一般社団法人化学物質過敏症・対策情報センター

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キレート療法 アメリカ癌学会の見解(翻訳)

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アメリカ癌学会による、キレート療法 American Cancer Society/Chelation Therapy についての説明文の翻訳です。

 

翻訳文責:
一社)化学物質過敏症・対策情報センター
代表理事 上岡みやえ

 

 

レート療法とは
キレート療法は、重金属中毒に用いられる主たる治療法ですが、心臓病、癌、その他疾患の代替療法として利用される場合もあります。

ほとんどの場合、鉄、鉛、水銀、カドミウム、亜鉛などの重金属を結合またはキレート化する化学物質エチレンジアミン四酢酸(EDTA)が注入されます。

「キレート化」という用語は、化学物質が金属をつかむ方法を指す「爪」を意味するギリシャ語のcheleに由来します。

 

レート療法の有効性
キレート療法は、鉛中毒患者に対しては有効な治療法の1つですが、これまでの科学的証拠は、キレート療法が、癌やその他疾患の治療に有効であるという主張を証明できていません。

キレート療法は有毒である可能性があり、腎臓の損傷や不整脈を引き起こし、さらには死に至らせる可能性があります。

エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を使用したキレート療法は、40年以上にわたって鉛中毒の治療法として米国食品医薬品局(FDA)によって承認されています。

人体は重金属を分解することができません。重金属は体内に有毒なレベルまで蓄積し、正常な機能を妨げる可能性があります。

エチレンジアミン四酢酸(EDTA)やその他のキレート剤は、重金属分子に付着することで鉛、水銀、カドミウム、亜鉛などの金属の血中濃度を低下させ、排尿による除去を助けます。

エチレンジアミン四酢酸(EDTA)が血液中のカルシウム量を減少させることから、キレート療法が、アテローム性動脈硬化症または動脈硬化と呼ばれる、ミネラル沈着物による動脈の詰まりを改善させる可能性があると主張する開業医もいます。

彼らは、それが、冠状動脈バイパス手術、血管形成術、閉塞した動脈の詰まりを取り除くような技術に代わる、効果的かつ安価な代替手段であると主張しています。

キレーション療法は本来、鉄、鉛、水銀、カドミウム、亜鉛などの重金属中毒の治療法ですが、壊疽、甲状腺障害、多発性硬化症、筋ジストロフィー、乾癬、糖尿病、関節炎、アルツハイマー病、記憶、視覚、聴覚、臭いの改善など、重金属中毒とは無関係な疾患の代替治療として用いられる場合があります。

代替医療を行っている医師の中には、キレート療法は癌治療にも適していると主張する人もいます。

彼らは、キレート療法が、体から「環境毒素」を取り除き、細胞損傷を引き起こす可能性のある「フリーラジカル」の生成を阻止すると主張しています。

 

レート療法の方法

キレート療法は、多くの場合、2〜4時間かけての点滴または注射によって、静脈に注入されます。

通常、10〜12週間にわたって、20回の注射または点滴が行われます。経口治療も可能です。

少なくとも20回から40回のキレート療法を受けることが推奨されていますが、数年間にわたって最大100回の継続的治療を受けることを推奨する医師もいます。

キレート治療を受けると、体内から必須ミネラルが除去されてしまうため、患者には、高用量のビタミンとミネラルのサプリメントが投与されます。


レート療法の歴史
キレート療法における使用頻度の高い化学溶液エチレンジアミン四酢酸(EDTA)は、1930年代にはじめて、ドイツで製造されました。

現在、重金属中毒患者への、有効な治療法として普及しています。

1950年代に、一部の科学者が、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)が、体からカルシウムを除去できると主張しました。

動脈壁に蓄積したカルシウムは、心臓病を引き起こす可能性があります。エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を投与すると、動脈の詰まりを取り除けると理論づけられました。

初期の研究では、研究者はエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を投与された心臓病患者の間で、肯定的結果が報告されました。

キレート療法によって、動脈閉塞が引き起こす胸痛が和らいだという言う患者もいました。

こうした観察結果は、実は、大規模かつ厳密な研究では確認されることはありませんでした。

ところが、一部の開業医は、心臓疾患や循環器疾患、さらには、その他の疾病にもキレート療法を用いるようになりました。

現在、数万人のアメリカ人が心臓病のキレート療法を受けていると推定されています。

1998年、連邦取引委員会は、キレート療法を推進する主要グループ American College of Advancement in Medicine(ACAM)に、その利点に関する虚偽広告ならびに根拠のない声明を発表したとして起訴しました。

ACAMは、信頼できる科学的証拠に基づかない主張の公開を停止することに同意しました。

 

レート療法の科学的証拠
キレート療法は、鉄、鉛、水銀、カドミウム、亜鉛などの重金属中毒患者に対する治療法としては実証済みです。

しかし、入手可能な科学的証拠は、キレート療法が、重金属中毒以外の、癌や心臓病、その他疾病に有効であるという主張を裏づけることができていません。

癌に対して、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)によるキレート療法が有効であることを示す研究は公表されていません。

実験による研究は、銅または鉄をキレート化する薬剤(エチレンジアミン四酢酸(EDTA)以外の薬剤)が、癌細胞または腫瘍血管の形成に影響を与える可能性があることを示唆しています。

マウスを使った小規模研究で、研究者たちは鉄キレート剤によって、乳児や幼児の癌の一種である神経芽細胞腫の成長を抑えられるかどうかを調べました。

1998年に発表された論文では、キレート療法は、腫瘍を縮小しなかったと結論づけられました。

ヒトの癌へのキレート療法研究は、査読付きの医学雑誌には発表されていません。また、これまでの研究は小規模なため、有意なレベルでの有効性を示せていません。

しかしながら、キレート療法研究は続けられています。

2006年の研究では、ジ-2-ピリジルケトン-4,4、-ジメチル-3-チオセミカルバゾンと呼ばれる新しい鉄キレート剤が、マウスの皮膚がん細胞の増殖を抑制することがわかりました。

ただし、このキレート剤は、代替医療の医師が使用しているものとは大きく異なっており、ヒトへの治験は行われていません。

キレート療法が心臓病に有効であるという主張を証明する、信頼に足る研究はありません。

ランダムな臨床試験では、キレート療法薬は、脚に循環障害のある患者には効果がないことがわかっています。

過去37年間に報告された、すべてのキレート療法研究のレビュー(1993年)は、科学的データは、キレート療法が心臓疾患に有効であるとはいえないと結論づけました。

それ以降に発表された研究も、概して同じ結論に達しています。

アメリカ心臓協会、アメリカ医学協会、疾病管理予防センター、アメリカ整骨医協会、アメリカ家族医師アカデミー、FDAなど、社会的信頼度の高い組織も、キレート療法が重金属中毒には有効であるものの、その他の疾病に有効であるという科学的証拠はないと結論づけています。

現在、国立補完代替医療センター支援による、非常に大規模なプラセボ対照実験(心臓疾患)が進行中です。キレート療法が、心臓疾患に有効なのかどうかについて、より明確な答えが提供されると期待されています。

 

レート療法の副作用や合併症

キレート剤は、医薬品、食品、栄養補助食品などとの相互的作用の可能性について治験されていない可能性があります。

相互的作用や、有害な副作用に関する研究結果が発表されるかもしれませんが、概して、こうした研究は行われていません。

信頼に足る情報が不足しているため、以下に掲げる副作用や相互的作用に関する情報も、完全とはいえないことにご注意ください。

入手可能な科学的証拠は、キレート療法が、あらゆる種類の癌への安全な治療法であるという主張を証明していません。

キレート療法は、腎臓の損傷、不整脈、静脈の腫れなどの毒性作用を引き起こす可能性があります。

吐き気、嘔吐、下痢、一時的な血圧低下を引き起こす可能性もあります。

キレート治療は体内からミネラルを除去するため、低カルシウム血症や、骨の損傷を引き起こすリスクがあります。

キレート療法はまた、免疫系を損ない、インスリンを産生する体の能力を低下させる可能性があります。

注射される部位に痛みを感じる患者もいます。

キレート療法は、腎臓病、肝臓病、または出血性疾患のある人にとっては、危険な場合があります。妊娠中または授乳中の女性は、キレート療法を受けるべきではありません。

キレート療法では、通常、大量のビタミン剤やミネラル剤が投与されます。これにより、体内で危険なフリーラジカルが生成されてしまう可能性があります。

亜鉛が排出されることにより、細胞が突然変異してしまう可能性があるため、癌発症リスクが高まることも考えられます。

キレート療法と、処方薬・市販薬との相互的作用については、不明です。