一般社団法人化学物質過敏症・対策情報センター

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土壌菌と腸内細菌の密接な関係① 翻訳

Does Soil Contribute to the Human Gut Microbiome? 2019 「土は、ヒトの腸内細菌叢に役立っているのか?」という論文の翻訳です。

 

 

翻訳文責:
一社)化学物質過敏症・対策情報センター
代表理事 上岡みやえ

 

目次

 

要約/Abstract

土壌にもヒトの腸内にも、ほぼ同数の、活動的な微生物が存在していますが、ヒトの腸内の微生物多様性は、土壌のわずか10%に過ぎず、現代のライフスタイルによって劇的に少なくなっています。

本論では、土壌中の微生物叢(以下「土壌菌」で統一)と、ヒト腸内の微生物叢(以下「腸内細菌」で統一)との関係性について調査したうえで、土壌微生物と腸内細菌との間には密接な関係性があり、それは進化の過程でさらに進化し、現在も進化し続けていることを意味する、環境微生物についての新仮説について説明します。

狩猟採集生活から都市化された社会生活に至るまでの間に、ヒトの腸はアルファの多様性を失っていきました。

興味深いことに、ベータの多様性は増加しました。ベータの多様性とは、都市部の人々が、より差別化された、その人固有の腸内細菌を有していることを意味します。

都市生活者の腸からは、土壌や糞便との接触が少ない、衛生対策、抗生物質、加工された低繊維食品を食べているなどの理由によって、有益な微生物が失われています。

それと同時に、多くの農村地域において、土壌の生物多様性が失われています。

農薬使用の増加、植生の多様性の低さ、および厳格な土壌管理などは、着生植物や内生菌の多様性に悪影響を及ぼします。

 

着生植物:
生きている植物の樹幹や樹枝、あるいは露出している岩上などに固着する植物をいう。コケ類、地衣類、藻類のほか、シダ植物(ノキシノブ、イワヒバ)、ラン科植物など。エピファイトとも言う。
(小学館 日本大百科全書)

内生菌:
植物の体内に共生する真菌や細菌などの微生物の総称。植物の生存に役立つ生理活性物質を産生するほか、家畜の中毒を引き起こす毒素をつくる微生物もいる。広義には根粒菌や菌根菌も含まれる。エンドファイトとも言う。
(小学館 デジタル大辞泉)

 

現代的農業改革と、ヒトの腸内細菌叢との関係性がみられる「現代病」の増加は、付合しています。

本論では、産業革命以前の農村環境と比較すると、都市生活者の環境が、微生物サイクルを妨害していることを強調していきます。

都市環境による微生物サイクルの妨害を修正するために、新しい視点を採用すること、そして、ヒトの腸内細菌についての考え方を深めることが有効と思われます。

土壌や植物の根に存在する微生物叢を「超生物」としてとらえて、これらに頻繁に接触することが、接種材料、遺伝子、成長維持分子を補充しあうことになります。

 

キーワード:
土壌生物多様性、人間の健康、土地利用、ライフスタイル、腸内細菌、土壌微生物学、地球規模の変化、栄養、有機農業、都市化

 

 

1. イントロダクション

土壌菌の多様性は、一次生産性や栄養循環など、微生物の生態系に影響を与えます。

土は、人間の住まいの一部であり、生活、レクリエーション、食糧生産の場でもあります[1]。

私たちは、幼い頃から土と触れ合ってきています。土を舐め、吸い込み、土を通り抜けた水を飲んできました。

さらに、土壌菌とともに、土が育んだ植物を食べています。

先史時代以来、人間は、その地から得られる食事では栄養が足りないとき、積極的に土を食べて栄養不足を補ってきました。伝統的に「土食/geophagy」と呼ばれている習慣です。

人間は、特定の食べ物の解毒剤として、胃腸の病気の治療薬として、特定の土を、医学的に利用してきました[2]。

一方、ヒトの腸内細菌は、ヒトの健康と病気に大きな影響を及ぼしていることが分かってきたことから、生物学的医学的研究の主要分野になっています[3]。

腸には、微生物コロニーが絶え間なく流入してきます[4]。

ただし、ヒトは各人固有の腸内細菌を宿しているため、常在菌と外来菌は、容易に区別されます。

消化に関与する土壌菌が腸内を通り過ぎるときは、腸の代謝能力を向上させてくれる可能性があります[5]。

腸内細菌は非常に動的で、常在菌と外来菌によって構成されています(腸内細菌は、水、食ベもの、土壌菌が生息している環境や土との直接的な接触によって吸収されます[6,7])。

土壌菌と腸内細菌の、生態系としての類似性を考慮すると、両者は互いに関係しているように思われます。生態系全体を俯瞰すると、腸内細菌は、人体の拡張ゲノムと見なすことができます[8]。

そこで、土壌菌と腸内細菌の間には、どの程度の関係があるのかという疑問、例えば、人間が、微生物叢が異なる土に触れるとどうなるのかといった疑問が沸き上がってきます。

農地開発など、人間の活動は、土壌菌の分布も量も変化させており[9]、その結果として微生物の生態系が変化し、生物地球化学的なサイクルだけでなく、人間の健康にも影響を与えている可能性があります。

こうしたことが、人間の健康と土壌環境の関係性を考えるうえでの有力な説明として、我々を、環境微生物叢に関する新しい理解へと導いてくれました。

以下、ヒトの腸内細菌と土壌菌の関係性を探求していきます。

この文脈において、土壌菌と(ヒト)腸内細菌との間の、本来的関連性について考察し、両者の相互関係について評価していきます。

 

 

土壌菌と腸内細菌の密接な関係② に続く