以下、「薬物代謝の化学反応 シトクロムP450反応を中心として」 からの引用です。
薬物代謝と薬の効き方
薬物代謝は薬の効き方に大きくかかわっている。
経口投与の場合、薬は胃や腸で吸収され、血流に乗ることにより、必要な場所に運ばれる。
つまり、血中濃度が薬の効き方を左右するのであり、薬の血中濃度が有効濃度に保たれている間だけ、薬は身体に作用を及ぼす。
しかし、血中濃度が有効濃度より低くなれば、薬は作用しないし,逆に高くなれば、副作用を生じてしまう。
例えば、ある種の薬物代謝酵素に変異を有している人がいて、この酵素がある薬の分解にかかわっているとすると、その人は通常の人よりその薬の効きが強くなる。
なぜなら、通常の人なら酵素によりどんどん分解されていくはずの薬が体内にずっととどまるために、血中濃度が高くなってしまうからである。
この現象は、薬の効き方の個人差に大きくかかわっており、場合によっては薬の副作用により大きな障害をもたらすこともある。
カルシウム拮抗薬(血圧を下げる薬)などの副作用がグレープフルーツジュースによって増強されることが知られているが、これにも薬物代謝酵素が関係している。
これはグレープフルーツに含まれる成分が,カルシウム拮抗薬を代謝する酵素を阻害することによる。
薬物代謝による薬の活性化
薬によっては、代謝されることによって活性になるものもある。
最近、医療用医薬品から市販薬に切り替えとなった、解熱鎮痛薬のロキソニン(一般名はロキソプロフェン)がその例である。
ロキソプロフェン自体には解熱鎮痛効果はないが、酵素によって化学変化することによりはじめて解熱鎮痛効果を発揮する。
一般に解熱鎮痛薬の多くには副作用として胃粘膜の刺激があるが、ロキソプロフェンは吸収されてから活性物質に変わるために胃腸への障害は少ないとされる。
薬物代謝による生体障害
一方、代謝されることによって、生体障害がもたらされることもある。
ベンゾピレンは発がん性物質として知られているが、その発がんには薬物代謝酵素がかかわっている。
反応により生じた化合物がDNA と結合することにより、発がんを引き起こすのである。
これは、薬物代謝酵素が異物を水溶性に変えて体外に排出しようとすることがかえって仇となってしまう例である。