
イントロダクション:香害解決の突破口は学校
「香害」や「化学物質過敏症」の当事者の多くは、体がすり潰されていくような痛みに耐えながら、さらには周囲の無理解によって精神的に追い詰められるという、苦しくてたまらない日々を送っておられます。このような境遇にあっては、社会の理解を得ることも、香害を解決させることも、不可能だと思ってしまうかもしれません。
しかし、突破口はあります。
☞☞☞ 学校です。
「我が家に学生はいない」「私と学校は無関係だ」と切り捨てる前に、学校を「情報提供の場」と捉え直してみてください。
見える世界が、大きく変わってくるはずです。
例えば、毎年4月に学校で実施される健康診断の際に配られる問診票は、
✅定期的に
✅誰一人とりこぼすことなく
✅自分事として向き合ってもらえる
情報ツールのひとつだといえます。
この健康診断問診票に「化学物質や香りによって体調不良になる」という「一行」が追加されたとしたらーーーーー
これまでは「個人のわがまま」や「原因不明の不調」として片付けられてきた問題が、学校行政が取り組んでいる「健康課題」なのだと認識してもらえます。
これは空想物語ではありません。
実際に、沖縄県教育委員会と「ある市の教育委員会(教育委員会名はブログに出さないでほしいといわれたため伏せます)」は、健康診断問診票に、化学物質や香りによる体調不良に関する質問を追加済みです。
学校には毎年たくさんの子どもたちが入学し、進級していきます。子どもたちの背後には、多種多様な属性の「保護者」がいます。
健康診断問診票が少し変わるだけで、子どもたちとその保護者に、「香りによって体調を崩す人がいる」という事実が伝わります。さらには「自分(や自分の子ども)の不調は、香りが原因だったのかもしれない」と気づくきっかけになるのです。
これが10年、20年と続いていった時の社会的インパクトは、想像を絶するほど大きなものになります。
学校で実施される健康診断時の問診票を変える権限を有しているのは教育委員会ですが、私たち一般市民でも、「請願」「陳情」という公的制度を使えば、教育委員会に対して、健康診断問診票の内容を変更してほしいと要望できます。
何よりも今、知っていただきたいのは、「学校で実施される健康診断時の問診票に、化学物質や香りによる体調不良に関する質問を追加してほしい」と陳情(=要望)することが
★無敵フェーズ★
に突入していることです。
本記事では、その理由を
✅法的環境
✅要望の特性
✅先行事例
✅お墨付き:国からの協力依頼
などの側面から解説していきます。
- 1. 【法的環境①】地方分権一括法
- 2. 【法的環境②】【裁量権】学校保健安全法
- 3.【要望の特性】公共性が高く法的にも実務的にも問題がない
- 4. 【先行事例】沖縄県立学校の健康診断問診票
- 5.【お墨付き】【2023年7月】文部科学省からの協力依頼
- 6. あなたの街には、あなたの一筆が必要
- 結論:陳情は「自分の力」を認識できる最高の体験
- 補足:「無敵フェーズ」を最大限に活かすために
1. 【法的環境①】地方分権一括法
国と地方自治体の関係は「上下関係」から「対等・協力」へ
かつて、日本の地方自治体には、国が決定した方針を忠実に実行することが義務付けられていました。しかし、2000年に施行された地方分権一括法(正式名称:地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律)によって、この関係性は劇的に変化しました。
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法的関係の変化: 国と自治体は「上下関係」ではなく「対等・協力」の関係へ。
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決定権の所在: 国は「技術的助言(アドバイス)」をするが、それを地域の制度(例:問診票への質問追加など)に落とし込むかどうかは、各自治体が判断する。
中央省庁から地方自治体への通達は、今は「命令」ではなく「協力依頼」という形になっています。
そして、中央省庁からの協力依頼を実践するかどうかの判断は、地方自治体によって異なります。
今も、中央省庁が地方に命令すれば、全国津々浦々、即変わると思っている人は多いですが、それは過去の話。今は違うのです。
このことを理解しておかないと、政治行政への要望のあり方が頓珍漢なものになってしまいます。
2. 【法的環境②】【裁量権】学校保健安全法
「学校保健安全法」によって、学校の設置者(国や県、市町村、学校法人)は、子どもや先生が安心して元気にすごせるように、学校の建物や環境、運営のしかたをととのえる責任があることが定められています。
子どもたちの健康を脅かす「公衆衛生上の課題」は、時代によって変化します。変化にあわせて問診票(健康調査票)をアップデートさせることは、学校の設置者に課せられている責務のひとつだといえます。
そして、現行制度のなかには、県/市町村の教育委員会が、問診票(健康調査票)の設問を追加・調整することを妨げる規定はありません。
もちろん、問診票(健康調査票)の設問追加・調整は「自由気まま」に行えるものではありません。法令の趣旨に適合させるとともに、専門的かつ医学的根拠を欠くことのないよう、医師や歯科医などの専門家の意見を仰ぐこと、また学校保健委員会等で慎重に審議するなどの「適切な内部審査」を経ることが不可欠です。

3.【要望の特性】公共性が高く法的にも実務的にも問題がない
「学校で実施される健康診断時の問診票に、化学物質や香りによる体調不良に関する質問を追加してほしい」という要望(以下、本要望)には、以下の特性があります。
✅多数の児童に関わる公共性・公益性を備えている
香料等の化学物質は、現代社会のあらゆる場所に存在し、すべての児童生徒が等しくさらされている健康上のリスク要因です。
日本臨床環境医学会等が実施した全国1万人規模の調査(2024〜2025年実施)から、小中学生の約1割が香料等の化学物質による体調不良を経験していることが明らかになっています。
学校で実施される健康診断時の問診票に質問を追加することの第一目的は、全児童の健康状態を客観的に把握することです。本要望に、公衆衛生の向上に直結する、公共性と公益性が備わっていることは明らかです。
✅現行法制度の枠内で十分に実施可能である
本要望を実現するために、新たな法律を作ったり、多額の予算を確保したりする必要はありません。
既存の「学校保健安全法」に基づく健康診断の枠組みの中で、問診票を一部調整するだけです。
すでに使用されている問診票に小さな変更を加えるだけ。現行制度をそのまま活かして運用することが可能です。
✅先行事例が存在する
以下に説明する沖縄県立学校での導入事例によって、問診票(健康調査票)に「化学物質や香りによって体調不良になる」という質問を追加することに、法的制約や事務手続き上の支障がないことが証明されています。
仮に、議会が、本要望を、「前例がない」「法的な判断が難しい」といった理由で却下するならば、それは、法律上の裁量権や先行事例を無視する判断だと言わざるを得ません。
4. 【先行事例】沖縄県立学校の健康診断問診票
一社)化学物質過敏症・対策情報センターが2021年に沖縄県議会に提出した請願書がきっかけとなって、沖縄県立学校では、2022年度から、健康診断問診票に「化学物質や香りによって体調不良になる」という項目が追加されました。
これは、5.で説明する「お墨付き」が配布される前の話です。
地方自治体(教育委員会)は、請願という「住民の要望」があれば、健康診断問診票を変えられることを証明した、極めて価値の高い先行事例だといえます。

5.【お墨付き】【2023年7月】文部科学省からの協力依頼
2023年7月、文部科学省から全国の教育委員会宛てに、「その香り困っている人もいます」ポスター公表について「関係団体等に対する更なる啓発活動に御協力の程よろしくお願いいたします」という消費者庁からの協力依頼が配布されました。
【啓発】
人を教え導き、目を開かせて、より高い知性や理解を与えること。また、一般の人が気づかないような点について、専門の観点から教えること。

出典:茨城県教育庁
消費者庁から出された文書の内容と、それが文部科学省を介して全国の教育委員会宛てに配布されたという事実は、以下のように整理できます。
📌国は、香りによって体調不良を起こす人がいることを把握している
📌国は全国の教育委員会宛てに、「関係団体等」に対して本件を啓発活動してほしいと依頼している
📌学校には、職員・児童生徒・保護者に「香りへの配慮」を呼びかけることが期待されている
つまり、学校で実施される健康診断時の問診票に「化学物質や香りによって体調不良になる」という質問を追加することは、文部科学省/消費者庁からの協力依頼を実践することと同義なのです。
さらには、学校保健安全法が県/市町村の教育委員会に課している「児童生徒等及び職員の心身の健康の保持増進を図るために必要な措置を講ずる」という義務を果たすことにもなります。
問診票に新たな質問を追加することが、文部科学省ではなく、県/市町村の教育委員会の裁量になることは、忘れてはならないポイントです。
6. あなたの街には、あなたの一筆が必要
「文部科学省が、その香り困っている人がいる件について啓発するように協力依頼しているなら、ただ待っていれば、いつか自分の街の学校も変わるはず」
そう思われるかもしれません。
しかし、今の「対等な関係」においては、国には、地方自治体への強制力はありません。協力依頼はできても、実際にどうするかを命令することはできないのです。
つまり、文部科学省の協力依頼は、担当部署が具体的アクションを起こさない限り、「絵に描いた餅」でしかないのです。文部科学省からの協力依頼だけでは、状況は1ミリたりとも動きません。
しかし、私たち住民には、状況を動かせる権利が与えられています。
それが陳情です。
住民からの陳情(要望)があれば、地方議会はそれを審査し採択/不採択を決定します。地方自治体は、それを受けて、通常は、実務に反映します。
「でも、議会に陳情なんて難しそうだし、面倒くさい……」
そう感じる方のために、以下の通り「化学物質や香りによって体調不良になるという質問を、学校の健康診断問診票に追加してほしい」と要望する陳情書のテンプレートを作りました。
陳情書作成かかる時間は30分以内、かかる費用は切手代含め100円少々です。陳情書提出者の個人情報は秘匿されます。
1)お住まいの地域の地方議会の公式サイトから、陳情書フォームをダウンロードする
2)陳情書フォームに、テンプレートの内容を書き写す
3)捺印して、郵送する
たった1枚、陳情書を書いて郵送する。
それだけで、文部科学省の協力依頼という「お墨付き」が動き出し、地域の子どもたちとその保護者に、化学物質や香りによって体調不良になる人がいることが理解されていく。
なんだかワクワクしませんか?
あなたの一筆が、あなたの街に、とてつもなく大きなインパクトを与える「公的スイッチ」になる。
生きててよかったと思える出来事のひとつになるはずです。

【陳情書テンプレート】
令和 年 月 日
〇〇市議会議長 〇〇 〇〇 殿
陳情者
住 所:
氏 名: 印
電 話:
件名:化学物質過敏症に関する陳情
化学物質や香料に反応して多様な身体症状を引き起こす「化学物質過敏症」や「香害」は、公的な診断基準や治療法が未整備であり、社会的認知度も低い疾患です。
そのため、多くの児童や保護者が、香料等の化学物質と体調不良との因果関係に気づくことができず、原因不明の不調に苦しみながらも、適切な理解や配慮を受けられずにいます。
こうした状況を鑑み、すでに苦しんでいる児童の症状悪化を防ぐことはもちろん、原因を知らずに困っている児童も含め、すべての児童が安全に学び続けられる環境を確保するため、以下の通り要望いたします。
【要望事項】
1 〇〇市立学校の教職員に向けて化学物質過敏症について周知すること2 〇〇市立学校で実施される健康診断時に、化学物質過敏症に関する説明文(1と同等)を配布すること
3 〇〇市立学校で実施される健康診断時の健康調査票(問診票)に「化学物質や香りで体調不良になる」という項目を追加すること【要望理由】
◆文部科学省の協力依頼との整合性:
令和5年7月14日、文部科学省は全国の教育委員会に対して、消費者庁からの協力依頼文書「消安全第260号:「その香り困っている人もいます」ポスター公表について(周知)」を配布し、香りによる体調不良について啓発するよう依頼しています。つまり、本要望は、文部科学省/消費者庁の協力依頼を具体化するものです。◆先行事例の存在:
沖縄県立学校においては、2022年度より、健康診断問診票に「化学物質や香りによって体調不良になる」という質問が追加されており、実態把握に結びつく成果を上げています。本要望を導入するにあたって、法的にも裁量範囲においても問題がないことが証明されています。◆学校設置者に課せられている責務との整合性:
学校保健安全法は、学校設置者の責務として「児童生徒等及び職員の心身の健康の保持増進を図るため(中略)管理運営体制の整備充実その他の必要な措置を講ずるよう努める」ことを規定しています。健康診断問診票に本要望を追加することは「管理運営体制の整備充実その他の必要な措置」のひとつであり、香りによる健康被害を正しく把握することが可能となります。◆小中学生の10人に1人が香料等による体調不良を経験
日本臨床環境医学会等が実施した全国1万人規模の調査(2024〜2025年実施)において、小中学生の約1割が香料等の化学物質による体調不良を経験していることが明らかになりました。この実態を踏まえれば、学校保健安全法に定められた『健康状態の把握』を適切に行い、適切な対応を講じることが、学校現場が早急に取り組むべき公衆衛生上の責務であるのは明らかです。
※実際に陳情書を提出する際は、以下の点にご留意ください。
自治体の要件確認:
提出先の議会(市区町村など)により、陳情書の様式、提出方法、連絡先情報の記載ルールが異なります。必ず提出先の地方議会公式サイトで「請願・陳情の手引き」や最新の提出様式をご確認の上、それに合わせて内容を調整してください。
責任の所在:
提出する陳情書の内容は、提出者自身の責任において精査してください。必要に応じて、地域の教育環境や実情に合わせて文章を修正してください。
結論:陳情は「自分の力」を認識できる最高の体験
陳情というアクションは、やってみると、拍子抜けするくらい簡単です。採択されれば、それは喜びと幸せに満ちた体験になります。
ほとんどの人が、「自分は社会に対して無力だ」と思いこんでいますが、それは誤解です。
私たちには、議会に要望する権利(=陳情書を提出する)が与えられています。
議会には、様々なことを要望できます。学校保健行政をより良いものにしてほしいと要望することもできます。その要望によって、議員の認識を向上させ、教育委員会や学校のルールを改善していくことが可能なのです。
請願・陳情のプロセスを経験することは、「自分には社会を変える力がある」という自信につながります。成功した暁には、それは、人生における最上級の「晴れやかな経験」になります。
沖縄県教育委員会の先行事例に、文部科学省/消費者庁の協力依頼が加わり、化学物質過敏症と香害に関する陳情は★無敵フェーズ★に突入したといえる状態です。
この無敵フェーズを追い風に、お住まいの地域を、より良いものへとアップデートしていきませんか?
あなたの街には、あなたの「一筆」が必要です。あなたの「一筆」が、あなた自身を救い、子どもたちの未来を守っていく「力」になるのです。
補足:「無敵フェーズ」を最大限に活かすために
「無敵フェーズ」という言葉は、本記事でとりあげた「陳情書の内容」が、法的環境・先行事例・国からの協力依頼などを有することを指していますが、それは「誰が陳情しても必ず採択される」という意味ではありません。
陳情を審査する議員や行政職員の理解度や、地域の判断基準によっては、残念ながら不採択とされる可能性もあります。
もし「不採択」の通知を受け取ったとしても、それを「終わり」としないでください。
「別の角度からの陳情書を提出する」「首長への要望書を提出する」など、次のアクションへ切り替えることで、さらに深い対話の道が開けます。
陳情とは、議員や行政職員との対話です。一度の提出で完結することもあれば、そうならないこともあります。
そんなときこそ、それを陳情を議員や行政職員の認識をアップデートするための「プロセス」ととらえ、次の一手を考える。それもまた、知的スリルに満ちた楽しい作業です。
