一般社団法人化学物質過敏症・対策情報センター

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EUのマイクロプラスチック規制

欧州旗(EU) | 地図に使えるフリー素材
 
 
EUは、マイクロプラスチック規制を推進しています。以下、EUの公式サイトRestriction of microplastics in the EU from 17 October 2023 | Access2Markets の日本語訳です。
 

翻訳文責:
一社)化学物質過敏症・対策情報センター
代表理事 上岡みやえ
 
 
 
EUのマイクロプラスチック規制
2023年10月17日から

2023 年 10 月 17 日より、規則 (EU) 2023/2055 により、環境を保護するために日常の製品におけるマイクロプラスチックの排出を削減することを目的として、合成ポリマー微粒子を単独または混合物に意図的に添加することが制限されます。

EUは、5mm未満の有機性、不溶性、かつ分解しにくい合成ポリマー粒子をマイクロプラスチックとみなしています。この種の粒子は、以下のような多くの製品に含まれています。

  • ラメ剤
  • フェイシャルスクラブやその他の化粧品、
  • 洗剤
  • ワックス、磨き剤、芳香剤、
  • 特定の肥料、植物保護製品およびそれらで処理された種子、殺生物剤、
  • 上記以外の農産物および園芸品
  • 規則(EU)2017/745の対象となる特定の医療機器
  • 合成スポーツサーフェス(人工芝スポーツサーフェスのゴム製基質など)に使用する粒状充填材。

これらの製品の EU での販売禁止を実施するための移行期間は規則で定められており、以下の表に示されています。

 

禁止措置の適用に関する移行期間
(R/EC 1907/2006附属書XVIIの78項6項に基づく)

物質、物質群、または混合物の指定 適用日
  • 洗い流しタイプの製品(皮膚、髪、粘膜に塗布した後に洗い流すことを意図したもの)(角質除去、研磨、洗浄用のビーズが含まれていない場合)
2027年10月17日から
  • 洗剤、ワックス、磨き剤、芳香剤(マイクロビーズを含まないもの)
  • 肥料製品
  • 農業および園芸用のその他の製品
2028年10月17日から
  • 香料のカプセル化に使用する合成ポリマー微粒子
  • 洗い流さない製品(皮膚、髪、粘膜に長時間接触することを目的としたもの)
  • マイクロスフィアを含まない医療機器
2029年10月17日から
  • 植物保護製品およびこれらの製品や殺生物剤で処理された種子
  • 合成スポーツサーフェスに使用する粒状充填材
2031年10月17日から
  • リップ製品、ネイル製品、メイクアップ製品(マイクロビーズを含まないもの)
2035年10月17日から

 

以上が、EU公式サイトの日本語訳です。

 

🔵解 説 🔵

EUの最新のマイクロプラスチック規制は、欧州全体でマイクロプラスチックの排出を大幅に減らすことを目指す大きな政策です。その背景は次のように整理できます。

 

📌マイクロプラスチックとは何か

  • EUでは「5 mm以下で、有機性で水に溶けず、分解しにくい合成高分子粒子」をマイクロプラスチックと定義していますtrade.ec.europa.eu。こうした粒子は非常に小さく、自然環境から取り除くことが困難です。 今では、海や土壌、食物や飲料水からも、広く検出されていますenvironment.ec.europa.eu

  • マイクロプラスチックは、自然環境では分解せず、生物体内に蓄積します。environment.ec.europa.eu。魚介類や家畜を通じて人間が摂取するため、健康への影響が懸念されています。


📌規制が必要とされた理由と政策経緯

  • EUは2018年の「プラスチック戦略」でマイクロプラスチック問題を重要課題と位置付け、削減策の開発を求めましたenvironment.ec.europa.eu。2019年には欧州委員会の科学顧問団が「環境・健康リスク」の報告書を発表し、予防的措置の必要性を指摘しましたenvironment.ec.europa.eu

  • 2020年の循環経済行動計画では、製品に意図的に添加されるマイクロプラスチックの使用制限と意図しない放出の抑制をEUの目標に盛り込み、2021年の「ゼロ汚染アクションプラン」で2030年までにマイクロプラスチックの排出量を30%削減する目標が設定されましたenvironment.ec.europa.eu

  • 欧州化学品庁(ECHA)は2019年に欧州委員会の要請を受けて、意図的に添加されたマイクロプラスチックの制限案を提出しました。欧州化学品庁(ECHA)は、規制が環境中へのマイクロプラスチック放出を大幅に減らし、生態系や人間の健康への利益をもたらすと結論づけていますeeb.org


📌具体的な環境負荷と排出源

  • EU全体では、意図的に添加されたマイクロプラスチックだけで年間約4万2,000トンが環境中に放出されていると推計されていますuwaterloo.ca。主な排出源は人工芝用のゴムチップなどのスポーツ場(38%)、農業用の種子・肥料コーティング(24%)、洗剤などの日用品(20%)ですuwaterloo.ca

  • マイクロプラスチックは海洋や淡水だけでなく土壌にも堆積し、EUの耕作地では下水汚泥を介して31,000~43,000トンのマイクロプラスチックが毎年散布されているとの推計もあります。minagris.eu


📌2023/2055規則の内容

  • 2023年10月17日に発効した規則(EU)2023/2055は、単体のマイクロプラスチックおよびそれを含んで使用時に放出する製品の販売を段階的に禁止します。マイクロプラスチックが含まれる製品としては、ラメ剤、洗顔料・ボディスクラブなどの化粧品、洗剤、ワックスや芳香剤、農業用の肥料・種子コーティング・農薬、医療機器、人工芝のゴムチップなどが挙げられます。trade.ec.europa.eu

  • 新規則は産業界への猶予期間を設けています。例として、マイクロビーズを含む化粧品は2023年10月17日から即時禁止、すすぎ流すタイプの化粧品や固形洗剤などは2027年10月17日から、洗剤・ワックス・肥料などは2028年10月17日から、香料カプセルや「リーブオン」化粧品は2029年10月17日から禁止されます。trade.ec.europa.eu。人工芝グラウンド用のゴムチップや農薬・種子コーティングは2031年、メイクアップ・リップ・ネイル製品は2035年までに禁止される予定です。trade.ec.europa.eu

  • 規制はマイクロプラスチックが含まれていても使用時に排出されない製品や技術的に回収可能な場合など、一部に例外を認めています。ただし、メーカーには使用方法や廃棄方法の指示、排出量報告義務が課されます。 Press corner | European Commission


📌今後の意義

  • 欧州委員会は今回の規制により、今後20年間で約50万トンのマイクロプラスチックの環境への放出を防げると見込んでいます。
    Press corner | European Commission

  • これは「ゼロ汚染アクションプラン」で掲げた30%削減目標に直接貢献し、持続可能な循環経済の実現に資するものです。 environment.ec.europa.eu

  • 微細プラスチック規制は、EUの「グリーンディール」や「プラスチック戦略」「循環経済行動計画」と連動しており、今後は意図的に添加されていないマイクロプラスチック(衣類の洗濯やタイヤ摩耗からの放出など)への対策も進められる予定です。environment.ec.europa.eu

 

 

🔴注意!これはプラスチック規制!香料規制ではない!
マイクロカプセル禁止法でもない!

 

EUのマイクロプラスチック規制(規則 EU 2023/2055)は、人工芝の充填材や洗剤に含まれる微粒子など、意図的に添加された合成高分子微粒子(synthetic polymer microparticles:SPM)の使用を段階的に禁止するものです。

この合成高分子微粒子/SPMには香料を閉じ込めたマイクロカプセルも含まれており、洗剤や柔軟剤に使われるメラミン、ホルムアルデヒド、ポリウレタン製のカプセルは規制対象になります。

規制の対象は「合成」かつ「水に不溶性で難分解な高分子粒子」に限られています。規制本文や科学的解説では次のような例外が明示されています。

  • 規制は 自然由来の高分子(天然に重合したもので化学的に改変されていないもの)や、テスト方法により速やかな生分解性が証明された高分子、2 g/L以上の高い水溶性を持つ高分子、炭素を含まない無機ポリマーなどには適用されませんenveurope.springeropen.com

  • 研究論文では、澱粉・セルロース誘導体・アラビアゴム・アルギン酸塩・ゼラチンなどの 天然高分子を用いたマイクロカプセルは、合成高分子ではないため「マイクロプラスチックには該当しない」と説明されていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。これらは食品の香料カプセルなどで広く用いられています。

  • また、非生分解性のプラスチックカプセルに比べ、植物性タンパク質やその他天然素材を使ったカプセルは使用後に安全に分解し、規制遵守の代替技術として評価されていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov

このように、EUの規制が対象とするのは分解しにくい合成樹脂製のカプセルであり、ゼラチンのような天然由来で生分解性がある素材で作られたマイクロカプセルは、一般的に「マイクロプラスチック」には分類されません。

つまり、EUでは、プラスチック製の香料マイクロカプセルを順次禁止する一方で、代替となる天然素材(ゼラチンや植物タンパク質など)によるカプセルは規制の範囲外とされており、使用が認められます。

ただし、天然素材でも難分解であったり化学的に改質されている場合は規制対象となる可能性があるため、製品ごとに生分解性や溶解性の証明が求められます。