一般社団法人化学物質過敏症・対策情報センター

推定患者数1000万人。化学物質過敏症と共生できる社会は、誰もが安心して暮らせる社会。

ヒトの腸内細菌叢レポート2015年 翻訳

f:id:detox-advisor:20200913091759j:plain


コンピュータ解析技術によって、腸内細菌研究が本格化しています。わかってきたのは「分からないことばかり」という現実。
 

以下、 20 Things you Didn’t Know About the Human gut Microbiome 2015  「ヒトの腸内細菌について、あなたが知らない20のこと」という論文の翻訳です。

 

 

1 腸内細菌研究は始まったばかり


色々なメディアで「ヒトの共生菌」特に腸内細菌のことが話題になっています。

ヨーグルト、コンブチャ、キムチをたっぷり食べて「善玉菌」を増やそうとしている人も多いことでしょう。

腸内細菌研究は始まったばかりですが、分かっている限りにおいて、知っておくべきことをご紹介します。

病気予防と食事療法のカウンセリングに関心のある人は、ぜひご一読ください。


2 微生物叢(びせいぶつそう)とは

ヒトの微生物叢(びせいぶつそう)とは、人体に生息するすべての細菌、ウイルス、真菌、古細菌、真核生物と定義されています。

ヒトの微生物叢は、「第2のヒトゲノム」とも呼ばれ、特に消化管に定着している腸内細菌叢は、独自の代謝機序や免疫活性を有する「臓器外の臓器」と見なされています。

微生物叢研究の主たる研究領域は
①どんな微生物が存在するのかを特定する分類学的研究解析
②彼らがどのような働きをしているのかを特定する機能的メタゲノミクス解析
の2つになります。

 

 

3 腸内細菌は多種多様

ヒトの腸内細菌の数は、ヒトの細胞の10倍あるといわれています。

ヒトの腸内には、5,000種の微生物* が合計で100兆匹存在し、その総重量は2キロほどになります。皮膚、口腔内、膣などにも微生物は定着していますですが、腸内は、微生物の数と種類が突出して多い部位です。

*その後の大規模調査によって、ヒトの腸内には 35000種類の微生物が存在すると言われるにいたっています。

 

4 解析技術が進歩

腸内に生息している細菌の多くは嫌気性のため、培養することができません。そのため、ヒトの消化管内に共生している微生物の生態系を調べることは不可能でした。

しかし、2005年に開発された次世代シーケンシング’技術によって「メタゲノミクス研究:環境サンプルから直接回収された遺伝物質に関する研究」が可能になり、腸内細菌研究に取り組む研究者が増えました。



5 ほんの少ししかわかっていない
どんな腸内細菌の組成が正常なのかは、ほとんど解明されていません。

腸内細菌の組成に関する研究は始まったばかりです。また、ヒトの腸内細菌研究を行っている学術団体は、数えるほどしかありません。

 

 

6 アメリカの大規模研究

アメリカ国立衛生研究所(NIH)は、2007年から2015年にかけて、「Human Microbiome Project」と「American Gut Project」を主導し資金提供も行いました。

その目的は、人間の微生物叢の構成と多様性を調査し、人間の微生物叢のデータセットライブラリを確立することです。 99ドルを支払えば、誰でも「American Gut Project」に参加し、腸内細菌叢を http://humanfoodproject.com/americangut/ でシーケンスすることができました。

 

 

7 赤ちゃんの腸内細菌叢

これまで、子宮内環境と、胎児の消化管は無菌であると考えられていましたが、胎便を調べてみたところ、腸内細菌が、胎児の腸内に存在している可能性が示されました。

すでに胎児期に、腸内細菌が定着し始めているのかもしれません。

新生児の腸内細菌叢は、自然分娩か帝王切開か、母乳育児が粉ミルク育児かによって異なってきます。

2〜3歳児の腸内細菌叢は、成人の腸内細菌叢に近い組成になっていきます。

 

 

8 抗菌薬/抗生物質

抗菌薬/抗生物質による治療は、腸内細菌叢の組成を変化させます。

乳児期および小児期に抗菌薬を投与すると、腸内細菌が、肥満、代謝異常、自己免疫疾患などを、引き起こしやすい組成になってしまう可能性があります。

家畜には、成長促進と体重増加を目的として、低用量の抗生物質が投与されます。

人間にも同じような作用があると考えられており、抗菌薬/抗生物質と腸内細菌の関係性についても調査が開始されています。


9 善玉菌・悪玉菌などと区別できない

健康な人の「正常な」腸内微生物叢には、大腸菌や腸球菌などの、潜在的な病原性のある菌株が存在します。

善玉菌・悪玉菌という単純な区別はできません。

個々の菌が、実際にどんな働きをしているのかも解明されてはいません。

 

 

10 腸内細菌の働き 

腸内細菌は、食物からのエネルギーを得て、いわゆる善玉菌と悪玉菌の組成バランスを整え、セロトニンなどの神経伝達物質、酵素、ビタミン群などの体内生成に関与し、免疫や代謝機能を調整しています。

 

 

11 腸内細菌は土や動物から補給 

アメリカ人、そして西洋化・工業化が進んだ地域に住む人々の腸内細菌叢は、工業化されていない農村部に住む人々の腸内細菌叢よりも多様性が低く、腸内で支配的となっている細菌種も異なります。

腸内細菌叢の多様性低下には、食事も多少は関係していますが、土や動物など、環境中の微生物へのばく露がなくなったことの影響のほうが大きいようです。

ペットがいる家庭で育った子供は、アレルギー性疾患にかかるリスクが低いのです。ペットと腸内細菌叢の相関性を示すエビデンスも出てきました。

犬と触れ合うと、腸内細菌の組成は、アレルギー性・ウイルス性の問題から呼吸器を守るような方向へと変化します。

つまり、ルーシーは間違っていたのです。犬に1日1回キスされるのは良いことだったのです。 

f:id:detox-advisor:20200913033354p:plain出典:スヌーピーにキスされたルーシーが「たいへん!犬の菌がうつったわ!何とかしなきゃ」と大騒ぎするシーン

 

12 肥満と腸内細菌

腸内細菌叢は、スリムな人と肥満の人、なかでもアテローム性動脈硬化症、糖尿病、メタボリックシンドロームの人ととの間では異なっています。これらの違いが何を意味するのかは、まだわかっていません。

 

 

13 糞便移植 ①

1000年以上前に中国の開業医が施していたとされる糞便移植は、1958年に現代的治療法としてよみがえりました。

糞便移植は、「健康な人」の糞便サンプルを、浣腸、経鼻胃管、内視鏡などによって、患者の腸に移植する方法です。

抗生物質耐性菌「C. difficile」におかされた患者に、最も効果があった治療法です。

2012年、マサチューセッツ工科大学では、微生物学者、臨床医、公衆衛生専門家のチームが、「C. difficile患者」に糞便移植するための糞便サンプルを収集して保管するための非営利組織 OpenBiome(http://www.openbiome.org/)を設立しました。

「臓器移植」の新時代の到来です!

 

 

14 糞便移植②

スリムで健康なドナーの糞便を移植した、メタボリックシンドロームの男性は、インスリン感受性が改善しました。

 

 

15 食品添加物

口にいれるものは、腸内細菌叢に強い影響を及ぼします。

乳化剤や洗剤成分のような食品添加物は、腸の内皮を傷つけ、「リーキーガット(腸もれ)」や、糖尿病や脳血管障害などの炎症性疾患の原因となる「全身性炎症」を引き起こす可能性があります。

食品に含まれる食物繊維:難消化性澱粉、可溶性繊維、不溶性繊維などは、食べ物の腸内発酵を促し、腸内細菌叢の多様性を確保するための重要な栄養素のひとつです。

難消化性の食物繊維は、腸内細菌叢の成長または活動を刺激する「プレバイオティクス」として知られています。

 

 

16 プロバイオティクス・サプリメント 

市販されているプロバイオティク・スサプリメントはどうなのでしょう。

実験では有効だったという報告はありますが、市販されているプロバイオティクス・サプリメントの多くは、有効かどうかの調査はなされていません。処方や投与量に、これといった基準もありません。

プロバイオティクス・サプリメントの中には、特定の疾患に有益とされる細菌を含むものもあります。

NYタイムズのジャーナリストで、ベストセラー作家のマイケル・ポーランが、腸内細菌叢研究の専門家たちに、プロバイオティクス・サプリメントについて尋ねたところ、サプリメントではなく、「プレバイオティクス」を多く含む自然食品と、発酵食品を摂取することがよいと答えた人が多かったそうです。

 

 

17 腸内細菌叢の多様性

特定の菌を選んで定着させるよりも、腸内細菌叢が多様であるほうが、健康的であると考えられています。

腸内細菌叢の多様性は、植物、野菜、果物などが豊富な食事によって維持されます。食事制限のある人は、腸内細菌叢の多様性が失われていきます。

腸内細菌叢の多様性が、加齢によって失われていくことと、栄養状態の悪化、炎症、そしてフレイル(高齢者の筋力や活動が低下している状態)との間には相関性があります。

 

 

18 糖尿病

ある研究では、2型糖尿病(T2D)の患者と健康な対照群を比較したときの、最も顕著な違いは、BMI(肥満指数)ではなく、腸内細菌叢の組成でした。

2型糖尿病(T2D)の患者は、抗炎症作用を有する腸内細菌が少なかったのです。

胃バイパス手術後に、体重は変わらないのに、2型糖尿病(T2D)が改善または快癒することがあるのは、腸内細菌叢の変化に起因している可能性があります。

 

 

19 アテローム性動脈硬化症

アテローム性動脈硬化症は、特定の腸内細菌叢との関連性が認められます。

ホスファチジルコリン、コリン、L-カルニチンなど特定の栄養成分を摂取すると、アテローム性動脈硬化症が悪化する可能性があります。

腸内細菌は、これらの栄養成分から、主な心血管疾患を増加させるリスク要因と考えられているトリメチルアミンNオキシド(TMAO)を合成するからです。

 

 

20 結論

腸内細菌叢が、私たちの健康と病気に、どのように関与しているのかは、わからないことばかりです。

確実に言えるのは、心疾患系の分野だけをみても、新たな発見が相次いでいる、途方もない研究領域であるということです。

本稿をリリースしている間にも、次々と新しい論文が発表されています。

もうひとつの「人体」といえる腸内細菌ゲノムの機能には大きな可能性があります。将来的には、標的治療に役立てられるかもしれません。

糞便や、犬に舐められたりすることの効用を考察する日が来るとは、思いもよらないことでした。