一般社団法人化学物質過敏症・対策情報センター

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総説論文翻訳 減量後の残留性有機汚染物質(POP)の血中濃度の上昇

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やせると、血液中の化学物質濃度があがります。

以下、Increased blood levels of persistent organic pollutants (POP) in obese individuals after weight loss—A review(2017) 「総説論文 減量後の肥満者における残留性有機汚染物質(POP)の血中濃度の上昇」の翻訳です。

 

翻訳文責:
一社)化学物質過敏症・対策情報センター
代表理事 上岡みやえ

 

 

約/Abstract
親油性の残留性有機汚染物質(POP)は、脂肪組織に保存されます。脂肪吸引手術などによって体重が急減少すると、有害な脂溶性化学物質が、血液へと放出される可能性があります。

過体重による健康被害リスクを減らすために、過体重の人、肥満の人には、減量することが推奨されています。

しかし、減量幅が大きい場合には、POPは動員化学物質になってしまい、内分泌をかく乱するなど、健康に悪影響を与える可能性があります。

本調査の目的は、減量中のPOPの放出レベルを推定することです。文献調査によって、2061人の被験者を得て17の研究がなされていることを確認しました。

被験者270人を対象とする研究5件のデータを使用して、POPの血中濃度の変化を体重1キログラムあたりのパーセントで評価しました。減らした体重は、4.4 kgから64.8 kgと変化に富みます。

すべての研究で、血中のPOP濃度は、体重減少後に上昇することが示されました。体重減少後の血中濃度は、検査したPOPのほとんどで、体重1キログラムあたり2〜4%増加しました。

増加したPOPレベルは、調査介入の12カ月後にも上昇していました。

動物実験を含むこの分野のほとんどの研究は、「カクテル効果」を考慮せずに、単一の化合物または選択された化合物のグループに対して行われるため、人間が実際にさらされているPOPの真の範囲を反映してはいません。

長期的な調査研究は非常に少なく、減量した人の血中POP濃度の上昇と、その臨床的影響を比較した研究はほとんどありません。

こうした制約があるため、得られた結果の解釈には注意が必要です。

減量することの利点は、肥満による健康リスクをはるかに上回りますが、妊娠前に肥満治療経験のある女性については別です。急速かつ過剰な減量後の、血中POP濃度上昇の臨床的重要性を見極めるために、研究を進めることが推奨されています。

世界では、1980年から2008年の間に、年齢標準化された肥満率が6.4%から12%に増加しました(Stevens et al.,2012)。肥満率は、世界的に上昇傾向にあります。

2020年末までに、過体重と肥満の発生率は、米国で74%、英国で69%になるだろうと推定されています(Wang et al.,2011)。

肥満が増える原因は、一般に、高カロリー食と運動不足の組み合わせによって説明されます。

環境要因、食事の質、胎児環境、ストレス、医薬品や他の化学物質への暴露も要因となる可能性があります(Decherf and Demeneix 2011; Grun and Blumberg 2009)。

高い肥満率は、心血管疾患、メタボリックシンドローム、2型糖尿病、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)の有病率に関連しています(Cooke et al.,2016)。

したがって、体重減少は、体重に関連した有害な健康問題のリスクを下げるために、過体重および肥満の個人に推奨されます。

残留性有機汚染物質(POP)は、脂肪組織、肝臓、脳、膵臓組織に蓄積し、食物連鎖で生物濃縮し、自然分解プロセスに耐性がある有機化学物質および環境汚染物質です(Byrne et al.,2015; Elabbas et alら2014;ペスターナら2014; Porta 2006; Schafer and Kegley 2002)。

内分泌かく乱性の特性が記録されているさまざまなPOPが、過去10年間で、肥満のパンデミックの増大に寄与している可能性があることが示唆されています(Decherf and Demeneix 2011; Dirinck et al。2011; Grun and Blumberg 2009; Hatch et al.,2010; McAllister et al.,2009; Newbold et al.,2008)。

POPはさまざまな核内受容体に結合し、内因性リガンドに取って代わり、それによってシグナル伝達経路や、視床下部-下垂体-副腎軸、視床下部-下垂体-性腺軸、内分泌膵臓などのホルモン系と相互作用します(Asp et al。2010; Decherf and Demeneix 2011; De Tata 2014; Faerch et al.,2012; Rylander et al.,2006)。

POPへの曝露は、糖尿病、メタボリックシンドローム、甲状腺機能の変化、さまざまな種類の癌、生活の質、不妊症、その他の神経障害、ホルモン障害、および免疫学的障害と関連しています(Casals-CasasおよびDesvergne 2011; Esser et al.,2015; Ferrante et al.,2014; Grun and Blumberg 2009; Hoyer et al.,2000; La Merrill et al.,2013; Mouritsen et al.,2010; Pelletier, Imbeault, and Tremblay 2003; Porta 2006; Turyk et al.,2009) 。

しかし、環境汚染物質への暴露の潜在的な健康への悪影響に関する多くの質問は未解決のままです(Henkler and Luch 2011; Lee, Jacobs, and Porta 2009; Porta et al.,2012)。

POPは脂溶性であるため、脂肪組織の脂肪滴や生体膜の脂質に蓄積が生じるようです(Bourez et al.,2012)。

これらの化合物は脂肪動員(エネルギーが不足した際に、脂肪細胞に蓄えられた脂肪を加水分解することで得られる脂肪酸とグリセロールを血液中に放出すること。脂肪動員は有酸素運動によって起こりやすい。)中に放出されるため、体重減少は循環POPレベルの濃度を増加させますが、体重増加は循環レベルを希釈する傾向があります(Vizcaino et al.,2014b)。

 

運動と低カロリーの食事療法の組み合わせは、肥満治療の主力です(Livingston and Zylke 2012)。病的レベルの肥満患者には、肥満手術が施される場合もあります。2013年には、世界中で、合計468,609件の肥満手術が行われました(Angrisani et al.,2015)。

肥満/代謝手術においては、制限的メカニズムと吸収不良メカニズムを含む、または組み合わせた、さまざまな外科的処置が行われます。

これは、体重減少(Aasheim et al.,2009)および代謝共存症の改善に伴うホルモン変化(Catoi et al.,2015; Poirier et al.,2011; Rubino 2013)につながります。

本稿の目的は、(1)ダイエットや手術などの理由で体重が減少した個人の血中POP濃度の変化を調べ、(2)これらの変化を経時的に定量化することです。

 

 

 

量による血中POP濃度の変化

減量によって、調査したPOPの血中濃度が上昇するという科学的エビデンスが増えています。減量すると、残留性有機汚染物質(POP)の濃度は、体重1キログラムあたり2〜4%上昇します。

我々の定量分析は、Chevrier.,(2000)およびImbeault et al.,(2001)らの「外科手術によらない、適正な範囲の減量(もとの体重の約10%程度の減量)においては、POP濃度の合計は、4〜6か月の間に最大20%上昇する可能性がある」という意見に一致します。

適正な範囲の減量(もとの体重の約10%程度の減量)の前後にPOPを分析した研究の中には、血漿中の総POP濃度が68.3%上昇したという報告もあります。(Charlier, Desaive, および Plomteux 2002)。

減量によって体脂肪量が減少すると、体内を循環する脂溶性POPが増加するかもしれないということです。

肥満手術では、術式にもよりますが、通常、もとの体重の30〜40%の脂肪を除去します(Aasheim et al.,2009)。 Gjevestad et al.,(2015)によると、外科手術によって43 kgの減量をした人は、骨格筋量が4 kgも減少したそうです。

一方、食事と運動を組み合わせた場合には、減量中の筋肉量の減少を防ぐことができます(Gjevestad et al.,2015; Nordstrand et al.,2013)。

Rantakokko et al.,(2015)は、12か月の間に、もとの体重の約30%を落とした人では、検査したPOPそれぞれの濃度が、150%から330%の範囲で上昇しました。

Hue らは、外科手術によって体重を46%落とした人は、12か月の間に、血漿中の総POP濃度が388%上昇したと報告しています。(Hue et al.,2006; Rantakokko et al.,2015)。

データからは、血中POP濃度は、BMI(ボディマスインデックス)を 14 kg / m2以上低下させると、中程度にBMIを低下させた人よりも、著しく上昇することが示されました。

急激な減量をした人は、健康被害を受けるリスクが高くなる可能性があります。(Hue et al.,2006)。

一般に、有機塩素化合物のレベルは、減量開始前のBMIに関係なく、体重減少にともなって増加します(Wolff et al.,2005)。

食事療法や肥満手術の他、妊娠は、比較的短期間のうちに、大きな体重変化を経験します。しかしながら、妊娠中の体重増加が、胎児の血中POP濃度に及ぼす影響については、ほとんど明らかになっていません(Vizcaino et al.,2014b)。

 

 

こりうる健康への影響

 

◆有機塩素(OC)
ほとんどの有機塩素(OC)の循環濃度は、減量後に上昇します。PCBのレベルは1.2%(Chevrier et al., 2000)から7.5%(Dirtu et al., 2013)、DDEレベルは、平均して、体重1キロあたり3.2%上昇したと報告されています。

PCB 118、138、およびΣDDT異性体は、乳がんになるリスクが増すと懸念されている物質ですが(Hoyer et al., 2000)、有機塩素系農薬へのばく露と乳がん発症との因果関係を示す疫学データは不十分です。(Salehi et al., 2008)

1993年以降の40件の研究をレビューした総説論文によると、成人調査では、乳がんとDDTまたはDDEとの間に、明確な関連性は見出されなかったそうです。ただし、幼児期のばく露については調査されていません。(Loomis et al., 2015)

DDEとPCB153の濃度と、2型糖尿病の有病率の関連性についての研究報告は、2007年に発表されています。この研究では、2型糖尿病と診断されたのは、15名の女性だけした。(Rignell-Hydbom, Rylander, およびHagmar 2007)。

Rylander らは、PCBと有機塩素系農薬が、2型糖尿病に関連性があることを発見しました。 Rylander et al., (2015)

しかしながら、PCB153の濃度曲線下面積(AUC)の予測(機械的ばく露モデルによる幼児期ばく露と生涯ばく露を)によっては、2型糖尿病との関連性は分かりませんでした(Rylander et al., 2015)。

研究の多くは、2型糖尿病とPOPの間に関連性があること示しています。しかしながら、人間は常に、2型糖尿病に対して複雑な用量反応を引き起こす「POP化合物」にさらされているため、ヒトについての研究を評価するときに、方法論的な問題が発生します(Lee et al., 2014)。

POPは、胎盤を通して、母親から胎児へと移行しますし、(Bergonzi et al., 2009; Cooke 2014; Ferguson, O'Neill、and Meeker 2013; Needham et al., 2011; Park et al., 2008; Rogan et al., 1986; Vizcainoら2014a; 2014b)

さらには、POPは、母乳を通して、母親から赤ちゃんへと移行します。(Elabbas et al., 2014; Laug, Kunze, and Prickett 1951; Polder et al., 2008; Skaare and Polder 1990; Skaare, Tuveng, and Sande 1988)

メンデスら(2011)は、赤ちゃんの月齢が14か月のときに、母親のBMIと、血清中のDDE濃度と、赤ちゃんの急速な体重増加との間に、正の関係があることを発見しました。

同様に、胎児期のDDEへのばく露が、成人女性のBMI上昇に関係していることも指摘されています。(Karmaus et al., 2009)

幼児期にDDEへばく露することが、小児期および成人期の体重変化に影響する可能性があるのです。

PCBは、生殖にも影響を及ぼします。モカレッリら(2011)は、胎児期と母乳育児期間中に、比較的低濃度のPCB /ダイオキシンにばく露した子供は、成人後、精子の質が低下していることを突き止めました。(Mocarelli et al., 2011)

成人がPCBへばく露した場合にも、精子の運動能力に何らかの関係性があることが示されています(Vested et al., 2014)。

1980年代、ミシガン湖のPCBに汚染された魚を食べた母親から生まれた子供は、37の交絡変数を補正した後においても、出生体重が低く、頭囲が小さいことが分かりました。(Fein et al., 1984)

ヨーロッパで行われた、12のコホート調査では、7990組の母子のメタ解析によって、低レベルのPCB153へのばく露と、出生時体重との間に、逆相関があることが明らかになりました。低レベルPCB153へのばく露によって、生理学的影響を被る可能性があるのです(Govarts et al., 2012)。

Govartsらの研究においては、臍帯血清中の PCB153 濃度(新生児への出生時ばく露を反映する)の中央値は140 ng / L(0.14 µg / L)でした。

これは、本稿で紹介した研究2件において観察されたレベルよりも低いものです。ベースラインで測定された濃度は、0.18 µg / Lと0.31 µg / Lでした(Arguin et al., 2010; Chevrier et al., 2000)。

 

◆臭素系難燃剤
BDE同族体のなかには、半減期が相対的に短いものがあります。一般に、臭素置換基の数が増えると、PBDE同族体の半減期が短くなります。

ヒト血清中の BDE209 の半減期は約15日です。ヒトは、血清で検出されるレベル のBDE209 に、継続的にばく露しなくてはなりません(Thuresson et al., 2006)。

BDE209は、日光にばく露すると、ノナ臭素とオクタ臭素化同族体に脱臭素化されます(Stapleton and Dodder 2008; Wei et al., 2013)。

Thuressonら(2006)の調査では、3つの nona-BDE および4つの octa-BDE同族体 nの半減期は、それぞれ18–39日と37–91日であることが判明しました。

妊娠中の SDラットにBDE209を経口投与したところ、母ラットの血液および胎盤から脱臭素化された同族体が検出されました。

子ラットから検出される値が低いとしても、どちらの研究からも、臭素化合物が、胎児にも乳児にも移動していることが示されたのです(Cai et al., 2011; Zhang et al., 2011)。

BDE209 の脱臭素化によって、より毒性が高く、移動性の低い臭素化同族体の濃度が増加する可能性があるという結果は、大きな懸念事項です(Law et al., 2014)。

ラットとマウスの慢性毒性試験(103週間)により、deca-BDEが哺乳類の膵臓腺腫と肝細胞腺腫および癌腫、ならびに甲状腺濾胞細胞腺腫と癌腫を誘発する可能性があることが示された(Darnerud 2003)。

BDE 153はメタボリックシンドロームと逆U字型の関連性を示すことが判明し、糖尿病の病因に関与している可能性があることが、横断研究で指摘されています(Lim、Lee、およびJacobs 2008)。

小規模なコホートの研究では、BDE153が、精子の濃度と精巣サイズを減少させる場合があること(Akutsu et al., 2008)、同族体の BDE47、BDE100、およびΣPBDEは、精子の運動能力に悪影響があることが示されました。

さらに同族のBDE47、BDE99 および ΣPBDE は、男性のチロキシン(甲状腺ホルモン)の量を減少させました。(Abdelouahab, Ainmelk, およびTakser 2011)

62名のアメリカ人男性を対象とした研究では、ハウスダストに含まれるBDEとホルモン量(甲状腺ホルモン、甲状腺刺激ホルモン[TSH]、エストラジオール、遊離および総テストステロン、卵胞刺激ホルモン[FSH]、黄体形成ホルモン、性ホルモン結合グロブリン[SHBG])の関係性が、それまでの先行研究と一致しており、ハウスダストに含まれる汚染物質へばく露することが、男性の内分泌をかく乱する可能性があると結論づけました。(Johnson et al., 2013)。

以上、蓄積されたデータによって、BDEには内分泌かく乱作用があることが示されました。臭素系難燃剤が広範囲で使用され続けた場合の、低線量被ばくによる健康への影響について、さらなる研究が必要とされています。

 

◆ペルフルオロアルキル化合物(PFAS)
ペルフルオロオクタン酸(PFOA)やペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)などのペルフルオロアルキル化合物(PFAS)は、POPに分類されます。

PFASは脂肪組織には蓄積されませんが、肝臓と血清のタンパク質に結合します(Casals-CasasおよびDesvergne 2011)。

1年の減量期間中の、PFAS濃度の変化を報告する研究が1件存在します。

平均して 31.7 kg の減量後、血中の PFAS 濃度に有意な変化は見られませんでしたが、ベースライン時のいくつかの PFAS の血清濃度と肝臓の小葉炎症との間には、負の関連が観察されています(Rantakokko et al., 2015)。

Berg et al., (2015)らの論文によると、被験者の妊婦のうち、PFOS濃度が上位四分の一にはいる女性は、下位四分の一の女性よりも、TSH の濃度が24%高いことが判明しました。

ペルフルオロデカン酸(PFDA)と低T3濃度、ペルフルオロウンデカン酸(PFUnDA)と低FT3濃度の関連性についても実証されました。

甲状腺ホルモンの濃度は正常範囲内でしたが、母体の甲状腺ホルモンの量が少しでも変化すると、胎児の健康に影響を及ぼす可能性があります(Berg et al., 2015)。

 

満管理とPOP濃度の増加
本稿は、減量によって環境汚染物質の血中濃度が増加する可能性があり、減量幅が大きいほど、血中POP濃度が高くなることを示すものです。

精査した研究のうち7件は、観察中の12カ月間、ほとんどのPOPの血中濃度が上昇することを示すものでした(Backman and Kolmodin-Hedman 1978; Dirinck et al., 2016; Dirtu et al., 2013; Hue et al., 2006; Kim et al。2011b ; Mullerova et al., 2015; Rantakokko et al., 2015)。

血中POP濃度が上昇すると、健康に悪影響をもたらす可能性があるため、Imbeaultら(2001)は、減量幅を大きくせず、中程度にとどめることを提案しています(Imbeault et al., 2001)。

減量には、健康を増進させる効果があることも考慮に入れるべきという研究者もいます(Chevrier et al。2000; Lim et al., 2011; Tremblay and Chaput 2012)。

キムら(2011b)は、POPが、脂質とエネルギーのホメオスタシスの変化が、肝機能障害に関与している可能性があるため、POPレベルが高ければ、減量の有益性を減少させてしまうのではないかと警鐘を鳴らしています。

ペルティエら(2002)は、肥満には、減量が有益な治療であると結論づけています。しかし、高レベルのPOPは、肥満治療を複雑なものにしてしまうかもしれません。

近年、ディリンクら(2016)は、PCBレベルの上昇にもかかわらず、減量の明らかな利益は考えられる健康リスクをはるかに上回りますが、増加が個人をより体重を取りやすくするかどうかを確認するには長期の追跡調査が必要です。

2003年から2005年にかけて収集されたデータによると、肥満手術を受けた全患者の49%が、18〜45歳の女性でした(Maggard et al., 2008)。

ノルウェーは、胃バイパス手術には、栄養不足と潜在的栄養失調のリスクがあるため、手術を受けた女性には、術後1年間は妊娠しないように勧告しています(Skogoy, Laurini, and Aasheim 2009)。

その妊娠すべきではない期間中に妊娠した女性104名と、術後2年目に妊娠した女性385名を対象とする比較研究では、同じような短期転帰が示されました(Sheiner et al., 2011)。

肥満妊婦の赤ちゃんは、流産、妊娠糖尿病、子宮内胎児死亡、巨体児、出産合併症などの潜在的リスクにさらされています(Kaplan-Sturk et al., 2013; Triunfo and Lanzone 2014)。

肥満手術の前後に妊娠した女性の比較研究では、手後に妊娠した女性のほうが、糖尿病や高血圧障害など母体の合併症が減少し、巨体児の発生率も低下しました(Weintraub et al., 2008)。

Karmon and Sheiner(2008)は、肥満手術後の妊娠・出産では、帝王切開が増加した可能性があるとしていますが、交絡因子のため、確たる結論を提示するには至っていません(Karmon and Sheiner 2008)。

肥満女性221,580人の出産と、肥満手術後の女性9587人の出産を比較した、後ろ向きコホート研究では、病的レベルの肥満女性よりも、肥満手術を受けた女性の方が、妊娠状態が優れていることがわかりました。

ただし、この研究では、肥満手術後に妊娠した女性には、
(1)静脈血栓塞栓症を示す
(2)分娩誘発を受ける
(3)輸血を必要とし、胎児の成長制限を求められる

などの傾向がありました(Abenhaim et al., 2016) 。

肥満手術後の妊娠は、適切な術後指導を受けている限り、安全であると思われます(Karmon and Sheiner 2008; Uzoma and Keriakos 2013)。

妊娠直前に、大幅減量を行って血中POP濃度が上昇している女性が妊娠すると、子供の健康を害する可能性があります。

胎児期は、ヒトの一生の中で、最も脆弱な期間の1つであると考えられています(Cooke 2014; Ferguson, O’Neill, and Meeker 2013; Lyche et al., 2009, Vizcaino et al., 2014a)。

したがって、特に妊娠中の血中POP濃度と、トキシコキネティクス、トキシコダイナミクスに関する知識を得ることは、非常に重要です。

トキシコキネティクス:
毒性影響をもたらす可能性がある物質の生体内への吸収、生体内での代謝、当該物質とその代謝物の生体組織への分布及び生体外への排出のプロセス。

トキシコダイナミクス:
標的部位におけるばく露条件(濃度及び時間)の下での、化学物質とその標的部位との相互作用及びその結果として生じる毒性影響をもたらす一連の反応。

 

 

限事項
本稿は、この分野の研究が欧州とアメリカでしか行われておらず、総数も少ないという制約を受けています。

異なる研究分野の、異なる方法論に基づく研究データを比較するのは、困難な作業です。方法論と解釈についての制約要因は、すべての研究が、脂質補正濃度を提供しているわけではないという点です。

17件の研究のうち8件しか、空腹時のデータ収集をしていなかったことも、制約要因となるでしょう。また、各論文には個々のデータが掲載されていないため、表2の変動評価ができません。提供された平均濃度に影響を及ぼした可能性があります。

様々な研究を精査することによって、新しい研究と古い研究が矛盾するかもしれないことが明らかになりました。


特定のPOPの使用と生産を、国際的に禁止・制限する「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」(POPs条約)によって、POP濃度は、世界のほとんどの地域で低下しました(ストックホルムコンベンション2015 http://chm.pops.int)。

これにより、古い研究と新しい研究を比較検討する作業は、複雑化しています。

動物実験など、この分野の研究は、「カクテル効果」を考慮せずに、単一の化合物または選択された化合物群によって行われます。

このような実験研究では、人間が実際にさらされているPOPの、真の影響はわかりません(Lyche et al., 2009; Meeker, Sathyanarayana, およびSwan 2009)。

化合物は相加的、拮抗的、相乗的、そして相互作用的です(Meeker, Sathyanarayana, and Swan 2009)。

POPの人体への長期的影響を調べた研究は少なく、なかでも、減量後にみられる体内POP濃度の増加と臨床的影響を比較した研究はごく僅かです(De Roos et al., 2012)。

ばく露レベルを監視し、低線量、線量の混合、脆弱な時期、および代謝活性線量の識別の間のリンクを確立する多数の参加者に基づく長期的で適切に設計された研究が必要です。

以上のような制約があるため、研究結果を解釈する際には注意が必要です。

 

論/Conclusion
POPは、減量中に脂肪組織から放出されます。POPのほとんどは、減量1 kgあたり2〜4%の血中濃度上昇を示します。

従って、元の体重の40%を減量すると、血中の総POP濃度は、150〜400%上昇する可能性があります。

ほとんどのPOPの血中濃度は、減量から1年間以上経過した後に上昇することが報告されています。

このことは、肥満治療を複雑化させるかもしれません。POPには、哺乳類のホルモン系、免疫系、生殖系、代謝系を変化させる可能性があります。

それでもやはり、肥満がもたらす健康リスクを減らすために、肥満者には減量することを推奨します。減量することのメリットが、(POP濃度増加にともなう)健康リスクをはるかに上回るものだからです。

POPは胎盤と母乳を介して子供の体内へと移行します。胎児期はヒトの一生の中で最も脆弱な時期です。肥満治療を受けようとする、妊娠前の若い女性については、急激な減量による血中POP濃度上昇が、どのような臨床的影響をもたらすのかを調査する必要があります。

 

 

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以下の章は、研究方法に関する専門的説明のため割愛しました。

Approach 
Literature Selection Strategy 
Identified Studies
General Observations in the 17 Studies
Quantitative Synthesis
Lipid Correction of Blood Concentrations

アプローチ
文献選択戦略
特定された研究
17の研究の一般的な観察
定量的合成
血中濃度の脂質補正

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