から、あるいは、別の臓器系に影響を与える免疫メディエーター(サイトカインなど)の全身放出から、生じている可能性があります。

神経伝達物質のスイッチングは、神経刺激が別の器官系に転送され、接種部位以外の部位に炎症を引き起こすプロセスとして説明されてきました。(Meggs., 1995)

刺激物質に対する炎症反応が、現在神経性炎症として知られている神経系によって媒介されることも、1世紀以上にわたって知られています。

以下、神経性炎症が化学物質の感受性に関与しているという科学的根拠を提示していきます。

 

道(喘息、鼻炎、RADS、RUDS、MCS)
神経性炎症が、環境化学物質へのばく露による疾病を発症させ、悪化させるメカニズムであるという科学的根拠を得るには、気道研究が最適です。

反応性気道機能不全症候群(RADS)は、化学物質など刺激物質へのばく露が続くことで、喘息のような症状を起こす症候群です。(Brooks, 2013; Brooks et al., 1985)

注目すべきは、アレルギーが、刺激物質へのばく露後に、反応性気道機能不全症候群(RADS)を発症させやすくする危険因子であることです。(Brooks et al., 1998)

よく知られているように、喘息とは、刺激物質へのばく露によって、気道が過敏症状を呈している状態です。(Brooks, 2013; Brooks et al)

一部の人は、刺激物質へのばく露後に慢性鼻炎を発症しますが、喘息にはなりません。
これは、反応性上気道粘膜機能障害不全症候群(RUDS)として区別されます。(Meggs&Cleveland., 1993)

反応性上気道粘膜機能障害不全症候群(RUDS)の患者の多くは、刺激物質へのばく露によって、他の臓器系の疾患、すなわちカレン(1987)よって多種類化学物質過敏症(MCS)と命名された状態へと移行します。

神経性炎症が、刺激物質へのばく露による喘息発症に関与していることは、健康な被験者を吸入チャンバー内で0.25 µppmのオゾンに暴露した研究によって、確定的となりました。

オゾン暴露直後に、気道洗浄および気管支肺胞洗浄を伴う気管支鏡検査を実施したところ、神経性炎症の主要なメディエーターであるサブスタンスPの上昇レベルは、オゾンばく露後には検出されたものの、正常な空気を吸わせた対照群には検出されませんでした。

注目すべきは、健康な人がオゾンにばく露した結果として、強制的呼気量、喘息の主要症状の1つである気道狭窄の測定値が、12.4±1.9%(平均±SEM)低下したことです。(Hazbun et al., 1993)

多種類化学物質過敏症(MCS)の基準を満たす患者は、光ファイバー鼻鏡検査において、特定の形状を示す鼻炎を患っていることが観察されています。(Meggs&Cleveland., 1993)

多種類化学物質過敏症(MCS)の基準を満たした患者の鼻の生体検査を病理学的に行った比較研究においては、鼻ねん膜の変化を観察することで、神経性炎症を起こしているときは、刺激物質へのばく露によって、多種類化学物質過敏症(MCS)を発症しやすくなることが示されました。(Meggs.,1997; Meggs et al., 1996b)

鼻ねん膜の変化としては、感覚神経線維の増殖、気道内の吸入された化学物質と神経線維との間の上皮バリアの破壊(上皮の剥離)、および粘液腺の肥大などが観察されました。

注目すべきは、リンパ球と呼ばれる白血球の増加が見られたことです。この発見によって、研究は更にすすむことでしょう。

刺激性接触皮膚炎では、化学物質に特異的な受容体をもつリンパ球が発見されていますが、我々の知る限り、これを気道観察にまで拡大する研究は行われていません。

Millqvistらは、化学物質過敏症の患者にカプサイシンを吸入させることによって、化学物質過敏症と神経性炎症の間に関係性があることを、見事に証明してみせました。

唐辛子に含まれる物質カプサイシンは、感覚神経から神経性炎症メディエーター、サブスタンスPを放出させます。

健康な被験者と、化学物質過敏症(香水、花の香り、タバコの煙などの化学物質の臭いに対して過敏な人。感覚過敏症とも呼ばれる。)の被験者に、カプサイシンを吸入させたところ、両者とも咳こんだものの、健康な対照群との比較においては、化学物質過敏症の患者のほうが、より強い反応を示しました。(Johansson et al., 2002; Millqvist., 2000)

カプサイシンと化学物質過敏症との関係性は、カプサイシン吸入後の鼻洗浄液中に、サブスタンスPの増加がみられたことによっても証明されています。(Cho et al., 2003)

気道の、化学物質に対する感受性が、神経性炎症によって増幅されることは、刺激性・反応性を有するアレルギー性鼻炎患者の、鼻汁中の神経成長因子の測定によっても、示されました。(Sanico et al., 1999)

基準時とアレルゲン誘発時、それぞれを鼻洗浄液で測定し、下記3種類の神経介在性反応を比較したところ、健康な対照群と比較して、アレルギー性鼻炎患者に神経成長因子レベルが増加していることが判明しました。

・ヒスタミンによって誘発されるくしゃみ反射
・片方の鼻腔に塗布したカプサイシンによって、反対側の鼻腔に分泌される物質による鼻腔反射
・カプサイシン吸入した際の血漿溢出によって示される軸索反射の感度や大きさ

研究者らは、この結果を、環境刺激物質やアレルゲンによる症状の説明として解釈しています。(Sanico et al., 1999)

別の研究においても、香りや化学物質による気道症状のある患者は、カプサイシン吸入後の鼻汁中の神経成長因子のレベルが上昇することが明らかになっています。(Millqvist et al., 2005)

神経成長因子は、化学物質の受容器を備えた神経線維の増加を引き起こすメディエーターであり、カプサイシンは神経線維を興奮させて神経性炎症をおこすメディエーター・サブスタンスPを放出します。

副鼻腔炎と神経性炎症の関係性は、広く認知されており、それは総説論文のテーマにもなっています。(Lacroix., 2003)

 

 

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