一般社団法人化学物質過敏症・対策情報センター

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内分泌かく乱物質

以下、アメリカ国立環境衛生科学研究所(NIEHS)「内分泌かく乱物質」 National Institute of Environmental Health Sciences, Endocrine Disruptors の翻訳です。

 

翻訳文責:
一社)化学物質過敏症・対策情報センター
代表理事 上岡みやえ

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内分泌かく乱物質

天然および人工の化学物質は、内分泌系のホルモンを模倣または妨害する可能性があります。

「内分泌かく乱物質」と呼ばれる化学物質は、発達、生殖、脳、免疫、その他の問題に関連しています。

内分泌かく乱物質は、ペットボトルや容器、金属製の食品缶のコーティング、洗剤、難燃剤、食品、おもちゃ、化粧品、農薬など、多くの日用品に含まれています。


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内分泌かく乱物質のなかには、環境中では分解されにくいものがあります。その特性により、時間経過とともに潜在的危険性が増します。

内分泌かく乱物質は、動物に悪影響を及ぼしますが、ヒトの健康への悪影響については、限られた情報しかありません。

私たちは、複数の内分泌かく乱物質に常時ばく露しているため、公衆衛生上の影響を評価することは困難な作業です。

 


よく知られている内分泌かく乱物質

ビスフェノールA(BPA)

食品容器など、多くのプラスチック製品に含まれるポリカーボネートプラスチックおよびエポキシ樹脂の製造に使用されている。

ダイオキシン

除草剤の製造時や、紙の漂白時の副産物として生成される。ゴミ焼却や、山火事によっても環境中に放出される。

過塩素酸塩
航空機製造、武器製造、薬品製造の副産物。飲料水や花火からも検出される。

パーフルオロアルキルおよびポリフルオロアルキル物質(PFAS)
消火剤、焦げ付き防止プライパン、紙、繊維の防水加工など、様々な用途で広く使用されている。

フタル酸エステル類
プラスチックを柔らかくするために使用される。食品容器、化粧品、子供のおもちゃ、医療機器などにも含まれている。

植物エストロゲン
豆腐や豆乳などの大豆製品に含まれるゲニステインやダイゼインなど、ホルモンのような活性を持つ植物に天然に存在する物質。

ポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDE)
家具やカーペットなどに配合される難燃剤

ポリ塩化ビフェニル(PCB)

変圧器などの電気機器の製造時、油圧作動油、伝熱流体、潤滑剤、可塑剤に使用される。

トリクロサン

抗菌系の液体ボディソープやパーソナルケア製品に含まれている場合がある。

 


内分泌かく乱物質へのばく露

内分泌かく乱物質は、食品、飲み物、農薬、化粧品などに含まれています。飲食、空気、皮膚、水を介して体内に取り込む可能性があります。


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内分泌かく乱物質は、ごく微量だとしても、安全とは言い切れません。

正常な内分泌機能には、ホルモンレベルの非常に小さな変化が含まれます。こうした小さな変化が、発達にとって重大な、生物学的影響を引き起こす可能性があります。

ごく微量であっても、内分泌かく乱物質へのばく露が、繊細な人体システムを変化させ、健康上の問題を引き起こす可能性は否定できません。

 


アメリカ国立環境衛生科学研究所(NIEHS)


NIEHSは、30年以上にわたり、内分泌かく乱物質の健康影響を研究しています。

NIEHSが支援する研究によって、内分泌かく乱物質と、私たちの健康との関係性を理解することができます。

内分泌かく乱物質についての研究は、ジエチルスチルベストロール(DES)という薬剤の、内分泌かく乱作用がわかったところから始まりました。

1940年代から1970年代にかけて、DESは、これが流産を防ぐという「誤った考え」のもと、出産リスクの高い妊婦へ投与されていました。

1972年、DESを服用した母親から生まれた女子は、まれな形態の膣がんを発症しやすく、男子にも女子にも、多くの「非がん性変化」が見られることが明らかになりました。

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DESに関する研究・実験は、DESによる健康被害発見に役立ちました。

NIEHSは、2019年、内分泌かく乱物質の特性に関するコンセンサス・ステートメントの作成に尽力しました。

このステートメントは、内分泌かく乱物質の科学的評価研究に役立つフレームワークを提供するものです。

NIEHSは、内分泌かく乱物質に関する研究プロジェクトを主導し、それらがどのように機能するかを理解し、健康と病気におけるそれらの役割を定義しています。

進行中の研究分野は次のとおりです。

・内分泌かく乱物質がどのように機能するかをよりよく理解するための新しいモデルとツールの開発
・内分泌かく乱作用のある物質を特定するためのアッセイ全体での高濃度の開発と適用
・内分泌かく乱物質への曝露と健康への影響との関連を定義するための動物と人間の健康調査の実施
・ばく露と毒性の新しい評価とバイオマーカーの開発
・新しい介入および予防戦略の特定と開発
・国家毒性プログラムの関連作業

 

Visiting NIEHS

 

2000年、NIEHSと国立毒性プログラム(NTP)が立ち上げた、独立系の専門家委員会は、非常に低用量のホルモン様化学物質が、実験動物の身体機能に悪影響を与える可能性があるという科学的根拠を示しました。

NTPは、農薬、フッ素化合物、BPAに置き換わる可能性のある化合物、難燃剤の成分など、内分泌かく乱物質を、乳房、子宮、脂肪細胞、男性生殖管、肝臓などの体組織にどのように影響するかを評価 しています。

さらなる毒性試験に向けて、内分泌かく乱物質の深刻度を査定できるような実験室研究を実施しています。

NTPの科学者は、米国環境庁(EPA)の研究者と協力し て、ホルモンのエストロゲンとアンドロゲンの相互作用によって、内分泌機能を破壊する可能性のある物質を検出するハイスループットテスト戦略を開発し検証してきました。

さまざまな物質が、ホルモンとどのような相互作用を起こすのかについても、何千もの科学的研究をもとにした包括的データベースを作成しました。

NIEHSなど複数機関が参加している「TOX21プログラム」は、ロボット工学を活用して、環境化学物質の内分泌かく乱作用を予測する新しいモデルとツールを開発し導入しています。

pipettes used in testing




NIEHSによる発見
NIEHSが支援する研究によって、内分泌かく乱物質と、健康被害との関係性が明らかになりました。

注意欠陥・多動性障害(ADHD)
注意欠陥・多動性障害(ADHD)は、最も一般的な、小児期の障害の1つです。青年期から成人期まで続く可能性があります。

ADHDの症状は、集中力を維持すること、注意を払うこと、行動を制御することが困難であることなどです。

研究者はJAMAで、尿サンプルに見られるような特定のフタル酸エステル類に、日常的にばく露することが、青年期のADHDに関連していると報告しています。

妊娠中に医薬品DESを服用した女性の孫は、ADHDを発症しやすくなります。

免疫
高レベルのPFASにばく露された子供は、ワクチンに対する免疫応答が低下していました。

代謝
ヒ素への長期暴露は代謝を混乱させ、糖尿病や他の代謝障害のリスクを高める可能性があります。

乳房
ラベンダーオイルとティーツリーオイルに含まれる化学物質は、潜在的な内分泌かく乱物質です。研究者は、ラベンダーオイル製品への持続的な曝露が、女の子の早期乳房発達、および男の子の異常な乳房発達に関連していることを発見しました。


出産
DESは、マウスの生殖器官において、非遺伝性の変化を引き起こしました。遺伝子のオンとオフの切り替えを阻害している可能性があります。