一般社団法人化学物質過敏症・対策情報センター

推定患者数1000万人。化学物質過敏症と共生できる社会は、誰もが安心して暮らせる社会。

ビタミン剤の真実:BBC記事翻訳

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以下、Why vitamin pills don't work, and may be bad for you - BBC Future「ビタミン剤には効果なく、健康を害する可能性も高い BBC Furure」 という記事の翻訳です。

 

 

翻訳文責:
一社)化学物質過敏症・対策情報センター
代表理事 上岡みやえ

 

 

「ビタミン剤には効果なく、健康を害する可能性も高い BBC Furure」

まるで「不老薬」でもあるかのように服用されるビタミン剤。効果がないどころか、命を縮める可能性さえあるというのに。

 

 

タミン剤の教祖 ライナス・ポーリング博士

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ライナス・ポーリング博士(1901-1994):ノーベル化学賞とノーベル平和賞のW受賞者



ポーリング博士は、若干30歳のときに、原子を分子内で結びつける、第三の基本的方法を提案するなどして、化学と量子力学双方の概念を融合させた、偉大な化学者です。 

タンパク質(すべての生命の構成単位)がどのように構造化されるかについて示したポーリング博士の研究は、フランシス・クリックとジェームズ・ワトソンが成し遂げたDNA(生命の構成単位のコード)の構造解読に、大いに貢献することになりました。

そして1954年、ポーリング博士は、分子がどのように結び付けられているかについての考察に対してノーベル化学賞を受賞します。

ロンドン大学の生化学者であるニック・レーンは、2001年出版の著書『Oxygen』に、次のように記しています。

「ポーリング博士は20世紀の科学の巨人である。彼の研究は、現代化学の基礎を築いた」

 

タミン剤万能主義

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1970年、ポーリング博士は、自著『Vitamin C and the Common Cold』にて、ビタミンCサプリメントが風邪を治すと主張しました。

この本は世界的ベストセラーになり、ビタミンCが尊ばれるようになっていきました。

博士は1日に18,000ミリグラム(18グラム)ものをビタミンCを摂取していました。1日の推奨摂取量の50倍です。

この本の第2版には、ビタミンCがインフルエンザを治すという文言が追加されました。ポーリング博士は、1980年代のアメリカでHIVが流行したときには、ビタミンCがHIVを治癒させるとも主張しました。

1992年、彼の主張は、タイム誌によって「ビタミンの真の力」という表紙とともに特集されました。

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画像引用:TIME Magazine Cover: Vitamins - Apr. 6, 1992 - Health & Medicine


ビタミンCは、心血管疾患、白内障、さらには癌の治療法としてもてはやされました。

「ビタミンは、老化による不具合も食い止める」とも信じられました。

ポーリング博士の栄光と名声も追い風となり、マルチビタミンなど栄養補助食品の売上は急増しました。

それに反比例する形で、ポーリング博士の学問的評判は、地に堕ちていきました。

『Vitamin C and the Common Cold』出版から50年が経過しました現在、

ポーリング博士の主張が誤りだったこと、究極的には危険だったことは、すでに証明されていますが、ビタミンCなど栄養剤を摂取することの効能については、今なお科学的裏付けを得られていません。

ポーリング博士は、65歳だった1964年、朝食のオレンジジュースにビタミンCを加え始めました。コカコーラに砂糖を加えるような行為ですが、博士自身は、これを良いことだと、かたく信じていました。

実のところ、オレンジジュースに加えたスプーン一杯のサプリメントは、ポーリング博士の健康を増進させるよりも、害する可能性のほうが高かったのです。




リーラジカルとは

1954年、当時ニューヨークのロチェスター大学に在籍していた Rebeca Gerschmanは、フリーラジカル分子の潜在的危険性を最初に特定した人物です。

1956年、カリフォルニア大学バークレー校 Donner Laboratory of Medical Physics の研究者ハーマン(Denham Harman)は、フリーラジカル分子の潜在的危険性を拡張して考え、フリーラジカルが細胞を劣化させ、病を発症させ、老化させると主張しました。

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20世紀を通して、 ハーマンの主張を支持する科学者らによって、フリーラジカルが細胞を劣化させるという考え方は、広く受け入れられていきました。

フリーラジカルのプロセスは、細胞内の小さな燃焼エンジン「ミトコンドリア」から始まります。食物と酸素は、ミトコンドリアの内部膜の中で、水と二酸化炭素とエネルギーに変換されます。

これらの反応は、細胞にとっての呼吸であり、複雑な生命すべてにエネルギーを供給するメカニズムです。

このメカニズムはもう少し複雑です。食物と酸素の他に、「流れる電子」(マイナスに帯電した粒子の連続的な流れ)が必要になります。

水車にたとえるならば、水は「流れる電子」、水を動力エネルギーに利用する水車は「4種類のタンパク質」になります。水が、水車小屋によって動力エネルギーに転換されるがごとく、流れる電子は4種類のたんぱく質にキャッチされ、それぞれのミトコンドリアの内膜に埋め込まれ、最終的な生産品に対するエネルギーを供給します。

この一連の反応こそが、私たちの一挙手一頭足の原動力になります。そしてこの反応には続きがあります。

水車の役割を果たしているタンパク質は4種類ありますが、そのうち3種類のタンパク質からは電子が漏れ出していき、それぞれが近くの酸素分子と反応します。

この自由電子を得たラジカル反応分子が「フリーラジカル」です。

フリーラジカルは、自らの電荷のバランスをとるために、DNAやタンパク質などの重要な分子から電子を引きはがします。その規模は非常に小さいものですが、自らの安定性を取り戻すために、周囲の構造に破壊をもたらすのです。

ハーマンをはじめ、多くの科学者が、生成されたフリーラジカルが、少しずつ私たちの体全体に影響を与え、老化や癌などの加齢性疾患につながる突然変異を引き起こすと主張しました。

酸素は生命の息吹ですが、それはまた私たちを老化させ、劣化させて死に至らせる可能性があるという考え方です。

フリーラジカルが、老化や疾病と関連付けて考えられるようになって間もなく、フリーラジカルは、私たちの体から排除すべき「敵」であると見なされるようになりました。

ハーマンは、抗酸化物質に、フリーラジカルから電子を受け取らせて、人体への脅威を拡散させる分子を排除すべきと考えていました。

1972年、ハーマンは次のように記しています。

「生物のフリーラジカルを減らすと、生物学的分解の速度が低下し、それに伴って、有益で健康的な寿命が延びることが期待される。この理論が、人間の健康寿命を延ばすことに向けられ、実りある実験がなされていってほしいと思う。」



酸化物質とマウス

ハーマンが望んだとおり、次の数十年間にわたって、抗酸化物質とフリーラジカルの関係性を明らかにする実験がなされていきました。しかし、実験結果は、ハーマンの予想を裏切るものでした。

たとえば、1970年代から80年代にかけては、エサや注射液に様々な抗酸化物質を処方するマウス実験が行われました。ある種の抗酸化物質をコードする遺伝子が活性化するように、遺伝子改変されたマウスさえいました。

様々な実験方法が試されましたが、結果はほとんど同じでした。過剰な抗酸化物質は、老化による劣化を抑えることも、病気の発症を止めることもなかったのです。

「抗酸化物質投与によって、寿命が延びる、健康が増進することが証明できた実験は皆無です。」とマドリッドのスペイン国立心臓血管研究センターのアントニオ・エンリケスは言います。 「マウスは<サプリメント>なんて気にしませんからね。」

 

 

酸化物質と人間

マウス実験では、抗酸化物質の効果を実証することはできませんでした。

では、人間ではどうなのでしょうか。科学者は、マウスではなくヒトの研究を始めました。

被験者の健康状態を生涯にわたってモニターすることも、研究結果に偏りをもたらす可能性のある外来要素を制御することもできません。しかし、長期間におよぶ臨床試験を行うことは可能です。

実験方法は極めて単純です。まず、年齢、居住地、ライフスタイルが似ている人々のグループをつくり、それを2つのサブグループに分けます。1つのグループには抗酸化サプリメントを、もう一方のグループにはブランク(プラセボ効果をはかるための砂糖の錠剤)を受け取ります。

先入観を回避するために最も重要なのは、試験日まで、誰が何を服用したのか、被験者も実験者も知らされないという点です。このやり方こそが、製薬研究のゴールデン・ルール「二重盲検対照試験法」です。

1970年代以降、抗酸化サプリメントが、私たちの命や健康に対してどのような影響があるのかを解明するために、多くの実験がなされました。導き出された結論は、当初の予想に反するものばかりでした。

たとえば、1994年に、50代のフィンランド人29,133人への実験が行われました。被験者全員が喫煙者でした。ベータカロチンのサプリメントが与えられたグループでは、肺がんの発生率が16%増加しました。

米国の閉経後の女性を被験者とする研究でも、同様の結果となりました。10年間にわたって毎日葉酸(ビタミンB群)を摂取したグループでは、サプリメントを摂取しなかったグループと比較して、乳がんになるリスクが20%増加しました。

もっと酷い話もあります。1996年に発表された、1,000人を超えるヘビースモーカーを被験者とする研究は、実験を2年早く終了しなければなりませんでした。ベータカロチンとビタミンAを4年間投与したグループでは、肺がんが28%増え、死亡者は17%も多くなってしまったからです。

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これらは見過ごしてよい数字ではありません。対象比較群と比較して、ベータカロチンとビタミンAを服用したことで、毎年20名以上の人が亡くなったのですから。実験が行われた4年間では、80名の被験者が亡くなりました。

この研究論文をまとめた研究者の言葉をご紹介しましょう。

「研究調査の結果によって、サプリメントとしてのベータカロチンを服用することも、ベータカロチンとビタミンAを組み合わせて服用することも、推奨できないという結論が導き出されました。」

 

酸化物質という幻想

健康的な食事にアクセスできない人々をサンプリングした研究では、抗酸化物質の摂取が益となることが、複数報告されています。

しかしながら、科学的エビデンスは、総じて、抗酸化物質の有効性を否定するものとなっています。

さまざまな抗酸化物質の有効性を評価する27の臨床試験を検証した総説論文(2012年)をご紹介しましょう。

7件の研究では、冠状動脈性心臓病や膵臓がんのリスクが低下するなど、抗酸化サプリメントによって、何らかの健康上の利益がもたらされたことが報告されていたそうです。

10件の研究では、抗酸化サプリメント投与によるメリットを見つけることはできませんでした。すべての被験者に、抗酸化サプリメントではなく砂糖の錠剤が投与されたかのような結果となりました。

残る10件の研究では、抗酸化サプリメント投与によって、肺がんや乳がんなどの疾患の発生率が増加するなど、抗酸化物質の投与後に、健康状態が悪化する被験者が多かったのです。

「抗酸化物質を補給することが奇跡の治療法であるという考えは、完全に的はずれです。」とエンリケスは言います。

 

 

ーリング博士の過ち

ポーリング博士は、自分のアイデアが破滅的である可能性に気づいていませんでした。

1994年、抗酸化サプリメントの大規模な臨床試験の結果が発表される前に、彼は前立腺癌で亡くなりました。

ビタミンCは、ポーリング博士を治癒させることはできませんでしたし、博士の健康を害していた可能性さえあります。

なぜなら、抗酸化物質を過剰摂取することとガンの発現を関連づける研究が、複数報告されているからです。

2007年にアメリカ国立癌研究所が発表したところによると、マルチビタミンを服用した男性は、服用しなかった対照群と比較して、前立腺癌で死亡する確率が2倍高くなったそうです。

2011年に行われた、35,533人の健康な男性を対象とする研究では、ビタミンEとセレンの栄養剤を摂取したグループは、前立腺がん発症率が17%増加したことがわかりました。

ハーマンが「フリーラジカルと老化の理論」を提唱して以来、抗酸化物質とフリーラジカルが、明確に分離されたことはありません。この理論は朽ち果てつつあります。

抗酸化物質とは、実は「単なる名前」に過ぎません。自然を定義する不動の概念ではないのです。



酸化物質の真実

ポーリング博士は、ビタミンCが、ビタミンE、ベータカロチン、葉酸などが、抗酸化機能を有する分子の一種であるという事実に基づいて、理論を構築していました。

抗酸化物質の利点は、フリーラジカルと呼ばれる反応性の高い分子を中和するところにあります。

ポーリング博士が推奨する抗酸化サプリメント「ビタミンC」を正しい用量で摂取すると、ビタミンCは、フリーラジカルの自由電子を受け入れて中和します。

 

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ビタミンCは「殉教者」的存在です。フリーラジカル周辺の細胞を守るために、自分の体を犠牲にして電子を奪いとったのですから。

ところが、ビタミンCは、奪いとった電子によって、自らがフリーラジカルになってしまいます。そして、周囲の細胞膜、タンパク質、およびDNAを損傷させてしまうのです。

1993年、食品化学者のウィリアム・ポーターは、こう述べています。

「ビタミンCは、抗酸化物質という概念の矛盾を体現する、双頭のヤヌス神、あるいはジキル博士とハイド氏のような存在である」

ありがたいことに、通常の状況では、ビタミンCの還元酵素は、ビタミンCの抗酸化力を押し戻すことができます。

しかし、ビタミンCが多すぎて、還元酵素が対応しきれなくなると、どうなるのでしょうか。

生化学の複雑系においては、単純化して考えること自体に問題があるともいえますが、上述の臨床試験からは、いくつかの可能性を見いだすことができます。


胞の成長・分裂・死とフリーラジカル

抗酸化物質には、このような暗​​い側面があります。

その一方で、フリーラジカルは、私たちの健康に必要不可欠な存在であるという証拠が増えてきています。

フリーラジカルには、細胞のある領域から別の領域に信号を送る分子メッセンジャーとしての使命があります。

フリーラジカルによって、細胞が成長するとき、細胞が2つに分裂するとき、細胞が死ぬときが調整されます。

つまり、細胞のライフサイクルにおいては、フリーラジカルが必要なのです。

フリーラジカルが存在しないところでは、細胞は無限成長し、分裂し続けることになります。つまり「ガン」です。

フリーラジカルが存在しないと、感染症にかかりやすくなります。不要な細菌やウイルスが増えたときにはフリーラジカルが多く生成され、免疫システムのサイレント・クラクションとして機能します。

フリーラジカルの警告によって、免疫と防御にかかわる細胞(マクロファージとリンパ球)が分裂し始め、問題を見つけ出そうとします。不要な細菌は、パックマンが青い幽霊を食べるがごとくに、マクロファージに飲み込まれていきます。

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飲み込まれた細菌は、まだ死んではいません。そこでまた、フリーラジカルの出番がやってきます。フリーラジカルは、免疫細胞の中に入り込み、不要な細菌を引き裂いて滅していきます。

健康な免疫反応を追っていくと、フリーラジカルが、私たち人間にとって、必要不可欠の存在であることが理解できてきます。

遺伝学者のジョアン・ペドロ・マガリャエスとジョージ・チャーチは、2006年、次のように述べています。

「抗酸化サプリメントを摂取して、フリーラジカルを排除するのは、良い考えとはいえません。」

エンリケスも「フリーラジカルを排除すると、感染症に対して無抵抗な体になってしまう。」と主張しています。

ありがたいことに、私たちの体は、体内の生化学を安定に保つためのシステムを有しています。一般的に、抗酸化サプリメントは、血液中の不要なものを濾過し、尿として排出します。

メキシコシティの InstitutoPolitécnicoNacional の Cleva Villanueva は、メールで回答してくれました。「全部トイレに流れていきますよ。」

レーンはこう言います。「私たちの体は、バランスをとるのがとても上手です。サプリメントが体に与える影響も、適当なところで抑えてくれます。ありがたいことです。」

 

 

想的な食事

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私たちの体は、微生物が有毒ガス「酸素」を吸い始めて以来、酸素のリスクバランスをとり続けてきました。

抗酸化サプリメントには、何十億年もの時間をかけて作られたシステムを変える力はありません。

ビタミンCという栄養素が、健康維持に不可欠であるのは当然のことです。医師の処方を守らない限り、抗酸化サプリメント摂取によって寿命を延ばすことは難しいといえるでしょう。

「特定の抗酸化物質が不足していることが明らかな場合に限って、抗酸化物質の投与は正当性を持ちえます。」ビジャヌエバは言います。 「ただし、栄養を補給する最良の方法は、抗酸化物質の働きを助けてくれる物質を含む食品を食べることです。」

レーンも言います。「一般的に、健康を維持するには、抗酸化サプリメントを摂取するよりも、果物や野菜を食べるほうが良いことがわかっています。」

食事法の是非は、酸化を止めようとする観点から論じられることが多いわけですが、酸化を促進する物質や、他の物質の役割や利点は、完全には解明されていません。

生化学の全体像が解明されない限り、何が理想的な食事法なのかもわからないのです。


数百万ポンドの資金と、数十万人の被験者が、臨床試験に投入された数十年後には、フリーラジカルと抗酸化物質の関係性が解明されていることでしょう。

そのときに提唱される「理想的な食事法」は、子供の教室に貼りだされている「5Aday」(1日に最低400gの果物と野菜を食べることを推奨するキャンペーン)に近いものになるのかもしれません。