化学物質過敏症に関する請願 採択後の対応に関する情報交換会
日 時 2024年1月26日(金)11:30~12:00
場 所 沖縄県庁13階 保健体育課
参加者
沖縄県庁 保健体育課の皆様
一般社団法人 化学物質過敏症・対策情報センター 代表理事 上岡みやえ
(おきなわSDGsパートナー団体)
化学物質過敏症に関する請願~状況確認
1 県のホームページに化学物質過敏症の情報を掲載すること。ポスター・チラシを作成し、県内の保健所、役所及び公立病院に掲載・配布すること。
➢ ホームページは作成済み
保健体育課にご対応いただく件
2 県内の全ての公立学校の養護教諭向けに、化学物質過敏症の勉強会を開催すること。
3 県内の全ての公立学校において毎年4月に行われる健康診断の際に、教員及び保護者向けに化学物質過敏症の説明文書を配布すること。
4 県内の全ての公立学校において毎年4月に行われる健康診断の問診票に、化学物質過敏症に関する質問事項を追加すること。
5 県内の全ての公立病院において、化学物質過敏症の診断書を発行できるようにすること。
➢ 化学物質過敏症は、公的診断基準が確立されていないことから、沖縄県庁には、診断書発行することは不可と回答されている
【補足】
沖縄県庁には上記のように回答されましたが、化学物質過敏症(MCS)を判別する手法はいくつかあり、世界的に使用されています。
例1)化学物質過敏症の識別基準「化学物質過敏症:コンセンサス1999」
化学物質過敏症:コンセンサス1999
① 慢性の経過をたどる
② 再現性をもって症状が出現する
③ 微量な化学物質に反応を示す
④ 関連性のない多種類の化学物質に反応を示す
⑤ 原因物質の除去で症状は改善される
⑥ 症状は複数の器官、臓器にまたがる
「化学物質過敏症のコンセンサス (1999)」は、世界各国の患者にみられる症状の発現パターンを基にして(1999年の有識者会議にて)策定された基準です。この基準は、合計で数千人の化学物質過敏症(MCS) 患者の治療経験を有する北米の臨床医と研究者34人によって承認されました。
その後、「化学物質過敏症のコンセンサス (1999)」は、オンタリオ州保健省の資金提供を受けたトロント大学の環境過敏症研究ユニット (EHRU) によって検証されています。
例2)化学物質過敏症の識別基準 QEESI
テキサス大学のクラウディア・ミラー博士が開発した、「QEESI」は、世界中で採用されている、化学物質過敏症(MCS)を識別するための問診票です。
ミラー博士が共同執筆した論文はWHO(世界保健機関)のMacedo賞を受賞するなど、この分野における、世界トップクラスの研究者です。
Dr. Claudia Miller's QEESI Questionnaire
化学物質過敏症に関する請願~情報提供についての情報交換
化学物質過敏症を発症させない・悪化させないために必要なこと
1)身の回りに氾濫する有害化学物質についての説明
有害化学物質が、体調不良や学力低下の原因になりうること、有害物質濃度が低い空間は、自分と全員の健康と学力向上に有益であることを理解してもらうことを周知する
2)空気は公共であることを理解してもらう
空気は公共財産であり、健康に生きるための基本資源です。一人ひとりが汚さないように気をつけることが、自分と全員の利益になることを周知する
3)化学物質過敏症とは何か、正しく説明すること
誰でも発症しうること、発症者が激増していること、治療法がないため、悪化すると進学・就職・友人関係・恋愛・結婚などに支障をきたすことなどを説明する
4)健康診断を活用すること
健康診断の問診票を有効活用し、精度の高い注意喚起を継続すること
1)身の回りに氾濫する有害化学物質についての説明
香料など化学製品には、性の異常な発達、不妊、中枢神経障害、内臓障害、皮膚炎、学力低下を招く物質が多数配合されています。
接着剤・塗料・甘味料・医薬品などに配合される「トルエン」は、環境中への放出量が多いことで知られる化学物質です。
2017年には、世界で約23億トンの合成化学物質が生産されました。2000年の生産量の2倍です。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0160412021002415
アメリカ海洋大気庁の調査によって、ニューヨークでは、大気汚染物質の78%が整髪剤や柔軟剤などパーソナルケア製品由来であることが判明しています。
大気汚染物質の半分以上は「香料製品」でした。
約 12 種類の一般的な有機汚染物質のレベルが、住宅内では屋外よりも 2 ~ 5 倍高いことが判明しました。
(アメリカ環境省)
臍帯血、母乳、尿、体組織、体液、血液から有害化学物質が見つかっている。
(ミネソタ州保健省)
香 害
化学物質過敏症になると、香料臭が充満する教室や職場に入室することすらできなくなり、学ぶことも働くこともできなくなることが多いです。
【注意】
化学物質過敏症のひとは、様々な物質に反応して具合が悪くなります。反応する物質には個人差があります。香料製品に反応する人が多いですが、香料製品さえ排除すればよいというわけではありません。
子どもと香害
子どもたちは、香料製品が大好きです。
以下、2019年、豊見城市立・長嶺中学校のPTA講演会でお話させていただいたときに、保護者から提供された情報です。
人気女優が宣伝する香り柔軟剤は、女子小・中・高校生の間で人気が高く、柔軟剤原液をスプレーボトルに入れて、香水代わりにしている子どもが多いそうです。親が柔軟剤を買ってくれない場合は、自分のお小遣いで買ってくるとか。
男子の間では制汗剤が必需品となっており、部室には、部員同士でお金を出し合って買った制汗剤が置かれており、部活終了後は競い合うようにスプレーしまくるため、部室内が白く煙るそうです。
柔軟剤や制汗剤などの香料製品が大好きな子どもたちは、「我慢させられるのはイヤだ」と思うことが多いようです。
学校をあげて、保護者と生徒に香料や化学物質の危険性を周知していかない限り、子どもたちに、競い合うように使っている香料製品の使用を控えてもらうことは不可能です。
香料製品の脅威
最近の香料製品は、「マイクロカプセル技術」によって、香りが長く強く持続するようになっています。
マイクロカプセル技術とは、目に見えないマイクロサイズのカプセルの中に、ナノサイズの香料原料を注入するものです。香料成分は、摩擦などでカプセルが壊れたときに放出されます。
マイクロカプセルは軽いため、空気中を舞い飛んでいきます。香料製品ユーザーの衣類から、香料製品を使っていない人の衣類に付着します。
マイクロカプセル技術によって、香りが長く続くようになったうえ、柔軟剤など香料製品を使っていない人にも、マイクロカプセルが付着して、ニオイ移り問題(移香問題)に悩まされる人が増えています。
化学物質過敏症のなかには、学校や職場でニオイを移されて帰宅する家族に近寄れなくなり、別居を余儀なくされている人もいます。
2)空気は公共であることを理解してもらう
香害という言葉が新語として辞書に掲載されるほど、香害被害を訴える人が増えてきたことから、2021年に、5省庁連名のポスターが作成されました。
2023年には、「その香り困っている人がいるかも」が 「その香り困っている人がいます」に変更されました。
もちろん、香害だけでなく、大気汚染が深刻化していることも問題です。
増え続けるばかりの化学物質
アメリカ化学会に登録されている化学物質の総数は、1945年には10種類ほどでしたが、2015年に1億種類、2020年には2億種類を突破しています。
環境中の化学物質が増えていくのに比例して、難病患者数や不妊治療数が増えています。なお、このグラフに化学物質過敏症は含まれていません。
自宅の有害物質が高い子どもは、知能・言語・動作指数が低い!
出典:児童・生徒の発達とシックハウス症候群との関連についての調査
Teen Exposure to Air Pollution Could Reduce IQ Levels Long Term – California Health Report
身の回りに氾濫する有害物質についての理解を深め、香料製品などの使用を控えることは、自分にとっても、友達にとっても、有益であることを理解してもらうことが大切です。
3)化学物質過敏症とは何か、正しく説明すること
化学物質過敏症は、ごく微量の化学物質に反応して具合が悪くなる病です。発症機序は解明されていませんが、症状を引き起こす物質を排除すると、普通に過ごせます。
化学物質過敏症の症状は、頭痛、喘息、皮膚炎、うつ病など、多様です。
症状の出方と度合いの個人差が大きいため、自分や家族が化学物質過敏症であると気づけない場合が多いです。
日本国内の推定患者数は1000万人にのぼります。「国民病」といえるレベルで蔓延しています。
化学物質過敏症という病が知られていないため、化学物質過敏症患者が多いとは認識されていません。
・頭が痛ければ頭痛外来、皮膚症状が出ると皮膚科、うつ症状では心療内科などを受診する
・化学物質過敏症を知る医師がいない
・化学物質過敏症の診断基準が確立されていない
などの理由によって、誤診されている患者が一定数いると考えられています。最新調査では、片頭痛患者の2割が化学物質過敏症だったことが示されています。
化学物質過敏症の当事者も家族も病院も、化学物質過敏症だと気づけないのが現実です。
化学物質過敏症だと気づけたとしても、診断基準も治療法も確立されていないため、途方に暮れるばかりとなります。
4)健康問診票を活用してほしい
化学物質過敏症を発症させない・悪化させないためには、学校での注意喚起を継続していくこと、健康問診票を通して、化学物質過敏症かもしれない児童を見つけ出し、保護者に生活改善を促していくことが効果的です。
そのためにも、健康問診票のきめ細やかさと精度をあげていくことが必要不可欠です。
「化学物質過敏症に関する請願」には、一流の専門家が考案した下記問診票を「質問例」として添付しています。
化学物質過敏症/香料過敏症に対応する質問例
◆横浜国立大学大学院環境情報研究院 中井里史教授 考案◆
以下のものを使用したり、触れたりした際に、発疹やじんましんを起こす、あるいは気持ちが悪くなるなど、体調がすぐれなくなることがありますか。(はい/いいえ で回答する)
①洗濯用洗剤
②衣料用漂白剤
③柔軟剤
④衣料用防虫剤
⑤芳香剤
⑥線香
⑦殺虫剤(スプレータイプ)
⑧文具(マジック、ノートなど)
⑨塗料
⑩家具・建材
※中井里史教授は、化学物質の使用に伴うヒトの健康リスク、生態リスク、ベネフィット評価に基づいて化学物質を管理するためのモニタリングと経済評価、ダイオキシン、PCBs、重金属、医薬品、室内汚染物質、及び生態リスク評価・管理等についてケーススタディを行っておられる研究者です。
◆ミラー博士(Dr.Claudia Miller)考案 QUEESI ◆
化学物質への反応を0から10までで11段階評価する(0=問題なし 5=中程度
10=最悪)① ディーゼル排ガス、エンジン排ガス
② タバコの煙
③ 殺虫剤
④ ガソリン(ガソリンスタンドで給油中に漂ってくる臭い)
⑤ 塗料 または シンナー
⑥ 掃除用品:消毒剤・漂白剤・浴室用洗剤・床用洗剤
⑦ 特定の香水、芳香剤、合成香料など
⑧ 液体タール または アスファルト
⑨ マニキュア、除光液、ヘアスプレー
⑩ 新しい家具:新しいカーペット、ビニール製の新しいシャワーカーテン、新車の内装
⑪ 上記以外にも暴露すると具合が悪くなる化学物質があればかき出して、11段階評価してください。
参考情報
◆内閣府 合理的配慮の義務化
障害者差別解消法が改正され、2024年4月1日から、事業者は、「利用者」としての障がい者に対する「合理的配慮を提供する事」が義務化されました。事業者には「学校」が含まれます。
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/pdf/gouriteki_hairyo2/print.pdf
◆カナダ労働安全衛生センター 職場の無香化にむけて
カナダでは、化学物質過敏症や香料過敏症は障害と認知されており、障害者の「働く権利」を尊重していまます。
下記は、カナダ労働安全衛生センターが策定した、職場に化学物質過敏症患者がいる場合、雇用者はどのような対応をすればよいのかを示した指南書の翻訳です。
2024年4月1日から事業者の義務となる「利用者への合理的配慮を提供する事」の具体策を考えるときの参考になるかと思います。