化学物質過敏症 記者会見
日 時 2023年4月28日(金)11時~12時
場 所 沖縄県庁記者クラブ
話 者 一般社団法人化学物質過敏症・対策情報センター 代表理事 上岡みやえ (おきなわSDGsパートナー団体)
記者会見 主旨
化学物質や香料による体調不良者
県立学校で634名、社会的対策の必要性
「県内の全ての公立学校において毎年4月に行われる健康診断の問診票に、化学物質過敏症に関する質問事項を追加してほしい」
という請願書の要望を通して、沖縄県立学校において、子どもたちの体調不良を、室内環境学的な視点から把握しようとする質問がなされました。
日本の学校・健康行政上、極めて画期的な事例です。
その結果、沖縄県立学校では、634名の生徒が、化学物質や香料によって体調不良になっていることが判明しました。本件は、琉球新報が取り上げてくださったこともあり、全国的な注目を集めています。
この機会に、報道関係者の皆様にも、推定患者数1000万人、知られざる国民病「化学物質過敏症」について知っていただきたく、記者会見を開催させていただきます。
化学物質過敏症を守ること = 全員を守ること
化学物質過敏症とは
MULTIPLE CHEMICAL SENSITIVITY LITERATURE REVIEW AND STATE OF THE SCIENCE, 2021
生活が破壊される
・化学物質過敏症が悪化すると、学ぶことも働くこともできなくなる
・発症年齢が低いほど、人生のすべてが奪われることになる
明日は我が身
持続可能な開発にむけた世界潮流SDGs
一社)化学物質過敏症・対策情報センターは、おきなわSDGsパートナー団体です
有害化学物質とは?環境汚染とは?
Pharmacokinetics of toxic chemicals in breast milk: use of PBPK models to predict infant exposure
Exposure to toxic elements via breast milk
Heavy Metals in Breast Milk: Implications for Toxicity
Global Perspectives in Breast Milk Contamination: Infectious and Toxic Hazards
Heavy metals (lead, cadmium and mercury) in maternal, cord blood and placenta of healthy women
Human Fetal Exposure to Triclosan and Triclocarban in an Urban Population from Brooklyn, New York
画像:環境省
有害物質を取りこむルート「吸う」
食べ物の5倍以上の空気を吸っている!
ヒトは、1日に、1000mlのペットボトル1万本の空気を吸っています。重さでは10キロ以上になるそうです。
ヒトは、1日に2キロの水や食べ物を摂取しているといわれます。ヒトが1日に吸う空気の重さは、飲食の5倍に相当します。
吸い込んだ空気は肺を通して血液中に入りこみます。血液は数十秒のうちに体内を一周します。
(左グラフ)『住まいと人体-工学的視点からー』 村上周三 臨床環境医学第9巻第2号
有害物質を取りこむルート「飲む」「食べる」
https://www.wwf.or.jp/file/20190612_oceana01_1.pdf
有害物質を取りこむルート「さわる」
化粧品やパーソナルケア製品の多くに、皮膚吸収されやすいマイクロカプセルやナノ粒子が配合されています。
The Average Woman Puts 515 Synthetic Chemicals On Her Body Every Day Without Knowing
有害化学物質
私たちの生活空間には、数えきれないほどの化学物質が氾濫しています。その多くが有害物質です。
身の回りにある、ありとあらゆるものに、有害化学物質が使われています。製造・使用・廃棄を通して、環境中に有害化学物質が放出され続けています。
環境省
大気汚染
大気汚染物質は
・道路由来
・パーソナルケア製品
に大別されることが、アメリカ海洋大気庁の調査によって判明しました。
コロラド州ボルダーという、人口密度の低い地域で行われた測定では、大気汚染物質の42%はパーソナルケア製品由来、58%は道路由来であることが示されました。
ニューヨークでは、大気汚染物質の78%がパーソナルケア製品由来、22%が道路由来でした。アメリカ海洋大気庁:NOAA Research News
コロラド州ボルダー
室内空気の汚染
有害化学物質は、ごく普通の生活空間に存在しています。
室内の空気汚染は、大気汚染の2~5倍になると試算されています。大気の500倍以上の汚染が確認された家も存在します。外の空気より、室内の空気のほうが有害である可能性が高いのです。
人工香料:有害なプラスチックとナノ粒子
高残香性の柔軟剤
香り成分は、有害なプラスチックと有害ナノ粒子でできている
マイクロカプセル技術によって香りが強く長く持続するようになった柔軟剤は、衣類・寝具・カーテンをナノサイズのプラスチックと有害化学物質で汚染し、河川と海、ひいては飲料水のプラスチック汚染を加速させています。
マイクロカプセルとは
カプセルの素材:主にプラスチックが使われている
カプセルの中身:ナノサイズの香料、医薬品、インクなどのナノ粒子
洋服を叩いたり触ったりするとカプセルが壊れ、香料成分が放出される
衣類の繊維に付着したマイクロカプセルの写真
画像:Microencapsulation of Perfumes For Application in Textile Industry
化学物質の危険有害性
沖縄県では、水のPFOA/PFOS汚染が大問題になっていますが、PFOA/PFOSと同じくらい危険な物質が「空気中」には数えきれないほど存在していることは、無視され続けています。
PFOA:ペルフルオロオクタン酸
厚生労働省:職場のあんぜんサイト PFOA:ペルフルオロオクタン酸
PFOS:ペルフルオロ(オクタン-1-スルホン酸)
厚生労働省:職場のあんぜんサイト PFOS:ペルフルオロ(オクタン-1-スルホン酸)
トルエン
接着剤・塗料・インキ・溶剤・排ガス・染料・香料・甘味料・医薬品
厚生労働省:職場のあんぜんサイト トルエン
キシレン
染料、有機顔料、香料、可塑剤、医薬品
厚生労働省:職場のあんぜんサイト キシレン
化学物質の複合的影響:プールから毒ガス!?
例えば毒ガスとして使用される「塩化シアン」が、大勢の人が利用するプールの水から検出されています。その原因は、プール内で放尿する人が多いこと。尿の成分と、プールの消毒薬「塩素」が化学反応を起こした結果、毒ガス「塩化シアン」が生成されるのだそうです。
出典:ケムステニュース 2015.7.10
指定難病を発症し、医療補助を受けている人は
40年間で90倍に
体外受精児、14人に1人
2019年に体外受精で生まれた子どもは過去最多の6万598人だったことが、日本産科婦人科学会のまとめでわかった。18年より3619人増加。厚生労働省の統計では19年の総出生数は86万5239人で、14・3人に1人が体外受精で生まれたことになる。
体外受精は1回あたり平均50万円と、患者の負担が課題だ。体外受精や顕微授精などを対象に、公費から上限30万円の助成金を出す制度があるが、政府は2022年度から体外受精などの不妊治療に対し、公的医療保険の適用をめざしている。
朝日新聞デジタル 2021.9.17
受理番号 :第4号
付託委員会:文教厚生委員会
受理年月日:令和3年11月26日
付託年月日:令和3年12月8日
件名 :化学物質過敏症に関する請願
提出者 :一般社団法人 化学物質過敏症・対策情報センター 上岡 みやえ
紹介議員 :翁長 雄治
【要旨】
化学物質過敏症は、ごく微量の化学物質に反応して体調不良を起こす疾病であり、発症のきっかけ、症状及びその度合いは個人差が大きいことが特徴である。化学物質過敏症が悪化すると、学校へ行くことも働くことも困難になる。肉体的苦痛はもちろんのこと、周囲の無理解による精神的苦痛、生活が破壊されていく恐怖、経済的な困窮、将来に対する不安感などは、筆舌に尽くし難い。
2015年に発表された疫学調査によると、化学物質過敏症の有病率は成人の7.5%に上り、子供の発症者も増えている。しかし、この病について知る医療従事者は少なく、社会的認知度も低い。化学物質過敏症の診断書を書ける医師は国内に数名しかおらず、不適切な処置により体調を悪化させている人が多いことが懸念されている。化学物質過敏症を発症させない、悪化させないために、社会的対策を講ずる必要がある。
【記】
1 県のホームページに化学物質過敏症の情報を掲載すること。ポスター・チラシを作成し、県内の保健所、役所及び公立病院に掲載・配布すること。
2 県内の全ての公立学校の養護教諭向けに、化学物質過敏症の勉強会を開催すること。
3 県内の全ての公立学校において毎年4月に行われる健康診断の際に、教員及び保護者向けに化学物質過敏症の説明文書を配布すること。
4 県内の全ての公立学校において毎年4月に行われる健康診断の問診票に、化学物質過敏症に関する質問事項を追加すること。
5 県内の全ての公立病院において、化学物質過敏症の診断書を発行できるようにすること。
【解説】
1 県のホームページに化学物質過敏症の情報を掲載すること。ポスター・チラシを作成し、県内の保健所、役所及び公立病院に掲載・配布すること。
➢ 沖縄県と那覇市の公式サイトには化学物質過敏症のページが追加されました。感謝。那覇市保健所ではポスターを作成くださいました。
大きな前進ですが、化学物質過敏症について知る人が増えたとは言い難い状況です。
2 県内の全ての公立学校の養護教諭向けに、化学物質過敏症の勉強会を開催すること。
3 県内の全ての公立学校において毎年4月に行われる健康診断の際に、教員及び保護者向けに化学物質過敏症の説明文書を配布すること。
4 県内の全ての公立学校において毎年4月に行われる健康診断の問診票に、化学物質過敏症に関する質問事項を追加すること。
2・3・4
子どもたちに安全な学習環境を提供するためには、養護教諭、教員、保護者に向けて化学物質過敏症についての説明を継続することが効果的です。カナダの労働安全衛生局は、化学物質過敏症患者を守り、共生していくにはどうすればよいかという指針を提供しています。カナダやアメリカでは、企業や大学が、化学物質過敏症の社員を守るための取り組みを始めています。日本では化学物質過敏症患者は1000万人と推定されています。その多くが自覚なき患者です。知られざる国民病ともいえます。
増え続ける化学物質過敏症患者に着目することで、埋もれた患者をすくいあげることができるとともに、環境汚染物質と体調不良との相関性への理解を広めていくことができます。
5 県内の全ての公立病院において、化学物質過敏症の診断書を発行できるようにすること。
診断書がないために、職場や学校で窮地に立たされる人が激増しています。
化学物質過敏症は、診断基準も治療法も確立されていませんが、日本でも海外でも、化学物質過敏症の診断書を発行している医師はおられます。
厚生労働省や専門家と協力しあって、診断基準を発行できるように進めていただきたいです。
※「化学物質過敏症に関する請願」は、2023年4月現在、沖縄県議会に設置されている「文教厚生委員会」にて<継続審査中>です。
健康診断問診票
化学物質過敏症・対策情報センターが2021年11月に提出した「化学物質過敏症に関する請願」を受けて、翌2022年、県立学校の健康診断問診票に「化学物質や香りで体調が悪くなったことがある」という一行が追加されました。
毎年必ず実施される学校の健康診断のときに配布される<健康問診票>に、「化学物質や香りによって具合いが悪くなったことがある」という発想や視点が導入されることの意義は大きいです。
この質問に対して、県立学校634名の生徒が<イエス>と回答しました。
これを受けて、沖縄県教育委員会は「香りで悩む人がいることへの配慮」を呼びかけてくれました。
大きな前進ではありますが、請願書では「県内の全ての公立学校」にて化学物質過敏症に関する質問事項を追加することを要望しています。
環境汚染物質によって体調不良をおこしている児童を見つけ出すためには、「県内の全ての公立学校」にてよりくわしい問診票をとりいれていくことが必要です。
請願書には、一流の専門家が考案した下記問診票を「質問例」として添付しています。
化学物質過敏症/香料過敏症に対応する質問例
◆横浜国立大学大学院環境情報研究院 中井里史教授 考案◆
以下のものを使用したり、触れたりした際に、発疹やじんましんを起こす、あるいは気持ちが悪くなるなど、体調がすぐれなくなることがありますか。(はい/いいえ で回答する)
①洗濯用洗剤
②衣料用漂白剤
③柔軟剤
④衣料用防虫剤
⑤芳香剤
⑥線香
⑦殺虫剤(スプレータイプ)
⑧文具(マジック、ノートなど)
⑨塗料
⑩家具・建材
※中井里史教授は、化学物質の使用に伴うヒトの健康リスク、生態リスク、ベネフィット評価に基づいて化学物質を管理するためのモニタリングと経済評価、ダイオキシン、PCBs、重金属、医薬品、室内汚染物質、及び生態リスク評価・管理等についてケーススタディを行っておられる研究者です。
◆ミラー博士(Dr.Claudia Miller)考案 QUEESI ◆
化学物質への反応を0から10までで11段階評価する(0=問題なし 5=中程度
10=最悪)① ディーゼル排ガス、エンジン排ガス
② タバコの煙
③ 殺虫剤
④ ガソリン(ガソリンスタンドで給油中に漂ってくる臭い)
⑤ 塗料 または シンナー
⑥ 掃除用品:消毒剤・漂白剤・浴室用洗剤・床用洗剤
⑦ 特定の香水、芳香剤、合成香料など
⑧ 液体タール または アスファルト
⑨ マニキュア、除光液、ヘアスプレー
⑩ 新しい家具:新しいカーペット、ビニール製の新しいシャワーカーテン、新車の内装
⑪ 上記以外にも暴露すると具合が悪くなる化学物質があればかき出して、11段階評価してください。
※ミラー博士(Dr.Claudia Miller)は、 TILT(Toxicant‐Induced Loss of Tolerance: 有害物質が誘発する不耐症)研究者です。ミラー博士が共同執筆した論文はWHO(世界保健機関)のMacedo賞を受賞するなど、この分野における先駆者であり、世界トップクラスの研究者であり、QEESIという問診票の開発者でもあります。
医師がおこなった疫学調査によって、化学物質過敏症の有病率は成人の7.5%と判明しているのに、化学物質過敏症の社会的認知度は、極端に低いままです。これは、国民的危機といえるのではないでしょうか。
日本政府ならびに沖縄県が推進するSDGsには
SDGs3.9
2030年までに、有害化学物質並びに大気、水質及び土壌の汚染による死亡及び疾病の件数を大幅に減少させる
という目標が掲げられています。これを推進するには、生活環境中に存在する「有害化学物質」についての理解を深めていくことが欠かせません。
毎年必ず行われる健康診断のときに、上記のような質問をとりいれていくことを、積極的に支持する人が増えていかない限り、有害化学物質による体調不良者は増えていくばかりとなります。その先にあるのは、医療費増大、コロナ禍で経験したような医療機関のパンク、更なる人口減少、そして地球環境の破壊です。
公立病院で化学物質過敏症の診断書を発行してほしい
沖縄県議会2023年3月23日の文教厚生委員会では、化学物質や香りで体調不良になったことがある生徒が、県立学校だけでも634名いることをうけて、瀬長美佐雄(せながみさお)県議が、「県内すべての公立病院にて化学物質過敏症の診断書を出せるようにしてほしい」という5つ目の要望について「早急に対応いただきたい」と要求してくれました。
今のところ、「県内すべての公立病院にて化学物質過敏症の診断書を出せるようにしてほしい」という要望は、「標準化された診断基準が確立されていない」として保留されています。
診断基準が確立されていないのは事実ですが、化学物質過敏症の診断書が、国内外で発行されていることもまた事実です。
日本では、化学物質過敏症の成人有病率は7.5%です。診断基準がないために、無策のまま放置されている人、誤診されて体調を悪化させている人は、増え続けています。
化学物質過敏症の診断基準を作成し、少なくとも公立病院では診断書を発行できるようにすることが急務です。