那覇市から掛川市へ
当センターからの相談を受けて、翁長雄治市議が、那覇市議会で、化学物質過敏症について質問してくださったのは2019年2月21日のことでした。
そのことを紹介したツイッターがご縁となって、静岡県掛川市の方から当センターに相談が寄せられ、掛川市議のどなたかに相談をするよう回答さしあげました。
掛川市では榛村航一(しんむらこういち)市議が相談にのってくれて、2019年6月27日の市議会にて化学物質過敏症を取り上げてくださいました。
特筆すべきは、榛村航一市議が、SDGsをイントロとして、化学物質過敏症について議会質問してくださったことです。
SDGsと化学物質過敏症を関連付けておられるところに、榛村市議が、化学物質過敏症について深く理解してくださっていると感じます。
「SDGsを推進しよう」というのは社会の合言葉になりつつあります。
化学物質過敏症の当事者こそ、SDGsを理解し、SDGsの理念を援用しながら化学物質過敏症の対策をとってもらえるようにするのが賢明かと思います。
榛村市議の議会質問の詳細が、掛川市のサイトに掲載されましたので、ご紹介します。
掛川市議会での議会質問
榛村航一議員の質問
SDGsの 169ターゲットの 1つに、有害化学物質による死亡及び疾病の件数を大幅に減少させるものがございます。これに関連して伺いたいのですが、化学物質過敏症に対する市の姿勢です。
化学物質過敏症とは、多種多様な化学物質によって体調不良が引き起こされる疾病です。厚生労働省が2009年に病名リストに登録し、医療現場でも正式に病名として認められています。マルチプル・ケミカル・センシティビティを略して、MCSとも呼ばれます。いわゆるシックハウス症候群もこの一種だとされています。日本国内では 700万人から 1,000万人の患者がいると推定されます。糖尿病の患者が約 1,000万人と言われていますから、糖尿病並みに広く見られる一般的な疾病だと言えます。しかし、患者数の多さに反して、専門医は国内で10名程度と非常に少なく、まだ社会的認知度も低いため、患者は適切な対応を受けられないというのが実情です。
一旦MCSを発症すると、人によっては日常生活に多大な支障を来します。例えば、私がお話を伺った市民の方は、勤務先での異動に伴って通い始めた新しい職場の建物から出る化学物質に耐えられず、 2カ月にわたって在宅勤務をせざるを得なくなりました。体調の悪化が厳しいこともさることながら、周囲の理解を得にくいのがこの疾病の難点です。先ほどの市民の方は、幸い会社から理解を得られ、職場環境の改善と復職につながりました。しかし、多くのMCS患者は、周囲に理解を得られず孤立し、やる気がないなどと誤解され、職を失い、精神的にダウンしてしまうケースも多いのです。また、近年の香りづけブームもMCSの引き金となっているようで、嗜好との折り合いから個人間のトラブルに発展しやすいと言われています。
こうした状況ですから、このMCSに対しては全ての自治体が重要性を認識し、具体的な施策を起こせているとは言えません。しかし、市民の声に耳を傾け、さまざまな市民が共存・共生することを重視する自治体は率先して取り組みを進め、また、そうした自治体がふえてきております。
まず掛川市として、化学物質過敏症という疾病そのものに対する基本的な認識と、それにより苦しんでいる市民がいるという点についての所感を伺えればと思います。
MCSで苦しむ住民に対して、自治体として真っ先に取り組めるのは、まず第一にこの疾病についての周知啓発です。実際に全国で多くの自治体が市のホームページなど広報物を通じてMCSの周知啓発を行っています。例えば、四国の高松市の例ですが、市のホームページに「化学物質過敏症をご存知ですか」というコーナーを設け、MCSの患者の存在、疾病の原因や症状、市民からMCSに対する理解・協力を呼びかけています。自治体がこうした呼びかけを行うことは、MCSの患者の視点からは、みずからの疾病が社会に認知されたものであるとして周囲への説明するための材料とできることから、非常に重要です。また、MCSの患者でない人にとっても、本意でなく他人に害を及ぼすことを未然に防ぐことができ、自分や家族などの異変に早く気づき、対策することができます。
一方で、自治体からすれば、大きな支出を伴うものではなく、施策の費用対効果は非常に高いと言えるでしょう。そこで、掛川市のホームページを拝見しましたが、私が見る限り、化学物質過敏症やシックハウス症候群への記述は見つかりませんでした。市のホームページで化学物質過敏症についての周知を開始すべきと考えますが、市の見解を伺います。
周知啓発に続いて自治体として対策を講じるべきだと思うのが、学校における対応です。と申しますのが、幼い児童生徒の場合、MCSの数が多く、また被害も大きい可能性が高いからです。新潟県上越市で2010年に行った調査では、市内の小中学生の12.4%がMCSの症状を示したということです。このデータが正しければ、大人よりも子供のほうがMCSの発症率が高いということになります。また、先ほど申し上げたとおり、症状が重い患者は、大人であっても大変苦しんでいらっしゃいます。まだ幼い子供たちが自分でも原因がわからないまま、サボっている、根性がない、神経過敏だと周囲に言われ、それでもその環境から逃れられないとするならば、子供たちの将来にとって大きな影を落とすことになります。
学校での化学物質過敏症対策について、平成24年の時点で「学校における化学物質による健康障害に関する参考資料」というガイドラインが文部科学省から示されています。これを踏まえ、市の教育委員会では、教育現場における児童生徒の化学物質過敏症について対象者を把握しているか、また、どのような対策を講じていらっしゃるか伺いたいと思います。
先ほども申し上げましたが、化学物質過敏症についての対応はまだ地方自治体によりまちまちです。しかし、逆に言えば、今、市としてしっかりと対策を進めることが市民に優しい先進的な市政に取り組む掛川市にふさわしいと思います。ぜひ積極的な取り組みをお願いしたいと思います。
松井三郎市長の回答
化学物質過敏症についてでありますが、基本的な認識と事実についてでありますが、化学物質過敏症は、さまざまな種類の微量化学物質に反応して症状が出るものであり、重症になると仕事や家事ができない、あるいは学校に行けないなど、通常の生活が困難になる極めて深刻な環境病であります。しかし、日常生活の至るところにある物質により引き起こされるため、原因がわかりにくく、人によって対象となる物質と症状が違うため、一般的に理解が得られにくいものと認識をしております。また、厚生労働省の科学的根拠に基づくシックハウス症候群に関する相談マニュアルにもあるように、疾病概念自体が未確定なものであるため、患者数の把握はできていないと市内の医療機関からも伺っております。
次に、周知を開始するということについてでありますが、化学物質過敏症を誘発する化学物質は、特別なものだけに含まれているわけではありません。また、誰しもが化学物質に反応するものでもないため、化学物質に対してどのように予防や対処をしていくか、広報紙やホームページで周知を図っていきたいと考えております。
佐藤嘉晃教育長の回答
児童生徒の化学物質過敏症の把握と対策についてお答えいたします。
市内の小中学校では、毎年度実施します保健調査により、アレルギーがある児童生徒について把握していますが、各校からは化学物質過敏症の児童生徒の報告は、今のところ受けておりません。現在の対応としましては、発症原因が建築材料などを発生源とした室内空気汚染も考えられることから、各校において学校衛生基準に基づく空気環境検査を年 1回実施しております。今後も施設改修や備品購入等において、化学物質の発生が少ない建材物品等を選定するなど、化学物質過敏症への対応に努めてまいります。また、教科書などの印刷物が原因となる事例も報告されているため、化学物質の発生が少ない教科書配布に対応しております。
榛村議員の再質問
(化学物質過敏症について)市のほうで早急にホームページにも掲載していくということなので、ぜひそれは進めていっていただきたいと思います。
(化学物質過敏症の児童の把握について)保健調査を行って報告を受けているということでしたけれども、なかなか過敏症に関しての具体的なところの数字はまだ把握されていないというふうに感じました。これはやっぱり全児童に対して調査を行って把握すべきだと思いますけれども、その点はどうかお伺いできればと思います。というのが、やっぱり今、ひきこもりだとか、お子さんで学校へ行けないというのがもしかしたらこういったのが原因になっているという可能性もゼロではないと思います。
先ほど教育長が言ったように、教科書もそうですし、ちょっとしたことでお便所にある芳香剤がだめな子がいたりだとか、教室のカーテンがだめだったとか、ほかの教室のところのちょっと敷いたじゅうたんがだめだとか、そういったのもあります。それによって学校に行けなくなっちゃっているのに、お前、それは怠けているんだろう、学校が嫌だから言っているんじゃないかというふうに誤解されている子供がいるかもしれないというところを含めて、全児童を対象とした調査で把握すべきだというふうに思いますけれども、どうでしょうか。
佐藤嘉晃教育長の回答
榛村議員がおっしゃるように、間違えて子供の症状を捉えてはいけないということもございますので、こういった化学物質過敏症の子供さん、私も少なからずそういった症状を示しているという子はいるんじゃないかというふうに感じております。ですから、教員がその捉えがしっかりできていないとまずいと思いますので、まずは、校長会や養護教諭等の研修会、そういったところで職員にも周知をしていきながら、こういった化学物質過敏症に対応する子供がいるかいないか、そういった調査等も今後進めてまいりたいと、そのように考えております。
以上