一般社団法人化学物質過敏症・対策情報センター

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腸内細菌叢が人間の健康に及ぼす影響 翻訳

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海外では、腸内細菌が、人間の健康に大きく貢献していることが、広く理解されるようになってきました。


以下、Gastrointestinal tract 6: the effects of gut microbiota on human health 2019 「腸内細菌叢が人間の健康に及ぼす影響」の翻訳です。

 

 

翻訳文責:
一社)化学物質過敏症・対策情報センター
代表理事 上岡みやえ

 

 

 

腸内細菌叢(胃腸管内の微生物群集)の組成は、強力かつ多様な生理学的影響を有しています。それは、生物学的に有用な活性分子を合成し、免疫応答、行動、さらには気分を調節する役割を果たしています。

腸内細菌叢のバランスが崩れると「腸内毒素症」となり、何らかの疾患、不調、免疫不全へ移行するリスクが高くなります。

本稿は、消化管に関する6部構成シリーズの締めくくりとして、腸内細菌叢と体内での役割について説明するものです。

 



内細菌叢とは

人間の消化管の表面積を合計すると 250〜400 ㎡ ほどになります。(Thursby and Judge, 2017年)

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この面積が、微生物の付着ならびに定着にとっての表面基質となり、消化・吸収を促進します。

消化管の分泌物と、部分消化された食物が混在する場所は、栄養豊富な培地となるため、ここに浮遊し増殖する微生物は多数存在します。

消化管にコロニーを形成する微生物には、細菌、ウイルス、真菌、原生動物が含まれ、その数は100兆個以上、ヒトの細胞数の3倍から10倍になると推定されています。(European Commission, 2018)

腸内に寄生している微生物のゲノム数は、300万個を超えると考えられています。ヒトゲノム数23,000個とは比較にならない多さです。

 

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膨大な数のゲノム数を有する微生物群は、全体として「腸内細菌叢」と呼ばれます。腸内細菌叢は、腸内へ、数えきれないほどの代謝産物を放出します。それらはやがて腸壁に吸収され、全身へ運ばれます。

生物学的に活性な分子を放出する腸内細菌叢は、「超生物」と表現されることがあります。あるいは、宿主に対して、強力で多様な生理学的効果を及ぼすことから「第2の内分泌器官」ととらえることもできます。(Valdes et al, 2018)

総重量2kg と推定される腸内細菌叢は、最大の内臓・肝臓よりも重いのです。

大腸菌(E coli)などの細菌が、ビタミンK(血液凝固カスケードにおける重要な補因子)を合成するなど、重要な機能を果たしていることは古くから知られていましたが、腸内細菌叢と人間の細胞との間に、かくも複雑な相互作用があることが理解されはじめたのは、ここ10年程のことです。

今日では、微生物叢が、宿主を益する生物活性分子を作りだすだけでなく、免疫応答の調節にも密接に関与しており、宿主の行動や気分にも影響を与えていることが分かってきました。

特に注目されているのは、腸内細菌叢のバランスが乱れからくる「腸内毒素症」が、パーキンソン病、自閉症、肥満、糖尿病、自己免疫反応などの疾患や、体調不良の増加に関連しているという報告です。

 

内細菌叢を形成する微生物たち

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ヒトの消化管内に生息している微生物を特定しようとするときの課題は、標準的な微生物培養技術によっては、培養できない微生物が多いことでした。

しかし、ゲノム解析技術の登場によって、培養しなくても、微生物を迅速に同定することが可能になりました。

現在、腸内の「細菌」についての研究は増えてきていますが、「ウイルス」「真菌」についての知見はほとんどありません。

消化管内部には酸素の少ないところでは、嫌気性の菌の数が、酸素濃度に応じて好気性代謝と嫌気性代謝を切り替えることができるタイプの菌や、好気性の菌の数よりも圧倒的に多くなります。(Sekirov et al, 2010)

細菌には、2つの主要グループがあり、全体の65%を占める Firmicutes(LactobacillusやStreptococcus など)と、30%を占める Bacteroidetes(Bacteroides intestinalis など)が、胃腸管(図1)を支配しています。

残りの5%は、the proteobacteria (大腸菌など)や放線菌(ビフィズス菌など)などの原始的な細菌群で構成されています。(Yang et al, 2009)

すべての個体の腸内には、コロニーを形成している細菌が、500から1000種類あると推定されています。

集団研究では、腸内細菌叢は、個体間に大きなばらつきがあることが報告されています。

腸内細菌叢は、個体ごとに異なります。ヒト集団においては、最大で35,000種の腸内細菌が存在することが示されており、これまで知られていなかった新種が次々と発見されている途上です。(Barras, 2019)

 

  

ちゃんの腸内細菌叢

赤ちゃんは通常、最小限の細菌コロニーしか存在しない子宮の、無菌環境から生まれてきます。

自然分娩によって生まれた赤ちゃんは、膣の細菌叢に似た組成の腸内細菌叢を獲得し、乳酸桿菌などのグループが優勢となります。

対して、帝王切開で生まれた赤ちゃんは、母親の皮膚に定着している、コリネバクテリウムやブドウ球菌などが多い腸内細菌叢になります。(Dominguez-Bello et al, 2011)

細菌種の多様性は、一般に、年齢とともに増加します。環境との接触、特にさまざまな食品を食べたり、他の人や動物と触れあうことによって、様々な細菌種を獲得していくからです。

3才になるまでに、成人に近い腸内細菌叢が形成されます。どの国に住んでいるかによっても、微生物叢の組成は変わってきます。(Yatsunenko et al, 2012)

 

 

 

・小腸・結腸

腸内細菌の個体数は、腸内の各部位の pH の違いによって、大きく変動します。

当然ながら、強酸性の胃の中では、限られた種類の細菌しか生存できないため、微生物のコロニー形成は制限されます。

注目すべき例外は、Lactobacillus種と、胃潰瘍形成を促すヘリコバクターピロリ菌です。

同様に、トリプシン、キモトリピシン、腸のペプチダーゼなどの活性プロテアーゼ酵素は、小腸内の細菌増殖を抑制し、乳酸菌や連鎖球菌種が優勢となります。

図2に示すように、結腸は、細菌叢が最も多様な場所です。総重量2kg と推定される腸内細菌のほとんどが、結腸に生息しています。

結腸の細菌叢が多様なのは、水と塩の再吸収に特化するため酵素活性が低いからです。結腸の pH は、中性に近い酸性(pH5.5〜7.0)が好ましいとされています。

 

 

間の生理学への影響

※生理学:生物体の諸器官の働きを研究する、生物学の一部門

 

腸内細菌叢が、人間の生理学的プロセスに、どのような影響を与えているかについての研究は始まったばかりです。

この研究分野における問題は、腸内で見つかった主要な細菌種の多くが、培養困難という点にあります。

腸内細菌の生化学を調査し、人間の生理機能を調整している、腸内細菌の代謝産物を特定するためには、「培養」することが必要不可欠になります。

しかしながら、人間の生理学的プロセスに、腸内細菌叢が果たす役割については、他の有用な方法が見出されつつあります。

 

 

大腸の細菌叢は、自らの生命を維持するために、小腸から届く、部分消化された食物を主たるエサにしています。

腸内細菌叢は、食ベ物に含まれる炭水化物、脂肪、タンパク質成分の消化に、大きく貢献しています。

大腸に生息する細菌は、食物繊維を消化して、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩などの短鎖脂肪酸(SCFA)を生成するという、重要な機能を担っています。

プロピオン酸塩は、満腹分子として、空腹感の遮断に寄与する能力があると考えられています。

酪酸塩は、大腸を覆う悪性上皮細胞に細胞死(アポトーシス)を促すことで、大腸癌のリスクを軽減します。

腸内細菌叢が食物繊維を消化し発酵させることによって、無臭のメタン、二酸化炭素、水素などガスが大量につくられます。また、硫化水素などの刺激性のある臭気ガスも少量ながら生成されます。(Rowland et al, 2018)。

 

 

タミンの生合成

健康的でバランスのとれた腸内細菌叢は、体内で、葉酸(B9)、リボフラビン(B2)、ビオチン(B7)、コバラミン(B12)、ニコチン酸(B3)、パントテン酸(B5)、チアミン(B1)などの水溶性ビタミンと、ビタミンKなどの脂溶性必須ビタミンなどを生合成します。

人間の細胞や組織は、生命と健康の維持に必要な必須ビタミンを直接合成することができないので、腸内細菌が生合成するビタミン群と、食事に含まれるビタミン群を、うまく組み合わせて摂取しなくてはなりません。(Yoshii et al 2019; Leblanc et al, 2013)。

 

 

物代謝と相互作用

 

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生体異物とは、体内に存在するものの、体内で生成されたわけではない化学物質です。

具体的には、防腐剤・人工香料・甘味料などの食品添加物、農薬、医薬品に含まれる薬効成分などの、環境汚染物質です。

生体異物の大部分は肝臓によって代謝されます。肝臓で分解された生成物は、胆汁に移行して糞便として排泄されるか、あるいは血中に移行して腎臓から尿として排泄されることになります。

腸内細菌叢が、いかに生体異物を代謝するのかは、今のところ十分には解明されていませんが、個体ごとに腸内細菌の組成が大きく異なることは、明らかになりつつあります。薬理学的には、腸内細菌の組成が薬物代謝のあり方を左右することを考慮せねばならなくなるでしょう。

この薬理学上の新しい研究分野は、pharmacomicrobiomics (新語。ファーマ・コ・マイクロバイオミクス)と名づけられています。(Das et al, 2016)

ヒトの腸内細菌のなかから一般的な細菌を76種抽出し、経口投与された271の薬物をどのように代謝するのかを調べたところ、271のうち176の薬物が、少なくとも1つの細菌種によって代謝されたことがわかりました。

腸内細菌が薬物を代謝するときは、副産物として有害物質が産生されるかもしれないと仮定されており、腸内に薬物代謝能力がある細菌を有しない人は、腸内細菌が産生する有害物質の影響を受けない可能性があります。(Zimmermann, 2019)

 

 

-腸-細菌-相関

 

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脳腸相関とは、腸と中枢神経系の間の、直接的・間接的な関係ならびに信号伝達を指します。

脳と腸は、双方向的なやり取りをしています。腸の生理機能は脳の影響を受け、認知や情動などの脳の機能は、腸の影響を受けます。(Carabotti et al, 2015)

腸内細菌叢に関する研究が進み、常在細菌叢が代謝する物質の「カクテル」が、腸管系と中枢神経系の両方の活動に影響を与えていることが明らかになってきました。

腸内細菌叢と神経系の複雑な相互作用は、脳-腸-細菌相関と呼ばれます。(Martin et al, 2018)

腸内細菌叢が生成する化学信号の多様さと、それらが関与する神経経路の複雑さのため、詳細についてはまだ分かっていませんが、最近、いくつかの重要な発見がありました。

腸内細菌叢の代謝物のうち、短鎖脂肪酸は、腸の神経内分泌細胞のホルモンの放出を刺激することがわかりました。

放出されるホルモンには、食欲を抑える「満腹ホルモン」ペプチドYY(PYY)や、満腹感を促進し、血中グルコースの増加にともなって、インスリン分泌を増やすグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)などがあります。(Farzi et al, 2018)

このことは、腸内細菌叢の不均衡(腸内毒素症)が過食と肥満を引き起こし、グルコースの恒常性が低下し、糖尿病を発症させる場合があることを示唆するものです。

 

 

疫調節

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腸にコロニーを形成する細菌は、病気や感染症への抵抗力を、直接的に左右しています。

母乳で育てられた赤ちゃんは、母親から抗体をもらうため、粉ミルクで育てられる赤ちゃんよりも、早い時期から病原体への抵抗力があるという点で、免疫学的に有利であることは、古くから知られていました。

ごく最近まで、母乳は無菌で微生物がいないと考えられていましたが、近年の研究によって、母乳には、腸と全身の健康を高めてくれる、乳酸菌やビフィズス菌などのさまざまな「友好的な」プロバイオティクス細菌(健康を促進する細菌)が含まれていることがわかってきました。(Ojo-Okunola et al, 2018)

自然分娩された赤ちゃんは、産道で、ヒトに友好的な細菌(主に乳酸桿菌種)を受け取ります。これに母乳に含まれる細菌が加わって、健康な腸内細菌叢が形成されていきます。

母乳は、病原性を有する細菌が、赤ちゃんの腸内でコロニー形成しないように働きかけているように見えます。

母乳で育てられた赤ちゃんは、体の全部位で炎症が起きにくくなるため、喘息やアトピー性皮膚炎などの炎症性疾患にかかるリスクが低減します。(Toscano et al, 2017)

母乳に含まれるオリゴ糖(短鎖)糖には、フルクタン(フルクトースの短鎖)が豊富に含まれており、乳酸菌やビフィズス菌などのプロバイオティクス細菌の成長を促します。

これにより、母乳で育てられた赤ちゃんの腸には、プロバイオティクス集団が多数維持されます。

 

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逆に、粉ミルクで育てられた赤ちゃんの腸では、潜在的な病原性を有するエンテロコッカス種などの腸内細菌が優勢になるようです。(Lazar et al, 2018)

赤ちゃんは、やがて乳離れして固形物を食べるようになります。より多くの細菌種にばく露することで、腸内環境も成熟していきます。

免疫系は、腸内に定着した細菌を「自己」の延長とみなすため、これを攻撃することはありません。(Lazar et al, 2018)

腸内細菌叢と免疫系の間で、どのようなやりとりがなされているのかは、まだあまりわかっていません。

明らかなのは、腸内細菌叢が正常であれば、免疫システムは正しく機能し、炎症とは無縁でいられることです。

逆に、腸内細菌の数が減少すると、潜在的な病原性を有する細菌種が増えて、免疫系が正しく機能しなくなり、炎症性の障害がおきたり、免疫不全となるリスクが高まることも判明しています。(Cianci et al, 2018)

 

 

内毒素症


腸内細菌の「エンテロタイプ:腸内に常在する3種の細菌の比率によって区別される腸内細菌叢の型」は、個体ごとに大きく異なります。

腸内毒素症は、微生物叢の数あるいは多様性がアンバランスになった状態として定義することができます。

腸内細菌叢の研究はスタートしたばかりなので、腸内毒素症の原因を特定することは困難ですが、分かっていることは何点かあります。

腸内毒素症を引き起こす原因は多様であると考えられます。

自然分娩で生まれ、母乳で育てられた赤ちゃんは、母親から有益な細菌叢を受け継いでいるため、帝王切開で生まれ、粉ミルクで育てられた赤ちゃんよりも、腸内細菌叢のバランスが良いと考えられます。

しかしながら、乳児期に獲得した正常な腸内細菌叢は、不健全な食生活、心理的ストレス、社会的ストレス、病原菌へのばく露といった環境要因によって、急速に悪化する可能性があります。

抗生物質投与によって腸内毒素症が引き起こされることは、良く知られています。

「広域スペクトル抗生物質:いろいろな細菌に効果がある抗生物質」によって、病原性細菌だけでなく、必要な細菌までもが駆逐されて、腸内細菌の組成が変化した場合、かえって病原性細菌を増殖させてしまう可能性があります。( Blumstein et al, 2014)

 

 

内毒素症と感染症


友好的な細菌のグループが、病原性を有する微生物を排除し、腸と体全体の健康を維持しているのは事実です。

Lactobacillus種などの細菌は、「乳酸」や、細菌・真菌に対抗する「過酸化水素やキチナーゼなど」などを生成し、腸、口、生殖器官を、カンジダ・アルビカンスが定着しにくい環境にしてくれます。(Allonsius et al, 2019)

残念ながら、抗菌薬を服用すると、腸内細菌叢の本来的なバランスが崩れ、友好的な細菌の数が減って抑制がきかなくなり、Cディフィシルなど潜在的病原性を有する細菌が増殖していきます。(Mullish, 2018)

 

 

内毒素症とパーキンソン病

最近の研究では、腸内細菌叢の変化と神経変性疾患とが関連しあっていることが示されており、特にパーキンソン病との相関性についての研究が進んでいます。(Gerhardt and Mohajeri, 2018)

パーキンソン病は、動作に支障が起きる進行性の神経変性疾患です。パーキンソン病特有の非運動症状の他に、安静時の振戦(ふるえ)、硬直、運動緩慢(動作が遅い)、姿勢の不安定性などがみられます。

 

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パーキンソン病の病理学的特徴は、α-シヌクレインタンパク質がニューロン(神経細胞)に沈着したときにレビー小体が形成されることです。

レビー小体が蓄積すると、神経機能や、パーキンソン病患者では枯渇するドーパミンなどの神経伝達物質の産生を阻害します。

レビー小体は脳に蓄積しますが、腸神経系など他の部位にも見られます。(Kalia and Lang, 2015)

一般に、パーキンソン病は、脳の神経組織由来と考えられていますが、一部の研究者は、腸内細菌叢の組成が腸細胞の構造や全体性に影響を与えるほどに変化した場合には、パーキンソン病が腸由来の可能性があることを示唆しています。(Lionnet, 2018)

この病と、腸内細菌叢の組成変化との間には、相関性があるようです。

パーキンソン病患者の腸内細菌を調べると、Bacteroides massiliensis、Bacteroides coprocola、Blautia glucerasea、Dorea longicatena、Bacteroides plebeius、Prevotella copri、Coprococcus eutactus、Ruminococcus callidusなど、15種類の細菌が存在しないことがわかりました。

さらに、Christensenella、Catabacter、Lactobacillus(乳酸菌)、Oscillospira、Bifidobacterium、Christensenella minuta、Catabacter hongkongensis、Lactobacillus mucosae、Ruminococcus bromii、Papillibacter cinnamivorans  のコロニーが増えていることがわかりました。

研究者は、このような腸内細菌叢が、宿主を、レビー小体沈着が起きやすい炎症状態へと移行させる可能性があると考えています。(Petrov et al, 2017)

 

 

内毒素症と自閉症スペクトラム障害

一般に、自閉症スペクトラム障害は、社会的な関わりやコミュニケーションがうまくとれず、特定の動作を反復的に繰り返すことが特徴です。

発症原因は、まだはっきりと分かってはいませんが、遺伝的要因のほか、バランスの悪い食事、胎児のときの細胞分裂エラー、免疫機能障害などの環境的要因も関係していると考えられています。(Risch, 2014)

 

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自閉症スペクトラム障害の患者には、便秘と下痢を繰り返すなど排便が不安定で、慢性的に腹痛を感じているなど、深刻な胃腸管疾患を抱えている人が多いです。

栄養状態や胃腸管の症状と、自閉症スペクトラム障害の重症度との間には、強い相関性がみられます。(Adams et al, 2011; Horvath and Perman, 2002)

妊娠中に、脂肪分と糖分を多く摂って妊娠性糖尿病になると、腸内細菌叢の組成が変わり、自閉症スペクトラム障害児が生まれるリスクが高まるようです。(Fattorusso et al、2019; Connolly, 2016)

4か月間、母乳で育てた赤ちゃんは、粉ミルクで育てた赤ちゃんよりも、自閉症スペクトラム障害を発症するリスクが下がります。

このことは、粉ミルクを与えると病原性細菌が増殖しやすくなり、腸内毒素症になった可能性があることを示しています。(Azad, 2013)

自閉症スペクトラム障害児の腸内細菌叢は、健康な兄弟や、健康な対照群の腸内細菌叢とは異なっていることが多いです。(De Angelis et al, 2015)

自閉症スペクトラム障害と慢性的な胃腸障害を併発している18人の被験者を対象とする研究では、健康なドナーの糞便を移植すると、腸内細菌叢が多様化し、ビフィズス菌やプレボテラ属を含む、主要なプロバイオティクス種の量が相対的に増加し、自閉症スペクトラム障害の症状が改善したと報告されています。 (Kang, 2019)

この研究者は、糞便移植を二重盲検法によるプラセボ対照試験で再検証することを推奨しています。

 

 

ロバイオティクスの使用

腸内細菌が失われ、腸内細菌叢の多様性が低下すると腸内毒素症になり、宿主の健康を害することは、良く知られるようになりました。

そこで、腸内の善玉菌を増やすためのプロバイオティクス研究に専念する企業が増えています。

プロバイオティクスは、もっともシンプルな形では、生きている乳酸菌やビフィズス菌などが含まれるヨーグルトやドリンクとして販売されています。

このようなプロバイオティクス食品の有効性を調査する研究は、摂取した微生物の多くは、酸、アルカリ、酵素のカクテルを生き残ることができず、腸内環境に大きな変化を与えることはないと結論づけています。

他には「糞便薬」があります。

あらかじめ定められた、健康な腸内細菌叢を有するドナーの糞便を、腸溶性物質でコーティングしてペレット化して摂取するのです。糞便薬は、理論上、腸溶性コーティングによって胃や小腸の過酷な環境から守られて大腸に到着し、そこで溶け出して、結腸内で健康な腸内細菌叢のコロニーを作るとされています。

あとは「糞便移植」です。

ドナーの糞便から取り出した成分を、内視鏡手術によってレシピエント(患者)に移植するという、直接的な方法です。

「糞便薬」と「糞便移植」の有効性はまだ十分に評価されていませんが、C ディフィシル感染症と大腸炎の軽減に効果があるそうです。(Wischmeyer et al 2016; Mayor 2017)

 

 

論/Conclusion

過去10年間、腸内細菌叢の研究報告は爆発的に増えているものの、腸内で細菌叢のコミュニティが果たす役割については、限られた知見しか得られていません。

腸内細菌叢が、健康や疾患に果たす役割を、より包括的に理解するためには、さらなる研究が必要です。