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超微粒子の健康への影響 Nature掲載論文 翻訳

 

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以下、Nature誌に掲載された論文The health effects of ultrafine particles 2020 の翻訳です。

 

超微粒子(PM 0.1)の健康への影響

 

 

要/Abstract

空気中に大量に存在する超微粒子(PM 0.1)は健康に害を及ぼします。それらは一般に肺から体内に入りますが、基本的にはすべての臓器に移行します。

微粒子(PM 2.5)と比較すると、超微粒子(PM 0.1)のほうが肺に長く滞留し、より多くの炎症を引き起こします。

粒子は、サイズが小さくなるほど表面積が大きくなります。この物理的特性によって、体内に流入した粒子のサイズが小さくなるほど、内皮に接する面積が大きくなり、毒性が高まります。

PM 0.1にさらされると咳が誘発され、喘息が悪化します。

金属熱は、一般的に、溶接作業によってヒュームにばく露した数時間後から、全身症状が現れてくる疾病です。金属熱は、PM0.1による肺炎症から始まる全身性疾患である可能性が高いです。

PM 0.1は、全身性炎症、内皮機能障害、および凝固の変化を引き起こし、個人を虚血性心血管疾患および高血圧症にかかりやすくさせます。

PM 0.1は、糖尿病や癌にも関連しています。

PM 0.1は、嗅神経を上って脳に移動し、脳および自律神経機能障害を引き起こす可能性があります。

さらに、子宮内での曝露は、低体重児が生まれるリスクを高めます。

PM 0.1へのばく露源の多くは車の排ガスですが、ガーナの学生を観察調査したところ、ゴミ焼却炉の近くの家、蚊を減らすための電熱コイルが置かれた寝室、喫煙者のいる家、調理中のキッチンなどでのばく露量が多いことが示されました。

PM 0.1 は、ばく露源が点在しているうえ、短時間のうちに吸収されるため、被験者のばく露量の変動が大きく、一般的な人口調査をかく乱させます。

PM 0.1 の世界基準が存在せず、測定もなされていないため、正確な調査を行うことは困難です。

PM 0.1が健康を害する可能性は高いですが、多くの病気に対する、正確な作用機序は解明されていないため、さらなる研究が必要です。


ントロダクション

大気汚染は、体内のほぼすべての臓器を害する可能性があり、主犯は粒子状物質(PM)といわれています。

PMは、粒子サイズによって分類されます。
PM10:直径 10,000 ナノメートル以下の粒子
PM2.5:直径  2,500 ナノメートル以下の粒子
PM0.1:直径  100  ナノメートル以下の粒子

PMは「微粒子」と呼ばれますが、PM0.1以下の粒子は「超微粒子」として区別されます。

健康への影響は、PM粒子が細い気管支と肺に、どのように入り込んでいくのかによって異なってきます。

PM0.1は、そのサイズからナノ粒子とも呼ばれますが、研究者の多くは「ナノ粒子」という言葉を、制御された工業生産によって生成された100nm以下の粒子に限定して使用しています。

超微粒子は、たいていの場合は大気中に分散しています。

超微粒子は、森林火災、海のしぶき、ウイルスなど、自然界にも見られますが、人工的な排出源は、車両や発電所、喫煙などの燃焼プロセス、プリンターのトナーなどの工業製品です。

これらの粒子は、燃焼によって生成されたイオンとガス状分子の合体によって形成される場合があり、多くの場合、酸性および塩基性イオンまたは他の荷電種が結合して、より安定した分子または塩を形成します。

このプロセスは通常、水性酸化に依存します。このことが、1952年のロンドンで、硫酸塩濃度の高い霧が発生したこと、呼吸器を害した人の症状、湿度の影響などの説明たりうるかもしれません。

PM0.1 が合体して、PM2.5 となります。

異なるサイズのPM粒子が混在しているため、その影響は重複します。

質量を考慮に入れることで効果を区別できますが、PM10 には、このサイズ以下の微粒子がすべて含まれるため、超微粒子と同様の影響があると考えられています。

PM10とPM2.5は質量で測定され、PM0.1は粒子数で測定されます。

 

 

子の数

農村部の大気中のPM0.1の標準的濃度は 2610 / c㎥ 、路傍の濃度は48,180 / c㎥、世界の平均濃度は10,760 / c㎥です。

PM0.1 の多くは、より大きな粒子への融合と大気拡散によって急速に減少します。その結果、道路や工場の近くに局所的に集積し「ホットスポット」が生じます。

PM0.1の粒子数が、合体することで急速に減少するにもかかわらず、長期間空中に浮遊し続け、他の大陸に移動する可能性があることは、相反する現象です。

排ガス中のピーク濃度は、路傍近くで発生し、これらの濃度は多くの場合、バックグラウンドの10倍以上高くなります。排ガスから 500メートル離れると、バックグラウンドに戻ります。

PM0.1 の濃度は、湿度の高さ、低空の気流、ディーゼル車の数、季節、車の停止状態からの加速度合いなど、さまざまな条件と相関しています。

燃料とエンジンの技術が向上し、触媒コンバーターが用いられるようになると、自動車の排気ガスから発生するPMの質量と一酸化炭素(CO)は減少しました。ところが、PM0.1の数と毒性は増加してしまいました。

職業上のばく露、特に溶接作業や高炉の運転など、燃焼させる現場、高温になる現場でのばく露量が大きくなる可能性があります。

PM0.1の最高濃度は、溶接施設、機械工場、基礎金属産業、交通関連の職業、およびレストランで見られ、0.7〜4.7×10(-6乗)の濃度では、バックグラウンドレベルの60〜450倍になりました。

粒子サイズが小さくなるほど、PM0.1 の大きさに近づくほど、粒子の数は増えていきます。

中国の瀋陽で行われた研究では、粗い粒子(PM10-2.5)は、総粒子数の0.1%未満を占めているにすぎませんでした。

空気中に存在する粒子の重さが10µg / ㎥の場合、これを粒子数に換算すると、20 nmサイズの粒子では2400000個/ ㎤ですが、2.5 µmサイズの粒子では1個/ ㎤ です。

粒子の「数」と「総表面積」は重要なパラメータですが、PM10とPM2.5を用いた質量測定では、PM0.1 を正しく計測できません。そのため、PM0.1の粒子数は、粒子数換算によって推定することになります。

PM0.1 の粒子数は、アウグスブルク、ヘルシンキ、ストックホルムでは、季節と場所によって10,000〜11,000 粒子/㎤の範囲で変動するといわれていましたが、冬には濃度がほぼ2倍(10,000~20,000 粒子/㎤)になること、夏の濃度はその約半分(5000~6000粒子/㎤)であることが、ヨーロッパの研究によって示されました。

大気汚染が深刻なローマとバルセロナの、PM0.1の年間平均濃度は、それぞれ43,000粒子/㎤以上、39,000粒子/㎤以上でしたが、冬の濃度は100,000粒子/㎤でした。

この研究では、一日の間での変動、曜日による変動も報告されました。ほとんどの場所で、午前7時から午前10時の間が、1日のうちのピークでした。日曜日は平日の濃度の約2/3でした。

季節や場所による粒子量の変動が大きく、ばく露量が流動的であることから、モニタリングも、健康への影響の推定も、基準設定も、簡単にはできません。

1年を通しての、PM0.1 の1時間平均のばく露量は、PM0.1が急速に減少したり分散したりするため、PM2.5よりも偏りと広がりが大きいという点で、PM2.5のばく露量と同じにはなりません。

PM0.1の量が日中に増えるのは、車両からの排出量が多いためです。

PM0.1とPM2.5の相関性は低いものの、粒子数と質量比の比率は、道路沿いで最も高く(PM0.1が多い)、汚染された都市で最も低く(PM2.5が多い)なることは判明しています。

PM2.5が減少したとしても、PM0.1が大きく減少することはありません。

 

 

PM0.1の吸収と保持

呼吸を通して体内に流入してきた、直径10µm以上の粒子の多くは、鼻咽頭膜に影響を与えます。

5〜10 µmの粒子は、通常、気道に着地し、肺胞マクロファージと肺リンパ管によって除去されます。

1〜2.5 µmの範囲の粒子は、通常、小葉中心性肺気腫で一般的に見られるように、最大​​の蓄積と組織破壊の部位である終末細気管支に到達します。

1 µm未満の粒子は空中に長く留まり、肺胞にまで簡単に到達します。ほとんどのPMサイズの物質は、細胞に取り込まれる可能性がありますが、PM 0.1は、細胞壁の脂質二重層を介した拡散により、肺胞上皮細胞を越えて細胞内を移動します。

外来物質を取り込むのは食細胞だけではありません。すべての細胞は、老化した細胞、損傷した細胞、または正常な細胞の細胞断片を吸収し、分子材料を交換し再利用します。

アポトーシスを起こして断片化した細胞(細胞外小胞と呼ばれることもある)は、PM0.1が付着しやすい箇所です。

in vitroモデルでは、プラス帯電したPM0.1は、マイナス帯電したPM0.1よりも20〜40倍細胞に浸透しやすくなることが示されています。

この結果は、実験に使用された細胞にしか現れない可能性はあるものの、表面電荷について無視するわけにはいかないことを示唆するものです。

PM0.1の特性として重要なのは、単位質量あたりの表面積が増大することによって、吸着物質が大量に運搬される点です。

PM0.1には、多種多様な化合物が付着します。これらの化合物が、毒性を発揮する可能性があります。しかし、吸着量の変動幅が大きいため、PM0.1 を特定の条件に関連づけることが難しいのです。

アスペクト比、帯電状態、表面反応性、溶解性、疎水性、極性、凝集状態、あるいは生体組織との相互作用によって活性酸素などを生成するなどの特性は、毒性を決定する重要な要因です。

肺胞に侵入するPM0.1は、界面活性剤に凝集するため、粘膜毛様体クリアランスのメカニズムを回避します。

 

粘膜毛様体クリアランス

気管及び気管支の内腔麺は杯細胞が分泌する粘液で覆われている。この粘液は、繊毛細胞によって口腔側に送り出される。

 

動物の肺における同一の結晶構造、沈着負荷、および条件の二酸化チタン(TiO2)粒子の保持半減期は、250 nm粒子で170日、20nm粒子で500日であると報告されました。

粒子径が小さくなるほど、より強く、より持続的な炎症を引き起こし、より多くのタイプⅡ細胞増殖、マクロファージ障害、初期の間質性・線維性の病巣が観察されました。

粒子径が小さくなるほど、肺の間質細胞と末梢細胞に侵入しやすくなりました。

安全な添加物として、食品、歯磨き粉、ローションなど、多様な家庭用品に配合されている酸化チタン(TiO2)は、粒子径がPM0.1 程度である場合には、複数の毒性が発現します。

 

 

康への影響

PM0.1が、最初に作用する部位は肺です。

肺の表面積は、光学顕微鏡で1 µmの探針(測定や実験などのために、試料に接触または挿入する針)の線形切片を測定することによって、100㎡ 以上になると推定されています。

切片を採取する探針が小さくなるほど、表面積の推定値が大きくなることから、表面がでこぼこした細胞は、表面積が大きくなると考えられます。 

PM0.1 サイズの探針に対する肺の表面積は、光学顕微鏡の推定値よりも、桁違いに大きくなります。ワイベルの「ウェールズの海岸効果」といわれます。

PM0.1 は、有毒な化合物となって、いとも簡単に肺表面に到達します。

PM0.1 化合物は、肺の血管やリンパ内を、可動細胞に付着して、あるいは、そのままの状態で、遠方の臓器に到達して直接的な害を与える他、肺とその他の臓器へ炎症性メディエーターを拡散します。

PM0.1より大きなサイズのPM物質は、肺から離れた臓器には到達しないため、PM0.1 化合物こそが、全身毒性の主原因だと考えられています。

PM0.1は、他の臓器に到達しやすいことに加えて、細胞モデル、動物モデルの双方において、より多くの毒性を発揮します。

たとえば、同じように溶解性も毒性も低い物質だとしても、PM2.5よりPM0.1のほうが、マウスの肺の炎症度合いは重くなります。

PM0.1の毒性が強くなる理由には、少量かつ大きな粒子よりも、大量かつ小さな粒子のほうが、肺胞のマクロファージへのストレスが増すことも含まれます。

このことは、クリアランス値(腎臓などによる排泄能力の大きさ)が粒子サイズに左右されることの論拠にもなります。

粒子表面の有害物質による炎症度合いや、細胞表面との相互的作用も、粒子サイズが小さくなるほど大きくなります。

集団研究の際に忘れてはならないのは、PM2.5が即効的影響を及ぼすのに対し、PM0.1は遅延的影響を及ぼすことと、死亡率を悪化させることです。

PM0.1への急性ばく露に関する疫学研究の多くは、ばく露と症状との間に1〜5日の時間差があることに配慮をしています。

PM2.5やPM10に比較すると、PM0.1 の健康への長期的影響についての情報は不足しています。PM0.1 については、国際基準がなく、国内での調査もなされていないからです。

大気中のPM0.1 を測定すること自体は簡単ですが、測定機器が規格化されていないため、測定方法も手順も様々です。

ばく露状況には個人差が大きく、大気汚染、特にPM0.1の影響は目立たないため、集団基準を設けることは困難です。

一般に、医師も市民も、大気汚染が疾病原因になっているとは考えていません。オフィスのプリンターによるばく露など、PM0.1 の存在を意識している人は滅多にいません。

PM0.1 研究を牽引してきたのは、ナノ粒子開発です。サイズ、形状、成分ともに、精度の高い超微粒子が製造されています。

人工ナノ粒子の生物学的影響についての研究は、精度が高くなります。人工ナノ粒子ならば、動物やボランティアの細胞や組織への塗布が容易です。

たとえば、線維性あるいはチューブ状のナノ構造物質をたくさん摂取すると、間質性肺炎や癌の発症リスクが高まる恐れがあります。

単層ナノチューブは肺の奥深くに蓄積され、炎症や線維性反応を誘発する可能性があります。

先行研究においても、ナノ粒子の種類と性質に応じて、細胞内に様々な影響がもたらされることが報告されています。

 

 

PM 0.1 の影響が大きいと思われる疾患は下記の通りです。大気汚染が、個別の器官系へもたらす影響について検証されています。

 

吸器

大気汚染物質は、最初に呼吸器系に侵入してきますが、胃腸管を通過したPM0.1 は、動物やヒトの結腸生検で、免疫反応を刺激する可能性があります。

西洋型の食事では、ヒトは1日に1兆個以上の超微粒子を摂取しています。

一般的に、健康な皮膚は、物質を吸収しないと思われています。

湿疹のある子供が、多環芳香族炭化水素を多く含むPM0.1に短期間ばく露すると、DNAが酸化したときの副産物「8-ヒドロキシル-2-デオキシグアノシン」が増加します。

 

部分ケア用品に使われる亜鉛や酸化チタンの粒子は、特に水溶性あるいは脂溶性の浸透促進剤によって、健康な皮膚に吸収されることがわかっています。


属ヒューム熱とポリマーヒューム熱

微粒子を吸入すると、大量の活性酸素が生成され、炎症が起きます。、PM0.1 が発生します。金属ヒューム熱は、溶接作業のときに発生するPM0.1 によって引き起こされる疾病の典型です。

溶接作業の4〜8時間後に感じる、倦怠感、発熱、悪寒、関節痛、筋肉痛などを金属ヒューム熱といいます。

胸部X線写真には共通性がなく、金属ヒューム熱の症状は、治療しなくても軽減していきます。

金属ヒューム熱の原因物質として、酸化亜鉛(ZnO)、銅、マグネシウム、カドミウムが特定されています。

ポリテトラフルオロエチレン(テフロン®)などのフッ素化ポリマー製品を吸い込んだときに、金属ヒューム熱と同様の症状を呈するのがポリマーヒューム熱です。

ポリテトラフルオロエチレンを加熱すると、ラットに毒性のある超微粒子(直径の中央値26 nm)が発生します。大量にばく露すると、出血性肺炎を起こして死亡します。少量のばく露でも、機能低下症を引き起こします。

短期間であっても、ディーゼル排ガスなど大量のPM0.1 にばく露すると、肺に炎症が起きます。

呼吸器の粘液線毛には、侵入してきた粒子を排出するという重要な役割があります。しかし、クリアランス値としては、高密度のPM0.1が気道に与える影響を相殺できるほどではありません。

多くの肺が、粘液線毛の機能を低下させる状態になっています。

喫煙者や気道感染症の人に多い毛様体機能障害は、大気汚染に対する抵抗力を弱めます。喘息の症状である気管支痙攣や咳は、刺激物を吸い込んだときの一般的な反応ですが、喘息患者の感受性が上がっていることを示している可能性があります。

粒子状の大気汚染は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の悪化および死亡原因死として知られていますが、これにPM0.1がどのように関与しているのかについては、まだ分かっていません。

スコットランドの研究では、PM0.1がPM10 よりも有害であることまでは突き止められませんでしたが、他の研究では、細菌の細胞外小胞状の生物学的PM0.1が、炎症と気腫を引き起こすことが報告されています。

環境中のPM0.1へのばく露することと、咳、最大呼気量の減少、医薬品使用量の増加、喘息患者の入院は、関連しあっています。

PM0.1の増加と、呼吸器疾患による通院回数の間にも相関性がみられます。

ほとんどの研究では、PM0.1の増加に伴って喘息症状を呈する人が増えることが報告されています。

しかし、100万人以上の成人を対象とするトロントの研究では、PM2.5や二酸化窒素などの物質の共変量を調整した後では、PM0.1への長期ばく露と、呼吸器疾患とは無関係でした。

オーストラリアの比較研究においても、粒子数単独では、呼吸器症状、喘息、肺機能との間に相関性があるとはいえませんでしたが、アトピー患者の炎症マーカーとの間には相関性がみられました。

 

血管

研究の多くは、上昇したC反応性タンパク質(CRP)、循環多形核白血球、血小板、フィブリノーゲン、血漿粘度および他のマーカーによって測定されるように、PMが全身性炎症および虚血性心血管疾患の素因となる凝固変化を引き起こすことを示しています。

PMは、内皮機能障害、血管炎症、およびアテローム性動脈硬化症を促進します。

過去の研究では、この影響は主にPM2.5に起因するとされていますが、PM0.1がこれらの要因すべてに主要な役割を果たしていることを示す文献が増えています。

近年の研究のほとんどが、PM0.1が、これまで考えられてきたよりも、はるかに大きな破壊力があることを示しています。

PM0.1にばく露すると、心拍変動の増加、交感神経バランスの喪失、炎症、止血機能の変化などを引き起こします。

PM0.1へのばく露が短時間だったとしても、心臓に影響を及ぼす可能性があります。

中年の、メタボリックシンドロームの被験者に、PM0.1に2時間ばく露させると、心電図の変化、血中プラスミノーゲンとトロンボモジュリンの減少、CRPと血清アミロイドAの増加などが引き起こされました。

研究の多くは、PM0.1への慢性的ばく露が心臓病に関連していることを示しています。

オランダに住む33,831人を対象とした研究では、PM0.1への長期ばく露(土地利用回帰で測定)が、心血管疾患、心筋梗塞、心不全のリスク増大などと関連性があることがわかりました。

1996年から2012年まで、トロント在住の成人を調査したところ、PM0.1へのばく露量が増えるほど、心不全と急性心筋梗塞の発生率が増加することが示されました。

PM2.5と二酸化窒素を影響を調整した後も同様の結果となりましたが、二酸化窒素そのものも、心不全発生率の増加との間に関連性がありました。

近隣モニタ​​リングにおいても、1年間にばく露した粒子の平均数が、脳卒中、虚血性心疾患、高血圧に関連していることがわかりました。

他の研究においても、PM0.1へのばく露による虚血性および血栓性脳卒中の増加、血圧の上昇、毛細血管の機能悪化が観察されましたが、PM2.5およびPM10では、心臓血管の疾患との関連性は見られませんでした。

粒子サイズは、総死亡率および心血管疾病による死亡率と関連性があり、粒子サイズが小さくなるにつれて相関性が高まります。

最も相関性が高かったのは、0.50 µmより小さいサイズのPMです。PM2.5以上の質量濃度との関連性は見られませんでした。

10〜50nmの粒子数が増えると、4〜10日後に、心血管疾患による救急搬送数が増えることも分かりました。PM0.1は、救急搬送数の7%以上を占めると報告されています。

30〜100nmの粒子では、質量濃度(単位体積の混合物に含まれる成分の質量)が小さいのに、即時的影響(2日以内)への強い相関性が見られました。

質量濃度との直接的影響が強いのは、1〜5 µmの粒子です。PM0.1と同じような遅延効果があります。

カリフォルニア在住の女性10万人以上を対象とした研究では、虚血性心疾患による死亡率は、PM2.5よりもPM0.1と強く関連していることがわかりました。

病状が安定している冠状動脈性心臓病の成人被験者に対して、2週間おきに実施された亜最大運動試験では、PM0.1が、> 0.1mVの心電図のST低下と関連していることを示しました。

研究者らは、PM0.1の影響がPM2.5とは無関係であることを発見しました。二酸化窒素も一酸化炭素も、心電図のST低下リスクとの相関性がみられましたが、粗い粒子(PM10–2.5)では、相関性はみられませんでした。

しかしながら、長期間PM0.1にばく露しているはずの空港労働者6515人を対象としたデンマークの研究では、未熟練労働者グループとの比較においては、虚血性心疾患や脳血管疾患との相関性は見られませんでした。

 

枢神経系

PMが、脳や神経へ与える影響については、多くの論文が発表されています。PM0.1が、脳および脳の発達に影響を与える機序についての動物研究も多数実施されています。

転座したPM0.1は、吸入後4時間から24時間の幅で、脳内に滞留します。

鼻に付着したPM0.1は、嗅神経を上って脳に移動します。

PM0.1のエアロゾルにばく露した動物は、7日経っても、脳内の嗅球への取り込み量が最大値のままでした。

動物の吸入試験では、嗅粘膜に沈着したPM0.1のうち、最大20%が嗅球に移動しました。

鼻粘膜から脳に直接的に移動するのは、血液脳関門を回避する経路といえます。ヒトの場合では、より直接的となる可能性があります。

可動性の高いPM0.1は、神経組織を直接的に破壊するだけでなく、自律神経にも影響をおよぼします。

PM0.1へばく露すると、ノルエピネフリンのクリアランスが減少するため、交感神経系の活動が増加します。これらのことは、オゾン(O3)への同時ばく露によって増加します。

PM0.1が脳の発達に及ぼす影響については、かなりの数の動物実験が行われています。

出生後、PM0.1にばく露した動物は、短期記憶障害、興奮毒性の可能性を高める皮質や海馬の変化、さらには、広範囲にわたる行動変化や、その他の神経学的影響をもたらす、長期的なグリア活性化を示します。

妊娠中のマウスの鼻腔内にカーボンブラックナノ粒子を投与すると、アストロサイトが長期的に活性化した子が生まれました。活性化の度合いは、カーボンブラックナノ粒子の用量によって変動します。

血管形成、細胞移動、増殖、走化性、および成長因子に関連する、多数の「mRNA」に変化がみられるため、著者らは、妊娠中にカーボンブラックナノ粒子にばく露することが、後年の健康に様々な影響を与える可能性があると推測しています。

他の動物実験では、PM0.1が、感情的行動、学習能力、神経伝達、自発的運動活動、および行動回避に影響を与えることが示されています。

ヒトでは、定期的な運動が、脳の認知と記憶を改善することが報告されていますが、その機序として、脳由来の神経栄養因子(BDNF)が上方制御されたことが考えられます。

そこで、被験者に、幹線道路沿いで約20分間サイクリングしてもらい、サイクリング前後のBDNFを測定しました。比較のために、PM0.1と、PM0.1より大きなPMを除去した室内でもサイクリングしてもらい、サイクリング前後のBDNFを測定しました。

PM0.1の平均値は、道路近くでは28,180粒子/ ㎠、空気をろ過した部屋では496粒子/ ㎠でした。

血清中のBDNF濃度は、空気がろ過された部屋ではサイクリング後に上昇しました。しかし、幹線道路沿いでは、サイクリングをしても上昇しませんでした。

 

 

大気汚染の健康への影響においては、子供はより脆弱です。大気汚染の影響は、子宮内でのばく露に始まり、生涯にわたって続く可能性があります。

妊婦がPM0.1にばく露した場合、特に交通量の多い道路から50メートル以内に住む女性では、低出生体重のリスクが高まります。

ガーナの研究では、61人の中学生を対象として、各人のばく露量を1日24時間10週間にわたってモニターしました。

ばく露量は、居住地や、学生の活動内容によって大きく異なりました。

最もばく露量が多かったのは、ゴミ焼却施設近くの家、寝室に蚊を駆除するための燃焼コイルが設置されている家、喫煙者のいる家、調理中のキッチンでした。

中国の珠江デルタ地域で、2週間にわたって学童(9〜13歳)をモニターした研究においても、ばく露量が最大値となるのは屋内でした。喫煙と蚊取り線香を使用している家でのばく露量が多いことが示されました。

これらの研究は、PM0.1の発生源が、常に予測可能であるとは限らないこと、道路交通のみに相関性があるわけではないことを示しています。

個々の生活環境と、偶発的なばく露は、疫学研究にとって、重要な意味があります。

農村地域に住む子供たちにとっての、PM0.1の主な発生源は、スクールバスからの排気ガス、なかでも古いディーゼル車である可能性があります。

スクールバスの内気をろ過すると、バス内の超微粒子の数が、大幅に減少することがわかっています。

子供たちが、校庭でバスを待っている間にも、PM0.1にばく露します。アイドリングエンジンは、運転時よりも多くのPM0.1を発生させるからです。


これらのばく露は、アイドリング防止を徹底させることで、減らすことができます。

電子タバコもまた、PM0.1の吸入源となっています。

電子タバコは、運搬物質(通常はプロピレングリコールとグリセロール)を加熱して、マイクロエアロゾルを肺に送り込みます。そして、ニコチンとともにPM0.1を脳に送りこみます。

電子タバコの高抵抗コイルと増加したグリセロールは、より大きな粒子を生成します。コイル温度が高くなると、より小さな粒子が生成されます。

電子タバコによって生成された粒子は、肺胞に沈着します。

 

尿病

大気汚染は、代謝機能の多くに影響を及ぼします。糖尿病などの代謝性疾患との相関性がみられます。

道路交通から発生するPM0.1と二酸化窒素への曝露は、高血圧と糖尿病のリスクを高めます。

糖尿病患者が、元素状炭素のPM0.1に2時間ばく露すると、心臓の変動が数時間続きました。

PM0.1は、自律神経機能障害を引き起こすうえ、糖尿病患者の耐糖能にも影響を及ぼします。

 

動物およびヒト細胞での研究の多くは、PMが変異原性および腫瘍形成性があることを示しており、粒子サイズが小さくなるほど、その能力が高くなるようです。

大気や沿道から採取したPM0.1には、多くの変異原性粒子が含まれていましす。

PM0.1は、マウスに腫瘍を発生させることが示されています。

最も強い腫瘍形成因子は、沈着した粒子の総表面積ですが、ばく露量、粒子の種類、そしてばく露時間も重要な因子です。

マウス実験では、大きな粒子の酸化チタンよりも、超微粒子サイズの酸化チタンが凝集するほうが、肺腫瘍が形成されやすいことがわかりました。

ナノ粒子の発がん性は、それらのアスペクト比と剛性に関連していました。

 

 

PM0.1が健康を害する可能性は大きいものの、疾病を発症させる機序については、正確なことはわかっていません。

PM0.1は、点源的に生成される一方で、ものすごい速さで拡散していくため、誰もが偶発的にばく露しています。そのため、一般的な集団研究をすることが困難です。

このことが、世界基準の策定も国内調査も進まない一因であるのは明らかです。

基準もなく、調査も行われていないため、測定のあり方も、測定機器や測定方法についても、標準化されにくいのです。

大気汚染は「静かな流行」です。そしてPM0.1は、汚染物質の中で、最も静かである可能性が高いです。

PM0.1は、これに付着してくる物質の毒性によって多様化するため、公的研究も一筋縄ではいきません。

色々な意味で、PM0.1研究は、大気汚染研究の最前線に位置しています。PM0.1研究についての理解が深まれば、PM0.1は、もっと容易に制御されるでしょう。

PM0.1は、他の大気汚染と同様に、回避可能かつ修正可能な健康リスクです。

汚染源をなくし、汚染を低減させることで、健康状態は早期改善されるはずです。より多くの研究がなされるべきなのは当然です。