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EUのグリーンウォッシング禁止法:環境広告の誤解を正すまでの歴史

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EUのグリーンウォッシング禁止法

環境広告の誤解を正すまでの歴史


近年、世界中で「環境に優しい」と謳う広告が増えています。

しかし、その多くは誇張されていたり、根拠が曖昧なまま消費者を誘導する「グリーンウォッシング」の典型例となっています。

EUはこの問題を早くから認識し、2024年には「グリーンウォッシング禁止法」の策定に向けて動き始めています。

この法律が生まれるまでの背景とはどのようなものだったのでしょうか?

企業の「グリーンウォッシング」の実態とあわせて、詳しくご紹介します。

 

1. グリーンウォッシングとは?

「グリーンウォッシング」とは、企業が製品やサービスを環境に優しいように見せかけるマーケティング戦略のことを指します。

例えば、以下のようなケースです。
 例1)紙ストロー
 リサイクル可能と謳うが、実際には再利用が難しい

 例2)化粧品
「天然由来成分」をアピールするが、合成化学物質が大半を占める

 例3)航空会社のカーボンオフセット
「二酸化炭素削減」と言うが、実質的な削減率はごく僅か

このような広告によって、消費者は「環境に配慮した選択をしている」と錯覚し、本当に持続可能な選択肢を見逃してしまうことがあります。

 

 

2. EUが規制に動いた背景

EUがグリーンウォッシングへの規制を強化した理由として、以下の3つが挙げられます。

環境問題の深刻化

  • EUでは気候変動対策を推進しており、企業の広告が実際の環境負荷と乖離していることが問題視されました。
  • 例えば、ファッション業界では「サステナブル素材」を謳った商品が、実は従来型の大量生産品と変わらないことが指摘されています。

消費者の不信感の増加

  • 調査によると、EUの消費者の約60%が「環境広告を信じない」と回答しています。
  • 企業が曖昧な言葉を使い、エコ意識を利用して利益を得ている構造が問題視されていました。

企業の責任強化

  • 2020年、欧州委員会は「New Consumer Agenda」を発表し、企業は環境広告に科学的根拠を示すことを義務付ける方針を打ち出しました。
  • これにより、「持続可能性」をアピールする企業は、具体的な証拠を提示しないと罰則対象となる可能性があります。


3. EUのグリーンウォッシング禁止法の概要

2024年から策定中の「グリーンウォッシング禁止法」には、以下のようなポイントが含まれています。

🔍 環境広告の明確化

  • 「エコフレンドリー」や「グリーン」といった曖昧な表現は禁止されます。
  • 企業は、具体的なデータ(CO2削減率、リサイクル率など)を提示する義務を課せられます。

🚨 誤解を招く広告への罰則

  • 企業が虚偽の環境広告を出した場合、最大で年間売上の10%の罰金が科される可能性があります。

🌍 持続可能性の基準の確立

  • EU全体で環境配慮商品の認証制度を整備し、信頼性のある「グリーンラベル」を付与します。

 

 

4. 海外で問題視された実例

💡 マクドナルドの紙ストロー問題(イギリス)
2018年、イギリスのマクドナルドは「プラスチック廃止」のために紙ストローを導入しました。しかし、後に紙ストローが厚すぎてリサイクルできないことが判明し、結局プラスチックよりも環境負荷が大きいことが問題になりました。リンク

💡 コカ・コーラの環境広告と矛盾
コカ・コーラはCOP27(国連気候変動会議)のスポンサーとなり、「環境保護」を掲げました。しかし、同社は毎年1200億本の使い捨てペットボトルを生産しており、世界トップクラスの環境汚染企業の一つとして批判されています。
アメリカ・ロサンゼルス郡は、2024年、ロサンゼルス郡をペットボトルで汚染し、ペットボトルの環境への影響とリサイクル可能性について住民に誤解を与えたとして、ペプシコーラとコカコーラの両社を提訴しました。

💡 ファッションブランド H&M 顧客に虚偽情報
H&Mは、各製品の環境配慮性について顧客に情報提供するためにスコアカードシステムを使用していましたが、その半数以上は誇張されており、なかには虚偽情報もありました。 環境に配慮しているという情報にウソがあると、ブランドイメージは大きく損なわれます。リンク

 

 

5. 日本と欧米の広告戦略の違い

欧米と比較すると、日本の広告は環境に関する具体的な情報を伝えるよりも、感覚的なイメージを重視する傾向があります。

伝え方の違い

  • 日本
    環境広告に「エコ」「サステナブル」といった感覚的なワードが多く使われ、企業の具体的な環境負荷削減のデータは示されにくいです。
  • 欧米
    企業の環境対策を数値で説明し、論理的な根拠を提示することが一般的。EUでは法的な規制があり、広告の内容に根拠を示すことが求められています。

消費者の受け止め方

  • 日本の消費者は、広告を「イメージ」として受け取ることが多く、具体的な数値よりも感覚的な要素が購買行動に影響するとJ-STAGEの研究で示されています。
  • 欧米の消費者は「環境広告にデータがあるかどうか」を重要視し、根拠のない広告には不信感を持ちやすい傾向があります。

企業の戦略

  • 日本では、「環境に配慮している」といった印象を持たせる広告が多く、消費者が深く考え直す機会は少ないです。
  • 欧米では、企業の環境対策が厳しくチェックされるため、広告内容もより明確に規制されています。

私たち日本人にとって、このような違いを理解することが、環境広告にどう向き合うべきかを考えるヒントになるかもしれません。

 

最後に

日本の消費者は、環境広告に限らず、広告イメージに惑わされやすいことが示されています。

日本では、内容を伴わない環境配慮広告を意味する「グリーンウォッシング」という言葉さえ知られていません。

その理由のひとつとして、消費者教育が遅れていることが考えられます。

欧米と日本の消費者教育の違いについては、また別の記事で掘り下げていく予定です。