一般社団法人化学物質過敏症・対策情報センター

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化学物質過敏症~アメリカ人への大規模調査


What initiates chemical intolerance? Findings from a large population-based survey of U.S. adults (2023)  「化学物質不耐症を発症させる要因: 米国成人を対象とする大規模調査」 という論文の一部抜粋です。要約と結論の部分を翻訳しています。

 


翻訳文責:
一社)化学物質過敏症・対策情報センター
代表理事 上岡みやえ

 


■要約■

 


背景
世界的にみられる「TILT( Toxicant‐Induced Loss of Tolerance:有害物質が誘発する不耐症 )」と呼ばれる疾病には、「 2 段階理論」が提唱されています。

 

第1段階
・大量の有害物質に、一度だけばく露する
・あるいは、少量の有害物質に、継続的にばく露する
第2段階
以前は何ともなかった空気中の化学物質、食品、食品添加物、薬物によって症状が出る。


最近まで、観察される症状を説明できる生物学的メカニズムは知られていませんでした。

私たちは、2021年、マスト細胞が関与する 有害物質が誘発する不耐症(TILT)について、研究可能かつ説得力がある、 2 段階のバイオメカニズムを導き出しました。

 

ステージ 1:
マスト細胞の感作が始まる。

ステージ 2:
以前は問題なかったレベルのばく露によって、マスト細胞の脱顆粒が誘発される 。その結果、ヒスタミンなど多数の炎症性分子を含む数千のメディエーターが放出される。

 

 

【用語解説】

マスト細胞:

気管支、鼻粘膜、皮膚など外界と接触する組織の粘膜や結合組織に存在する、造血幹細胞由来の細胞。炎症や免疫反応などの生体防御機構に重要な役割を持ち、IgEを介したI型アレルギー反応の主要な役割を演じる細胞。

日本薬学会

 


本研究の目的は、有害物質が誘発する不耐症(TILT)の、一般的な開始剤(=化学反応を開始する物質)を特定することです。

 

 

調査方法

米国成人の人口構成比に基づいて、無作為に選んだ10981人へのアンケート調査を行い、健康状態、ばく露状況、抗生物質の使用、そして化学物質不耐症(CI)を引き起こす可能性がある要因などについて質問しました。

化学物質不耐症(CI) は、国際的に使用されている Quick Environmental Exposure and Sensitivity Inventory (QEESI)によって識別しました。

化学物質不耐症(CI)であると特定された人には、いつ化学物質不耐症(CI)になったのか、あるいは、いつ頃から症状が出始めたのかを思い出すよう依頼しました。

 

 

結果
アンケート回答者の20% が、有害物質が誘発する不耐症(TILT) だと識別される QEESI 基準を満たしており、そのうち約半数は、 1 つ以上の開始剤(=化学反応を開始する物質)を自己申告しました。

回答結果は、下記の通りです。回答数が多い順に列挙します。

カビ  (15.6%)
殺虫剤 (11.5%)
家のリフォーム/新築 (10.7%)
医療的処置/外科的処置 (11.3%)
火災/燃焼生成物 (6.4%)
インプラント (1.6%)

 

前立腺、皮膚、扁桃腺、消化管、副鼻腔を含む、感染症治療のために長期間使用された抗生物質は、TILT/CI (OR > 2) に、強い関連性を示しました。

 

 

議論

アンケート参加者には、有害物質が誘発する不耐症(TILT)を発症させた原因を深刻してもらいました。それを、下記 2 つのグループに大別しました。

 

クラス1:
化石燃料由来 (=石炭、石油、天然ガス由来)の有毒物質、その燃焼生成物、および/または 人工的な有機化合物全般 (例: 殺虫剤、インプラント、薬物、抗生物質)、揮発性有機化合物(VOC)

クラス2:
生物由来の有毒物質、例えば、カビやアオコからの粒子や揮発性有機化合物(VOC)



はじめて病院を受診した患者の 4 人に 1 人が、「医学的に説明のつかない症状 (MUS)」 に苦しんでいます。

かかりつけ医、神経内科、精神科、心理学、産業医学、アレルギー/免疫学の医師は、医学的に説明のつかない症状 (MUS)に苦しむ患者の鑑別診断に 有害物質が誘発する不耐症(TILT) を含めることを推奨します。

QEESI調査によると、米国成人の 20% が、化学物質不耐症(CI) とみなされる要件を満たしています。現代的な環境汚染物質は、マスト細胞を介して、化学物質不耐症(CI)の症状を引き起こし、悪化させていることに、早急に目を向けるべきです。

集合住宅、職場、医療現場、学校、礼拝所など、すべての公共の建物、文字通り、あらゆる建物の中の空気は、そこで使われる洗浄剤の成分や、そこに集う人々が使用するパーソナルケア製品の成分によって汚染されています。

否が応でも吸わされる空気が、有害物質が誘発する不耐症(TILT)を発症させる、あるいは悪化させる要因となっています。

環境汚染物質へのばく露量を減らすための政策や手法を構築することが必要です。

化石燃料は、肥満細胞の感作を介して、そして気候変動を介して、体の内外から、人間や他の動物種を攻撃しています。

 

 

■結論■

10,000人以上の米国成人を対象として、国際的に採用されているQEESIを用いて調査した結果、化学物質不耐症(CI)の有病率が20%にのぼることがわかりました。

化学物質不耐症(CI)と識別された人の半数は、発症原因が、特定の物質へのばく露によるもの、あるいは、複数の物質へばく露したせいだと考えていました。

長期におよぶ抗生物質投与歴は、CI/TILT と関連していました。特定の前立腺、皮膚、扁桃腺、胃腸管、および副鼻腔関連の抗生物質の使用も同様です。

CI/TILT に関連するという報告数が多い開始剤(=化学反応を開始する物質)は、カビ、家の新築やリフォーム、医療的処置、外科的処置、農薬でした。燃焼生成物やインプラントなどの報告数は多くはありませんでした。

オッズ比が最も高かった開始剤は、殺虫剤、豊胸インプラント、カビ、燃焼へのばく露です。次いで、リフォームと新築、外科的処置と医療的処置となっています。

全体として、男性より女性のほうが、QEESIのスコアが高い傾向がみられました。

本研究は、CI/TILT を引き起こす可能性がある開始剤の種類を解明し、それによって感受性が高い予備軍が、将来、 有害物質が誘発する不耐症(TILT)を発症させないで済む方法について、有用な洞察を提供しています。

医療的処置/外科的処置など、避けることが難しいものもあるかもしれませんが、農薬、家の新築やリフォーム、カビなどの汚染物質へのばく露を減らすことは可能です。回避行動は、今後、CI/TILTを防ぐ取り組みの焦点になるでしょう。

多くの患者が、さまざまな薬剤、インプラント、外科的処置などによって、有害物質が誘発する不耐症(TILT)を発症したと申告しています。

すべての患者が、BREESI/QEESIを使用して、化学物質不耐症(CI)のスクリーニングを受けること、可能な場合には、医学的あるいは外科的処置を受ける前に、開始剤への感受性を考慮することが重要です。

 

 

テキサス大学 クラウディア・ミラー博士

ミラー博士(Dr.Claudia Miller)は、TILT( Toxicant‐Induced Loss of Tolerance :有害物質が誘発する不耐症)研究者です。彼女が共同執筆した論文はWHO(世界保健機関)のMacedo賞を受賞するなど、この分野における先駆者、世界トップクラスの研究者です。TILTを判別するツールとして世界的に使用されているアンケート調査票・QEESI の考案者としても有名です。

【補足】
化学物質過敏症(MCS)には、多くの別名があります。病名が統一されていないことも、化学物質過敏症(MCS) の特徴です。一般に、有害物質が誘発する不耐症(TILT)は、化学物質過敏症(MCS) の別名とされています。