一般社団法人化学物質過敏症・対策情報センター

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抗生物質投与 × 腸内の真菌増殖 × 肺のアレルギー

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抗生物質を投与したときの、一般的な副作用として、腸内にカンジダ菌が異常増殖することがあります。カンジダ菌が増殖しているときにカビ胞子にばく露すると、強い肺アレルギーを発症することがあるそうです。

以下、Role of Antibiotics and Fungal Microbiota in Driving Pulmonary Allergic Responses

「肺のアレルギー反応の促進における抗生物質と真菌の微生物相の役割」の、和訳です。

 

過去40年間で、西洋化された国々において、アレルギーと喘息が大幅に増加しました。これは、糞便の微生物叢(相)の変化と抗生物質の広範な使用「衛生仮説」と相関しています。

抗生物質は、強力なプロスタグランジン様免疫応答モジュレーターを分泌する真菌、「カンジダ・アルビカンス」の異常増殖を引き起こします。

私たちは、肺に真菌の干渉をうけていない状態のマウスに抗菌薬を飲ませると、特定の腸内細菌とカンジダ菌が安定的に増えることを証明するマウス実験モデルを開発しました。

抗原反応のない正常な免疫を有するマウスにセフォペラゾン(抗菌薬)をまぜた水を5日間飲ませた後、カンジダ・アルビカンス(真菌)を経口投与すると、少なくとも2〜3週間、腸内細菌中のイーストが増殖し、その後、CD4 T細胞を介して、カビ胞子「アスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)」に対するアレルギー性気道反応を促進する可能性があることが観察されました。

肺のアレルギー反応は、好酸球、マスト細胞、インターロイキン5(IL-5)、IL-13、ガンマインターフェロン、免疫グロブリンE、および粘液分泌細胞のレベルの増加によって特徴付けられます。

抗生物質を投与していないマウスは、カビ胞子「アスペルギルス」にばく露しても、気道でアレルギー反応を起こしません。

本稿は、抗生物質と真菌叢が、アレルギー性気道疾患を発症させ悪化させることを証明する、初めての研究・実験報告となります。強調すべきは、消化管など、肺から遠い粘膜部位で起きたことが、肺の免疫応答の調節に重要な役割を果たしている点でしょう。


 

INTRODUCTION
過去40年間で、西欧諸国ではアレルギーと喘息の爆発的な増加がありました。 Centers for Disease Control and Preventionの研究によると、米国の喘息有病率は1980年から1994年に75%増加し、0歳から4歳の子供で最大の増加(160%)が報告されました。

米国では、13〜14歳の子供たちの喘息の有病率は22%ですが、カナダ、イギリス、アイルランド、ニュージーランド、オーストラリアでは、28〜32%です。

 

宿主の遺伝学はアレルギーや喘息の発症に影響を与える可能性がありますが、この著しい増加はほぼ間違いなく環境要因の変化によるものであり、アレルギーと喘息の「衛生仮説」につながっています。

この発生率の増加と相関する衛生仮説の要因の1つは、先進国での抗生物質使用の増加です。

ヒトの疫学研究においても、糞便中の微生物叢の変化とアトピー性疾患の間に正の相関があることが示されています。

無菌動物は、免疫応答の調節にも多くの欠陥を示すため、これらの観察結果は、抗生物質投与によって引き起こされる消化管内の微生物叢の変化が、アレルギー反応を引き起こす素因となっているのではないかという仮説が導き出されます。

この「衛生仮説」は、今日まで、実験モデルによる証明は、なされてきていませんでした。

真菌叢の成長と増殖は、抗生物質療法においては、一般的な副作用のひとつです。酵母菌(酵母菌は真菌に分類される)「カンジダ・アルビカンス」は、正常なヒト微生物叢の構成要員であり、口、膣、および消化管に少数存在しています。

粘膜表面の「カンジダ・アルビカンス」の数に影響を及ぼす要因は多様で、通常の微生物叢、ホルモン、ストレス、自然免疫、および適応免疫などが含まれます。

抗生物質で処理された無菌マウスが「カンジダ・アルビカンス」に感染しやすくなることは、通常の微生物叢による「カンジダ・アルビカンス」感染抑制の重要性を示唆するものです。

私たちは最近、「カンジダ・アルビカンス」含む真菌の多くが、プロスタグランジン様オキシリピン分子を、新たに、または外因性アラキドン酸の変換を介して、分泌することを報告しました。

プロスタグランジンE2(PGE2)やプロスタグランジンD2(PGD2)などのプロスタグランジンは、Th1型免疫応答を抑制し、Th2型応答を促進し、全体的な免疫調節に貢献しています。

したがって、粘膜部位に真菌叢が増殖すると、プロスタグランジン様オキシリピンの産生を介して、粘膜に対する免疫応答を増強または変更する可能性があります。

私たちは、「衛生仮説」の一側面を検証するために、抗生物質療法による「カンジダ・アルビカンス」の増殖が、ヒト微生物叢を変化させることによって、気道での免疫応答が調節不全となり、菌類を吸入したときにアレルギー(Th2)反応が起きることを調査しました。

そこで、マウスの実験モデルを開発し、最も一般的な室内アレルゲンであり、いたるところに存在するカビ胞子「アスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)」に対するアレルギー反応を観察しました。

(実験の詳細については訳文省略)


DISCUSSION

私たちの研究は、「摂動」というシステムを検証するものです。

摂動:惑星・小惑星などの運動がケプラーの法則からずれるようにはたらく力のこと。一般には、力学系における主要な力の作用によって生じる運動が他の副次的な力の影響によって攪乱(かくらん)されることをいう。

「摂動」は、相互作用する「多くの因子」と「プロセス」によって引き起こされます。

本稿では、臨床的に実現可能な、普遍的モデルを提示しつつ、抗生物質治療を施すと、腸内微生物叢のうち、真菌叢が、生命を脅かすとはいえなレベルで増加することを観察しました。

私たちは、これを1つの「変化」すなわち「摂動」というシステムであると見なします。

実験データによって、「摂動」だけではアレルギー反応は起きないこと、気道が抗原へばく露しただけはアレルギー反応は起きないことが示されました。

ただし、システムが混乱しているところに、抗原にばく露すると、激しい気道アレルギー反応が起こります。

これは、2つの変数による因果関係方程式です。
(i)真菌叢の増加に伴う抗生物質誘発性の変化
(ii)気道が抗原にばく露する

実験によって、生理学的摂動が起こった場合にのみ、抗原の吸入がアレルギー反応を引き起こすという結論が導き出されました。

多くの疑問が呈されると予想されますが、この調査においては、非常に重要なポイントひとつに絞って理解することが重要です。

それは、動物実験モデルにおいて、通常は発生しない気道アレルギー反応を引き起こす「摂動」のメカニズムが示されたことです。

この「摂動」は、臨床的なモデルです。摂動のどの部分が最重要かは断言できませんが、免疫偏差の原因であることは明らかです。

衛生仮説を検証し、ヒトのアレルギー発症において、「抗生物質」と「微生物叢の変化」の間に因果関係があるかを見極めるため、マウス実験を行いました。

抗生物質を投与していないマウスを、繰り返しカビ胞子「アスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)」にばく露させても、アレルギー反応は起きませんでした。

抗生物質によって腸内微生物叢を破壊したマウスが、アスペルギルス胞子に反復ばく露すると、好酸球、マスト細胞、IL-5、IL-13、IFN-γ、IgE、および気道の粘液分泌細胞の増加レベルが示すとおり、CD4 T細胞媒介性の、強いアレルギー反応が起きました。

肺に Th2サイ​​トカインとIFN-γが存在していることも、アレルギー性気道反応が起きることと矛盾しません。

この反応は、カビ胞子とC57BL / 6マウスに限ってみられるものでしょうか?

そこで、BALB / cマウスを使用して、カビ胞子に対する追加実験を行いました。アレルギー反応もまた、抗生物質を投与後「カンジダ・アルビカンス」を接種したマウスAnb / Caの肺で発生しましたが、抗生物質で処理されていないBALB / cマウスでは発生しませんでした(未発表データによる)。

また、抗生物質を投与後「カンジダ・アルビカンス」を接種したマウスAnb / Caと抗生物質で処理されていないBALB / cマウス(OVAへの全身プライミングは含まれていません)でオボアルブミン(OVA)を使用して、同様の複数の鼻腔内チャレンジプロトコルを使用しました。

抗生物質を投与していないマウスでは、オボアルブミン(OVA)に鼻腔内ばく露した後、気道のアレルギー反応は低かったのに対し、抗生物質を投与後「カンジダ・アルビカンス」を接種したマウス(Anb/Ca グループ)は、気道において有意なアレルギー反応を示しました(未発表データ)。

追加実験によって、微生物叢が変化したマウスの肺アレルギー反応が、同系交配のマウスにも起きる可能性、また、真菌以外の抗原にも起きる可能性が示唆されました。

この研究では、抗菌薬セフォペラゾンの生理学的摂動によって酵母菌(真菌)叢が増加しているときに、カビ胞子「アスペルギルス」にばく露すると、アレルギー性の気道反応が起きることを示しました。

これは複雑な生理学的摂動ですが、臨床としてはありふれたものです。私たちの研究では、この摂動とその後の反応の因果関係を示していますが、現時点では、どの要素が最も重要であるかを特定できません。

セファロスポリンなど、白血球に直接的影響を与えることが示されている抗生物質による処理を行った後、「カンジダ・アルビカンス」を接種していないマウスをアスペルギルス分生子にばく露させても、抗生物質を投与後「カンジダ・アルビカンス」を接種したマウス(Anb/Ca グループ)に見られた劇症型アレルギー反応は誘発されませんでした。

マウス実験においては、抗生物質によって真菌叢が増えることが、気道におけるアレルギー反応を起こす免疫偏差の主要メカニズムであると考えられます。

ただし、現時点では、真菌叢の増殖のみによって、気道におけるアレルギー反応が起きる可能性を排除することはできません。

真菌叢が増殖するかどうかは、抗生物質投与はもちろん、個体の腸内細菌叢によっても左右されるからです。
(以下省略)