トルコ西部、エーゲ海にほど近いところに位置する古代遺跡エフェソス。
エフェソスは、ギリシア・ローマ時代に栄えた海洋都市です。 世界三大図書館といわれるセルシウス図書館や、数万人を収容できる大劇場を備えていた、華やかな都でした。
エフェソス セルシウス図書館
現在の、エフェソス郊外の様子です。低木と草に覆われた、明るい景色が広がっています。
4000年前、このあたりはナラの森で覆われていました。
その後、森林は皆伐され、ヤギや羊の放牧が始められました。
2000年前、エフェソスが最も栄えていた時代には、小麦も作られていました。
ローマ時代(紀元前8世紀~西暦5世紀)、エフェソスの人々の食生活は豊かでした。赤小麦粉、牛乳、タマネギ、ニンニク、チーズ、オリーブオイルなどを中心に、貧しい人々でさえも、山羊、牛肉、羊肉、孔雀、ねずみ、鴨、魚などの肉を食しており、料理の種類も豊富だったそうです。
海洋都市として豊かさを謳歌したエフェソスでしたが、8世紀ころに放棄され、廃墟と化していきました。
エフェソスから人々が去らねばならなくなった根本的理由は「森林破壊」だったようです。
森林には、たくさんの水が蓄えられています。森林に太陽光があたると水蒸気が立ち上り、それは雲となりやがて雨となって地上に降り注ぎます。
森林は、落ち葉や表土に、降り注いだ雨水を蓄えて、次の雨を準備します。
森林には、水を循環させる力があるのです。
ところが、人間が森林を切り拓いて農耕や放牧を繰り返すと、自然環境に急激な変化が始まります。
森林を失っても、そこが「表土」に覆われている限り、しばらくの間は水分を蓄えることができます。表土からも水蒸気が立ち上り、雨が降ってきます。
しかし、その雨によって、今度は表土が削られていき、土の流出が始まります。
土が流出していくと、やがて大地は水分を蓄える能力をうしない、雨が降らなくなっていきます。当然ながら、作物や家畜を育てられなくなります。
エフェソスでは、森林が破壊されたために、土砂が海に流れ込みはじめ、海洋都市の生命ともいうべき港が、土砂で埋め尽くされていきました。
人口が急増したローマ時代、大地は極限まで利用されたため、土砂の流出も激しく、港も入り江も急速に埋まっていきました。港と海をつなぐ人工運河を建設しなくてはならなかったほどです。
8世紀、異民族jの攻撃を受けて都市が放棄されると、管理されなくなった人工運河は消失、海洋都市としての機能は、完全に失われました。
人々は去り、エフェソスは廃墟となりました。
栃木県・那須塩原市の森を抜ける道路の風景
かつてのエフェソスにはナラの森が広がっていたそうです。ナラは、東日本の森林によくみられる木です。
エフェソスには、本来、日本の森林のような景色が広がっていたはずです。
森と文明の関係がわかってくると、明るく開けた印象だった現在のエフェソス郊外のようすが、荒れはてた景色に見えてきます。
エフェソス郊外の景色
戦後、日本の森林は、ゴルフ場・スキー場に転用され続けてきました。やがてゴルフ人口・スキー人口が減り、再生エネルギーの必要性が叫ばれるようになった今、メガソーラー発電所が作られるようになっています。
森林を破壊しつくした先に待っているのは、いったいどのような未来なのでしょうか。
参考資料
NHK 地球大紀行 第12集「太陽系第三惑星・46億年目の危機」