一般社団法人化学物質過敏症・対策情報センター

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脳腸相関:脳と腸、腸内細菌の相互作用



以下、The gut-brain axis: interactions between enteric microbiota, central and enteric nervous systems 2015  「脳腸相関:腸内細菌叢、中枢神経系および腸管神経系の相互作用」という論文の翻訳です。

 

翻訳文責:
一社)化学物質過敏症・対策情報センター
代表理事 上岡みやえ

 

 

 

要約

中枢神経系と腸神経系の間の双方向通信である「脳腸相関」によって、脳の感情中枢や認知中枢は、末梢の腸機能と結びつけられています。

近年の研究の進展によって、脳と腸との相互作用においては、腸内細菌叢が、非常に重要な役割を果たしていることがわかってきました。

腸内細菌は、脳腸相関において、相互的・双方向的な役割を担っています。

腸内細菌と脳は、双方向的なシグナル伝達を行いながら、神経、内分泌、免疫を調節しています。腸内細菌と脳は、体液を通した相互関係 にあるのです。

本稿では、これらの相互作用を説明する、入手可能な証拠と、関与する可能性のある病態生理学的メカニズムについてまとめています。

データの多くは、無菌動物モデル、プロバイオティクス、抗生物質、感染症の研究からなる技術戦略の観点から取得されています。

臨床においては、脳腸相関において腸内細菌が相互的作用を担っているという証拠は、腸内細菌の異常と中枢神経障害(自閉症、不安抑うつ行動など)、そして機能性胃腸障害との関連から得ることができます。

特に、過敏性腸症候群は、これらの複雑な関係が破壊された一例と考えることができます。脳腸相関と腸内細菌の相互的作用についての理解が深まると、新しい標的療法が編み出される可能性があります。

 

 

イントロダクション

脳と腸のクロストークに関する研究によって、脳と腸の間の複雑なコミュニケーションシステムは、胃腸の恒常性を適切に維持するだけでなく、感情、意欲、高次の認知機能などに、様々な影響を与えている可能性が高いことが明らかになっています。

脳と腸の相互作用の複雑さは、「脳腸相関/Gut-Brain Axis」と称されています。

「脳腸相関」の役割は、腸の機能を監視して統合すること、そして脳の感情中枢と認知中枢を、免疫活性化、腸透過性、腸反射、腸内分泌腺へのシグナル伝達などを、末梢の腸機能に結びつけることです。 

脳腸相関、すなわち脳と腸との双方向的やりとりの基礎となるメカニズムには、免疫にかかわる神経内分泌メディエーターが関与しています。

この双方向的やりとりには、中枢神経系 (CNS)、脳と脊髄の両方、自律神経系 (ANS)、腸神経系 (ENS)、視床下部下垂体副腎 (HPA) 軸との相関性が含まれます。

交感神経と副交感神経からなる自律神経システムは、内腔(管状あるいは袋状の器官の内側の空間)から生じ、腸管、脊髄、迷走神経経路を通って 中枢神経系(CNS)に伝達される求心性信号と、中枢神経系(CNS)から腸壁に伝達される遠心性信号の両方を駆動します。

視床下部・下垂体・副腎系 (HPA)軸は、あらゆるストレス要因への適応反応を調整する、遠心性信号伝達の中軸であると考えられています。

それは、主に記憶と感情反応に関与する大脳辺縁系の一部であり、脳の重要な領域を担っています。

環境ストレスや全身性炎症誘発性サイトカインの上昇によって、視床下部から副腎皮質刺激ホルモン放出因子 (CRF) が分泌され、視床下部・下垂体・副腎系 (HPA)軸 が活性化されます。すると、下垂体から分泌される副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が刺激され、副腎からコルチゾールが放出されます。

コルチゾールは、脳を含む人間の臓器の多くに影響を与える、主要なストレスホルモンです。

つまり、脳は、神経伝達系とホルモン伝達系が組み合わさることで、免疫細胞、上皮細胞、腸ニューロン、平滑筋細胞、カハール間質細胞、腸クロム親和性細胞などの腸機能エフェクター細胞の活動に影響を与えることが可能になるのです。

一方、これらの細胞はすべて、腸内細菌 の影響下にあり、近年は、脳と腸の双方向的コミュニケーションの役割と、腸内細菌と脳腸相関 の関係性が注目されています。

腸内細菌は、ヒトの消化管に広く分布しており、その組成は人によって異なりますが、腸内細菌の系統と、腸内の分布、腸内での相対的な存在量は、健康な人では類似性が見られます。

腸内細菌の最も有名な門は、腸内細菌の3/4 を占めるファーミクテス門とバクテロイデス門です。これらの腸内細菌は、宿主にとって重要な代謝機能と生理学的機能を有しており、宿主の生涯にわたって、その恒常性維持に貢献しています。

 



 

 

脳腸相関における腸内細菌の役割

臨床的証拠と実験的証拠の両方とも、腸内細菌は、腸細胞 や 腸神経系(ENS)と局所的に相互作用するだけでなく、神経内分泌系や代謝系を通じて中枢神経系(CNS)と直接的に相互作用し、脳腸相関に重要な影響を与えていることを示しています。

腸内細菌と脳の相互作用に関する、最も説得力のある臨床的証拠は、20年以上前に得られました。肝性脳症の患者に抗生物質を経口投与すると、劇的な改善が見られたのです。

腸内細菌が、不安や抑うつ行動に影響を及ぼしているという報告もあります。

さらに最近では、自閉症患者では、腸内細菌が異常な状態になっていることを示す報告が増えています。自閉症患者の腸内細菌の組成は、その重症度に応じて、特異的に変化します。

腸内毒素症は、気分障害との関連が深く、脳腸相関の破壊との関連性がみられる機能性胃腸障害(FGID)でも起きています。

脳腸機能障害/腸脳機能障害の両方が起きるというデータがあり、特に、過敏性腸症候群(IBS)においては、脳腸機能障害が優勢です。

脳腸相関が破壊されると、腸の運動性と分泌が変化します。それによって内臓過敏症が引き起こされ、腸内の分泌系と免疫系の細胞が変化してしまいます。

腸内細菌は、病態生理学的に異なる 過敏性腸症候群(IBS)の標的細胞と相互作用する可能性があることや、その働きについては、さまざまな証拠によって裏付けられています。

過敏性腸症候群(IBS)患者では。腸内細菌の組成が変化し、安定性と多様性の両方に欠陥があること、感染症罹患後に過敏性腸症候群(IBS)を発症していること、小腸細菌が異常増殖しやすいこと、特定のプロバイオティクスと非全身性抗生物質による治療が効果的であること、などがわかっています。

過敏性腸症候群(IBS)の特徴である内臓過敏症の表現型は、過敏性腸症候群(IBS)患者の腸内細菌を介して、無菌マウスに伝染する可能性があります。

過敏性腸症候群(IBS)の病因研究において、脳腸相関と腸内細菌の調節異常が同時に起きることが観察されたため、機能性胃腸障害(FGID)を、脳腸相関 と 腸内細菌の障害とみなすという視点が生まれました。

 

 

 

腸内細菌から脳へ

近年、腸内細菌が脳腸相関にどのように関わっているのかを突き止めるための、動物実験研究が急増しています。

無菌動物、プロバイオティクス、抗生物質、感染症研究など、さまざまな技術や手法が採用されてきています。

無菌動物の研究では、腸内細菌のコロニー形成が、 腸神経系(ENS) と 中枢神経系(CNS)両方の、発達と成熟の中枢であることが示されています。

腸内細菌のコロニー形成がなされなかった場合、腸神経系(ENS) と中枢神経系(CNS)の両方で、神経伝達物質の発現や代謝が変化すること、胃の内容物排出の遅延や腸管輸送の減少など腸の感覚運動機能が変化すること、移動性運動複合体/MMC (腸内で実行される、段階的かつ周期的な運動パターン)  の周期的再発と遠位伝播、そして盲腸が肥大化することなどが示されました。

神経筋の異常は、神経伝達物質の合成と輸送に関与する酵素の遺伝子発現の低下と、筋肉収縮タンパク質の遺伝子発現の低下に関連して生じていました。

実験動物の腸内に、細菌種に特異的な方法で腸内細菌コロニーを移植すると、これらの異常はすべて回復しました。

無菌動物で行われた研究では、腸内細菌が、ストレス反応や不安行動に影響を及ぼすこと、視床下部・下垂体・副腎系 (HPA) 活性の設定点を調節することが、実証されています。

無菌動物は、通常、不安が減少し、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)とコルチゾールの増加によってストレス反応が増えます。

微生物が腸内に定着していくと、脳腸相関には、年齢に応じた正常性がもたらされます。

無菌動物への腸内細菌コロニー移植後に、過剰なストレス反応が沈静化するのは、非常に若いマウスに限られます。神経調節の可塑性から考えると、このことは、微生物が定着しやすい臨界期が存在することの証拠となります。

無菌動物では、記憶障害が起きることが報告されています。これは、記憶に関する最重要因子の1つ「脳由来神経栄養因子(BDNF)」の発現変化に起因すると考えられます。

脳由来神経栄養因子(BDNF)は、主に海馬と大脳皮質に位置し、様々な脳活動と認知機能、そして筋肉の修復・再生・分化を制御しています。

最後に、腸内細菌は、セロトニン作動系の調節にも関与しています。無菌動物の辺縁系では、セロトニンの代謝回転の増加と関連代謝産物のレベル変化が起きることが報告されています。

腸内細菌が脳腸相関へ影響を与えていることは、プロバイオティクスや抗生物質の使用によって腸内細菌組成を変化させた研究によって、さらに補強されています。

腸内細菌が、脳の神経化学や、不安、視床下部・下垂体・副腎系 (HPA) に影響を与えることも確認されています。

 



ラクトバチルス・ラムノサスJB-1 を長期投与すると、脳内の GABA mRNA に領域依存的な変化が引き起こされます。

食事制限されたマウスとの比較において、GABA B1b は,、皮質帯状回と前縁領域で増加した一方で、海馬、扁桃体、青斑核では減少しました。

次に、GABA Aα2 mRNA の発現は、前頭前野と扁桃体で減少しましたが、海馬では増加しました。

プロバイオティクスを与えると、ストレス誘発性のコルチゾール放出と、うつ病と不安に関連する行動が減少しました。

同様に、特定の病原体を除去したマウスに 経口抗菌剤(ネオマイシン、バシトラシン、ピマリシン)を投与し、腸内細菌の組成を一時的に変化させたところ、探索行動と海馬の 脳由来神経栄養因子 (BDNF) 発現 が増加しました。

さらに、プロバイオティクス由来の VSL#3 による腸内細菌の組成変化は、 脳由来神経栄養因子 (BDNF) 発現の増加、海馬の加齢による変化の減衰、過敏性腸症候群(IBS)のマウスモデルでは、新生児を母親から分離したときに発症する内臓過敏症が回復しました。

後者のマウスモデルでは、痛みの伝達と炎症に関与する遺伝子のサブセットの発現に変化がみられることが報告されています。この変化は、幼少期にプロバイオティクスを与えることによって、リセットされました。

 


脳と腸内細菌のコミュニケーションには迷走神経が関与しているという証拠も得られています。迷走神経は、内腔環境から中枢神経系に情報を伝達しています。

迷走神経を切除したマウスでは、神経化学的な影響も、行動的影響も観察されません。つまり、迷走神経が、脳と腸内細菌をつなぐ、調節的かつ構成的な主たるコミュニケーション経路だったのです。

不安様行動に関連する慢性大腸炎のマウスモデルでは、ビフィズス菌を投与すると不安様行動が減少しましたが、大腸炎誘発前に迷走神経を切除していたマウスでは、ビフィズス菌投与による変化は観察されませんでした。

腸内細菌は、様々なメカニズムを通じて、脳腸相関と相互作用する可能性があります。腸内細菌は腸管バリアの調整に関与しており、このバリア機能が乱れると、すべての身体部位に影響が及ぶ可能性があります。

プロバイオティクスの種ごとの特異的な中枢効果は、実際に、タイトジャンクションの完全性の回復と、腸管バリアの保護機能に関連しています。このことは、最近の水回避ストレスの動物モデルによっても示されています。

ラクトバチルス・ヘルベティカスR0052とビフィドバクテリウム・ロンガムR0175のプロバイオティクス配合製剤で動物を前処理すると、タイトジャンクションバリアの完全性が回復し、血漿コルチゾールとカテコールアミンの測定により評価される 視床下部下垂体副腎 (HPA) 軸と自律神経系 の活動が減衰しました。

プロバイオティクスは、海馬の神経新生の変化や、シナプス可塑性に関与する視床下部の遺伝子発現の変化も防ぎました。

腸内細菌は、ラクトバチルス・ロイテリで報告されているように、求心性感覚神経の調節を介して 脳腸相関 と相互作用し、カルシウム依存性カリウムチャネルの開口を阻害することで興奮性を高め、腸の運動性と痛みの知覚を調節しています。

さらに、腸内細菌は、GABA、セロトニン、メラトニン、ヒスタミン、アセチルコリンなどの局所神経伝達物質として機能する分子や、腸管腔内に生物学的に活性なカテコールアミンを生成することで、腸神経系(ENS)の活動に影響を与えています。

ラクトバチルスは、硝酸塩と亜硝酸塩を利用して一酸化窒素を生成し、カプサイシン感受性神経線維のバニロイド受容体と相互作用しながら腸の運動性を調節する硫化水素を生成します。

腸神経系(ENS)は、腸内細菌の代謝物の標的でもあります。酪酸、プロピオン酸、酢酸などの短鎖脂肪酸(SCFA)は、腸内細菌の主たる代謝物です。短鎖脂肪酸(SCFA)は交感神経系を刺激し、粘膜からのセロトニン放出を促進し、記憶と学習プロセスに影響を与えます。

 


この文脈において興味深いのは、食事によっても腸内細菌が変化し、それによって行動が変わるという報告です。

赤身の牛ひき肉を50%含む食事を与えられたマウスは、標準的なげっ歯類の飼料を与えられたマウスよりも腸内細菌の多様性が高く、身体活動、参照記憶が増加し、不安様行動が少なくなりました。

腸内細菌の栄養素の利用可能性を変化させる能力や、腸内分泌細胞による栄養素の感知とペプチド分泌との密接な関係を考えあわせると、腸内分泌細胞から 脳腸相関に影響を及ぼす生理活性ペプチドが放出されることで、腸内細菌と脳腸相関が相互的に作用している可能性が導き出されます。

例えば、ガラニンは、視床下部下垂体副腎 (HPA) 軸の中心枝の活動「副腎皮質刺激ホルモン放出因子 (CRF) と副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の放出」を刺激し、それによって副腎皮質からのグルココルチコイド分泌を促進しています。

ガラニンはまた、副腎皮質細胞からのコルチゾール分泌と副腎髄質からのノルエピネフリン放出を直接的に刺激しています。

グレリンもまた、ヒトにおいて顕著な、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)や コルチゾール の放出効果を有しており、ストレスや栄養/代謝の変動に対する 視床下部下垂体副腎 (HPA) 反応の調節に関与していると考えられています。


腸内細菌が粘膜の免疫活性化に影響を与えることも、特筆すべき点です。

抗菌薬を経口投与したマウスでは、粘膜炎症の悪化が観察されます。ラクトバチルス・パラカゼイを投与すると、抗菌薬によって誘発された腸神経系(ENS)におけるサブスタンスPの発現増加が正常化され、内臓過敏症も緩和されます。

腸内細菌が免疫を活性化させることは、部分的にはプロテアーゼ酵素によって媒介されている可能性があります。プロテアーゼ酵素は、腸内免疫によって媒介される疾患によって増加し、粘膜損傷・腸管神経損傷の最終段階のエフェクター(酵素の活動を促進または阻害する物質)になります。

過敏性腸症候群(IBS)における現在の仮説は、異常な状態の腸内細菌が粘膜の自然免疫反応を活性化し、上皮透過性を高め、内臓痛を誘発する侵害受容感覚経路を活性化し、腸管神経系の調節異常を引き起こすというものです。

こうしたメカニズムは、胃粘膜の共生菌 ヘリコバクター・ピロリ菌と脳腸相関の関係性に影響を及ぼしている可能性があります。

腸内細菌は、神経性炎症プロセスの活性化と、消化管の機能的変化と形態学的変化による微量元素欠乏とが同時進行しているときに、こうした悪影響をもたらし始めるようです。

ただし、 ヘリコバクター・ピロリ菌への感染が脳腸相関に与える、直接的かつ即時的な影響については、明確なデータが不足しています。臨床現場では、機能性消化不良とヘリコバクター・ピロリ菌感染の関係性は、明確に定義されていません。

実際、消化不良1つの治療に必要な工程は14もあります。このことは、ヘリコバクター・ピロリ菌に関連する 上部消化管の機能性障害(FGID)の増加に、多くの病因があることを示しています。

 

 

 

脳から腸内細菌へ

腸内細菌の組成と総量は、さまざまな種類の精神的ストレスによって変化します。ストレスにさらされる時間とは無関係です。

実際、短時間の精神的ストレスでさえ、腸内細菌に悪影響を与えます。

たった2 時間、社会的ストレスにさらされただけで、腸内細菌の組成は大きく変化し、主要な細菌叢門の相対的な割合が減少する可能性があるのです。

 



こうした変化は、並行する神経の内分泌物を放出する遠心系 (自律神経系と 視床下部下垂体副腎 (HPA) )を通して、直接的には宿主の腸内細菌のシグナル伝達によって、間接的には腸内環境の変化によって、媒介されている可能性があります。

これらの遠心系神経経路は、疼痛調節因子の内因性経路に関連しており、いわゆる「感情運動システム」を構成しています。

直接的な変化は、脳の制御下で、ニューロン、免疫細胞、腸内親和細胞によるシグナル伝達分子の分泌によって媒介され、腸内環境に影響を与える可能性があります。

中枢神経系(CNS)のエフェクター(酵素の活動を促進または阻害する物質)と腸内細菌の間のコミュニケーションは、細菌細胞内の神経伝達物質受容体に依存しています。

いくつかの研究では、体内で生成される腸管神経伝達物質の結合部位が、腸内細菌の細胞内に存在していること、その結合部位が、腸内細菌の組成や機能に影響を与えたり、炎症や感染症に罹患しやすくなる素因の増加に寄与している可能性があると報告されています。

蛍光菌には、脳受容体と同様の結合特性を有する GABA システムに対して、高い親和性があることが報告されています。

大腸菌O157:H7には、アドレナリン拮抗薬によって特異的に阻害できる、宿主由来のエピネフリン/ノルエピネフリンの受容体があります。

個々の細菌群の増殖地である粘液層とバイオフィルムの維持には、微小棲息地の多様性や、代謝システムにおける生態的地位の多様性が必要です。

そして脳は、粘液層とバイオフィルムの維持に必要となる、腸の運動、酸、重炭酸塩、粘液の分泌、腸液の処理、粘膜免疫反応などの腸機能の調節に、大きな役割を果たしています。

 

生態的地位

生物の種や個体群が占める特有の生息場所。研究者により定義は若干異なる。C.S.エルトンによれば、生物的環境の中の地位を意味し,食物および敵との関係で規定されるもので、人間社会の職業にたとえられる。
百科事典マイペディア

 

脳腸相関(GBA)が調節不全に陥ると、腸内細菌の棲み処である粘膜の状態が悪化し、腸内細菌に悪影響を及ぼす可能性があります。

ストレスは、粘液分泌物のサイズと分泌量を変化させます。

例えば、音響ストレスは、犬の食後胃腸運動に影響を与えます。移動運動複合体サイクルの回復が遅れるため、胃の内容物排出が一時的に遅くなるのです。

精神的ストレスもまた、副腎皮質刺激ホルモン放出因子 (CRF) の中枢放出を介して、盲腸結腸の電気活性異常(spike-burst)の頻度を増加させます。

胃腸通過における、部位的および全体的な変化は、腸内細菌にとって重要な栄養源「プレバイオティクス」「食物繊維」の受け渡しに、深刻な影響を与える可能性があります。

脳が、腸管透過性を変化させると、細菌抗原が上皮を透過して粘膜の免疫反応を刺激するため、腸内細菌の組成と機能に影響が及ぶ可能性があります。

急性ストレスは、結腸の細胞間透過性を高め、インターフェロン-gの過剰産生、ZO-2のmRNA発現の減少、閉塞を引き起こします。

脳は、自律神経系 (ANS) を介して 免疫機能を調節している可能性があります。例えば、交感神経枝によって、マスト細胞の数と脱顆粒、活性が変化すると、トリプターゼとヒスタミンの 放出量が乱れ、ストレス関連 の 筋機能障害 が引き起こされます。


マスト細胞が産生する物質のひとつ、副腎皮質刺激ホルモン放出因子 (CRF) は、細菌の上皮透過性を高めるます。すると、細菌は、粘膜固有層に存在する免疫細胞にアクセスしやすくなる可能性があります。

 

マスト細胞(肥満細胞)
脊椎動物の血管周辺や,特に結合組織中にみられる大型の球形または多角形の自由細胞。原形質中に粗大な顆粒をもつが,これは水溶性でヘパリンと関係がある分泌顆粒といわれる。体内に侵入した異物を検出するとこの顆粒を放出して,体内のアレルギー反応や局所的炎症反応を引起こす役目をする。
ブリタニカ国際大百科事典

 

ホルモン受容体を放出する 副腎皮質刺激ホルモンは、新生児期に母親から分離され軽度のストレスを受けたマウスの、大腸バリア機能不全に関与しています。そのことが、成体になったマウスの、うつ病や大腸炎に対する脆弱性を増幅させるのです。

 




両方の嗅球を摘出したマウスは、セロトニン量や結腸運動、腸内細菌の組成が変化することや、中枢の副腎皮質刺激ホルモン放出因子 (CRF) の発現が増えることに関連する うつ病様行動を示すようになります。

この他、ストレスによって、パネート細胞から、抗菌ペプチド の α-ディフェンシン分泌量が増えると、腸内細菌の生態系が乱れる可能性があります。

最後に、ストレスによって腸内環境が乱れると、毒性細菌が増殖しやすくなることの重要性を指摘しておきます。

外科手術中に放出されるノルエピネフリンは、緑膿菌を増殖させ、腸の敗血症を引き起こす可能性があります。

さらに、ノルエピネフリンは、腸内に定着している病原体のいくつかを刺激して増殖させ、カンピロバクター・ジェジュニ の毒性を増強する可能性があります。

ノルエピネフリンはまた、病原性の大腸菌 O157:H7:3 だけでなく、非病原性大腸菌の分離株の過剰増殖を促進する可能性があります。

 

 

 

結 論

腸内細菌が、腸と神経系の双方向的なシステムに重要な役割を果たしていることは、はっきりした科学的証拠によって示されています。

腸内細菌は、脳の化学反応を調節し、ストレス反応、不安、記憶機能に関連する神経内分泌系に影響を与えるなどして、中枢神経系(CNS)と相互作用しています。

こうした相互作用の多くは、細菌株に特異的であるように見えます。そのため、特定のプロバイオティクスが、神経疾患の新たな補助戦略になりうる可能性があります。

中枢神経系(CNS)が腸内細菌の組成に与える悪影響は、内腔/粘膜生息環境の乱れによって媒介される可能性が高いものの、プロバイオティクスの摂取や、おそらくは食事によっても、回復させられるはずです。

臨床診断としては、機能性胃腸障害(FGID)、特に過敏性腸症候群(IBS)が挙げられます。これらの疾患は、現在では、脳腸相関(GBA)の機能不全によって引き起こされていると考えられています。