一般社団法人化学物質過敏症・対策情報センター

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香りマーケティングの光と影

 

香りマーケティングの光と影

ブランド戦略と社会的影響

 

近年、ホテルや自動車業界、小売業界などさまざまな分野で「香りマーケティング」が活用されています。

香りは記憶や感情と深く結びついているため、ブランドイメージを定着させ、顧客の体験を向上させる手法として「香りマーケティング」を導入する企業が増えています。

その一方で、「香りの強要」は迷惑という声があり、さらには「香害(こうがい)」と呼ばれる、香料による健康被害も問題になっています。

本記事では、香りマーケティングのメリットと課題についてひもといていきます。

 

 

1. 香りマーケティングとは?

嗅覚は、記憶や感情と密接に結びついています。これは、香りが脳の「海馬(記憶を司る)」や「扁桃体(感情を司る)」に直接作用するためです。

香りを取り入れるブランド戦略を「香りマーケティング」といいます。

香りマーケティングは、顧客の記憶に残りやすく、ブランドの世界観を伝える効果があるとされています。

 

🔵ディフューザーでブランドの香りを拡散させる
ディフューザーなどを使って、店内やホテル・企業のロビーなどに「企業ブランドの香り」を拡散させ、特定の香り=ブランドの香りと認識してもらう。

 

🔵アメニティーにブランドの香りを使う
ブランド独自の香りをアメニティーに採用。持ち帰り可能なアメニティーに香りをプラスし、帰宅後もブランドの香りに接してもらうことで、ブランドを身近に感じてもらう。

 

🔵香りつきのお土産
ブランドの香りを使ったお土産を作る。
・お香
・香り袋
・キャンドル
・ディフューザー

🔵印刷物に香りをつける
ダイレクトメールに用いるはがきや便せんに、ブランドの香りをつける。プルースト効果によって、思い出と当時の感情が想起される。

 

 

2. 香りマーケティングのメリット

香りマーケティングのメリットとして、以下のような効果が期待されています。

✅ ブランドの認知度向上:
特定の香りを通じてブランドの個性を確立し、顧客の記憶に残りやすくする。

✅ 顧客体験の向上:
リラックス効果のある香りを活用することで、居心地の良い空間を作り、満足度を高める。

✅ 購買意欲の刺激:
食品や化粧品など、香りが購買行動に影響を与える商品では、販売促進の要素として活用される。

こうしたメリットを期待して、多くの企業が、香りをブランド戦略の一環に取り入れています。

 

 

3. 香りマーケティングの課題と「香害」

一方で、香りマーケティングには課題もあります。その代表的な問題が、「香害(こうがい)」です。

 

香害とは
香害とは、強い香りによって健康被害を受けたり、不快感を感じる人が増えている現象を指します。特に合成香料を含む製品が増えたことで、頭痛、吐き気、呼吸困難などの症状を訴える人が増加しています。

 

香害を悪化させる要因

🚨 香りの強要:
ホテルや公共空間で「無臭」を選ぶ権利がないケースが多く、強い香り、苦手な香りを避けられない。

🚨 化学物質過敏症(MCS):
ごく微量の香料成分でも、具合が悪くなる人がいる。

🚨 香料は大気汚染の原因物質:
NOAAの研究によると、パーソナルケア製品から揮発する成分(香料含む)が、都市部の大気汚染の50~80%を占める可能性がある。

このように、香りマーケティングには

🤤 ブランド体験の向上

🥶 香りの強要によって引き起こされる不快感と健康被害

という二面性、光と影があるのです。

 

 

4. 企業の対応と今後の展望

香害は迷惑だという消費者の声は少しずつ高まっていますが、企業が本格的に対応している事例はほとんどありません。

💡 合成香料の健康被害を認識する企業は皆無に近い
現時点では、企業が「合成香料による健康被害」の報告を受けて対応した具体的な事例は見当たりません。

💡 「無臭」を選べるサービスは限定的
ホテル業界では、「空気清浄機付きの部屋を選べるプラン」などのサービスが提供され始めています。このようなサービスは、香害対策として導入されたものではなく、快適な空気環境を求める宿泊客向けのオプションとして展開されています。

💡 消費者の認識が進むことで、企業の対応が求められる可能性
香害への関心が高まり、無香を求める消費者のほうが多くなれば、香りマーケティングを中止する企業が増えていくと思われます。

 

まとめ

香りマーケティングは、ブランド戦略として有効だとされる一方、苦手な香りを強要されることへの不快感や、さらには「香害」という健康被害を引き起こすリスクがあります。

香りマーケティングによって体調不良になる人が続出しているとなれば、企業のブランドイメージは地に落ちてしまいます。

企業も消費者も、香りマーケティングによって健康被害を受ける人がいることについて、理解を深めていくことが必要です。