一般社団法人化学物質過敏症・対策情報センター

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日米欧5ヵ国の水道水事情を徹底比較 その1

 

飲んでも大丈夫?処理方法や塩素基準に注目!

💧日米欧の水道水事情を比較してみると

 

水道水は、「そのまま飲める」「煮沸が必要」など、国によって、事情が異なります。

特に、塩素使用量や水処理方法は、健康を守る観点からも見逃せないポイントです。

本記事では、日本・アメリカ・カナダ・ドイツ・フランス5カ国の水道水事情を掘り下げています。

 

 

🔵日本
蛇口からそのまま水を飲める国

  • 残留塩素基準:0.1mg/L以上(最低ライン)
  • 処理方法:塩素殺菌が基本(全国共通)
  • 飲用適性:◎ そのまま飲用可

日本では、安全性確保のために、水道水の塩素濃度を一定量(0.1mg/L以上)に保つことが定められています。日本全国の統一基準です。

 

 

🔵アメリカ
自治体ごとに多様な水質ルールがある

  • 最大残留塩素濃度(MRDL):4.0mg/L(EPA基準)
  • 処理方法:塩素またはクロラミン(中性な塩素化合物)
  • 飲用適性:◎ 都市部では基本的に飲用可能(地域差あり)

アメリカの連邦機関「環境保護庁(EPA)」が、水質の全国基準を設定しており、その運用は、州や自治体に任されています。

ニューヨークやシアトルなど、大都市の水道水は高品質です。

地域によっては、水道水ではなく、井戸水が使われていることがあります。

 

 

🔵カナダ
自治体主導で管理、水質は良好

  • 残留塩素濃度:州ごとに0.1~1.0mg/L前後が一般的
  • 処理方法:塩素が主流だが、低濃度管理されていることが多い
  • 飲用適性:◎ 安定して飲用可能(ただし寒冷地では凍結対策も必要)

地方の自治意識が強いカナダでは、州や地域によって、異なる水質基準を採用しています。

 

 

🔵フランス
「必要最小限の塩素」で味と安全を両立

  • 残留塩素:地域によってゼロ / 0.1mg/L未満 / 0.5mg/L程度
  • 処理方法:主にオゾン+低濃度塩素
  • 飲用適性:◎ しかしボトル水を常用している人も多い

フランスの水道水は安全です。特に、パリ市などの公営水道では、非常に厳格な水道管理を行っています。

気になるのは、フランスの残留塩素濃度の基準が、「ゼロ」「0.1mg/L未満」 「0.5mg/L程度」などと幅広く、地域差が大きいことです。

その背景を探ってみました。

 

💧フランスで残留塩素濃度の基準がまちまちな理由

  1. 全国的な法的上限は存在するが、具体的な数値は柔軟
    ● 
    フランスの水道水基準は、EUの飲料水指令をもとに「安全性を確保しつつ、味やにおいに影響しない範囲で塩素を使用すること」を原則としている。
    ● そのため、明確な「最低濃度」や「全国統一の基準値」は設けられていない。

  2. 地域の水質や配水距離によって必要な塩素量が異なる
    ● 
    たとえば、水源がきれいで配水距離が短い地域では、0.1mg/L未満の超低濃度で運用することが可能。
    ● 一方で、都市部や配水距離が長い地域では、0.3〜0.5mg/L程度の塩素濃度が必要とされるケースもある。

  3. パンデミック時には一時的に塩素濃度が引き上げられた例も
    ● 
    2020年のコロナ禍では、パリやトゥールーズなどで、水の滞留による水質悪化を防ぐために塩素濃度を一時的に増加させた。

 

つまり、フランスに残留塩素濃度の統一基準がないのは、地域の水質・配水条件・設備に応じた、柔軟な対応をしている証なんですね。



🧴フランスのボトル水事情

2016年の調査では、約66%のフランス人が、水道水を飲んでいるそうです。

フランス人はみんな、ボトル水を飲んでいるというイメージが強いですが、実は、水道水も飲まれているんですね。


3割以上の人がボトル水を飲んでいる理由は、安全性の問題というよりも、味にあるようです。

フランスは、水道水の硬度が1000mg/Lを超える地域があるなど、硬水が多い国です。
水は、硬度が高くなるほど、味や口当たりが重くなるため、「飲みにくい水」だと感じやすくなります。

フランスの人たちは、ミネラル成分や硬度をチェックして、自分の好みや体調に合ったボトル水を選んでいるようです。

さらに、最近では、ポット型や蛇口直結型の浄水フィルターを使って水道水を飲む人も増えています。

今のフランスでは「水道水を飲む人」「浄水して飲む人」「ボトル水を選ぶ人」が共存しているんですね。


🔵ドイツ
「そもそも塩素を使わない」水処理の先進国

  • 残留塩素:通常ゼロ(必要時のみ)
  • 処理方法:オゾン・活性炭・UVなど
  • 飲用適性:◎ そのまま飲用可能

ドイツでは、上水道の原水が地下水中心で質が高いこともあり、塩素を使うことなく、安全な飲料水を供給しています。

ベルリンなどでは、水質報告書に「塩素ゼロ」と明記されています。

「ドイツの水道水は塩素を使っていない」——この事実に驚いた人も多いのではないでしょうか? そこで、ドイツの水道水事情を、深ぼりしてみました。

 

💧ドイツが塩素を使わない理由

ドイツでは、原則として、水道水に塩素を常用していません。 
その理由は下記のとおりです。

  1. 原水の質が非常に高い
    ● ドイツの水道水の約70%は地下水が水源。地層によって自然にろ過されており、細菌や有機物の混入が少ないため、消毒の必要性が低い。

  2. 浄水処理技術が高度
    ● オゾン処理、活性炭ろ過、UV殺菌など、塩素に頼らない高度な処理技術が導入されている。
    ● ベルリンでは、緩速ろ過法という自然に近い方法で水を浄化しており、塩素使用量はゼロ。それでも安全性を確保している。

  3. 市民の「味と健康」への意識が高い
    ● ドイツ人は水の味やにおいに敏感なため、塩素臭を「不快」と感じる人が多い。
    ● 塩素と有機物との反応によって生成される有害物質トリハロメタンなどへの懸念もあり、「できるだけ自然な水」を求める人が多い。

 

💧ドイツが水道水の安全を保てる理由

  1. 水源保護が徹底されている
    ● 農薬や化学物質の使用を制限する「水源保護地域」が設けられており、水汚染そのものを防ぐ仕組みが整っている。

  2. 配水距離が短く、密閉性が高い
    ● 都市部では配水管が短く、密閉性が高いため、細菌の繁殖リスクが低い。

  3. 必要時のみ塩素を使用
    ● 大雨や事故などで水質が不安定なときには、一時的に塩素を使用することもあるが、あくまで例外的措置。

  

以上、日本・アメリカ・カナダ・ドイツ・フランス5ヵ国のの水道水は、いずれも飲用に適していることが確認できました。

 

 

🔴水道水をめぐる新たな脅威

しかし今、水道水は、新たな脅威にさらされています。

今まで、水道水の安全性は、腸チフスやコレラ菌などの病原菌が混入しないようにすることで、維持できると考えられていました。

ところが、世界中の河川や湖沼から医薬品やプラスチックなどが検出されるようになり、塩素消毒によっては防げない、水の化学汚染問題が浮上してきたのです。

水道水の化学汚染問題については、日米欧5ヵ国のの水道水事情を徹底比較 その2 で解説していきます。

(続く)

 

 

【参考文献】

https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/health/356313#google_vignette

https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/03/cf98185875c88be3.html

https://www.afpbb.com/articles/-/3015146

https://entrevue.fr/ja/scandale-sanitaire-leau-du-robinet-contaminee-aux-pesticides-17-millions-de-francais-touches/

https://www.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/files/archive/issue/kenkyunenpo/nenpo62/05suzuki.pdf

http://risk.kan.ynu.ac.jp/publish/seino/seino200409.pdf

https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/138/3/138_17-00177-F/_pdf

https://www.kochi-u.ac.jp/agrimar/japan/research/research2023/2023_2.html

https://www.nies.go.jp/kanko/news/22/22-4/22-4-06.html

https://www.city.osaka.lg.jp/suido/cmsfiles/contents/0000245/245422/06-H22kansai.pdf