一般社団法人化学物質過敏症・対策情報センター

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衣類乾燥機の排気に含まれる洗剤成分・香料成分 翻訳

Laundry Room Do's and Don'ts - Scott McGillivray

 

以下 Chemical emissions from residential dryer vents during use of fragranced laundry products 2013 「香料配合洗剤を使用中の衣類乾燥機から排出される化学物質」という論文の翻訳です。

 

翻訳文責:
一社)化学物質過敏症・対策情報センター
代表理事 上岡みやえ

 

 

要約/Abstract

洗濯機や乾燥機で使用される一般的な洗濯製品の成分は、乾燥機の通気口から屋外へ排出される空気に含まれている可能性があります。

しかしながら、排出される物質の種類と量は、ほとんどわかっていません。そこで、

・ヘッドスペース法による、香料配合洗剤・ドライヤーシートのサンプル
・香料配合洗剤・ドライヤーシート使用中の家庭用衣類乾燥機からの排気

に含まれる揮発性有機化合物(VOC)を分析しました。

家庭用衣類乾燥機を2機用意し、①②③それぞれについて、排出される空気を分析しました。

(a) 洗剤類不使用
(b) 香料配合洗剤を使用
(c) 香料配合洗剤とドライヤーシート* を使用

*ドライヤーシートとは、衣類乾燥機にいれるティッシュペーパーのような形の柔軟剤です。

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収集された空気では、アセトアルデヒド、アセトン、エタノールの濃度が最も高く、衣類乾燥機の排気口からは、25種類以上のVOC(揮発性有機化合物)が検出されました。

米国環境保護庁(EPA)によると、これらのVOCのうち、7種類は危険な大気汚染物質(HAP)に、2種類(アセトアルデヒドとベンゼン)は、ばく露レベルに安全なしきい値がない発がん性物質に分類されています。

これは非常に深刻な話です。

ある洗濯洗剤の使用時に排出されたアセトアルデヒドの量は、その地域全体の自動車から排出されるアセトアルデヒドの総量の3%相当でした。

衣類乾燥機という排出源と、それによってもたらされる、ヒトの健康と環境へ潜在的影響について、更なる研究が必要です。

 

 

背景/Background

香料配合洗剤とドライヤーシートは、屋外に排出される空気や、洗濯物の廃水、洗濯物の残留物、その他の経路を通じて、環境中に化学物質を放出します。

洗濯製品に配合される化学物質については、品質表示ラベルに全成分を記載する必要がないため、あまり知られていません(Steinemann2009)。

香料原料として認められている化学物質は2600種類にのぼります。香料製品ひとつに、最大で数百種類の化学物質が含まれている可能性があります(Fordetal。2000; Bickers et al.2003)。

これらの化学物質のなかには、連邦法によって「有毒」または「危険」に分類されているものもあります(Steinemann et al.2011)。

こうした物質が広く使用されていることを踏まえると、香料が配合されている洗剤やランドリシートは、有害物質の潜在的排出源だといえるでしょう。

数少ない先行研究から、香料製品の成分と、それらの行く末、環境への拡散ルートについて確認しました。

いくつかの研究では、製品そのものに配合されているVOC(揮発性有機化合物)を分析していました(Steinemann et al.2011; Wallace et al.1991; Cooper et al.1992; Rastogi et al.2001; Jo et al.2008)。

製品使用によって排出されたVOC(揮発性有機化合物)とオゾンとの反応による二次生成物を調査した研究もありました(Nazaroff and Weschler 2004; Sarwaretal。2004; Destaillats et al.2006)。

合成ムスクと、水、堆積物、空気、下水汚泥、廃水処理施設、水生生物、および家庭用品の関連性を調べた研究もありました(Rimkus 1999; Peck and Hornbuckle 2006; Alvarezetal。1999; Simonich et al。2000、2002; Reineretal。2007; Reiner and Kannan 2006)。

本論は、香料が配合された洗濯製品の使用中に、家庭用衣類乾燥機からの排気に含まれる物質を特定および定量化した、最初の研究(私たちの知る限り)です。

本論の目的は、今後の研究の方向性を指し示す基礎研究として、洗濯製品の使用中に、屋外へと排出される空気に含まれる化合物と濃度を特定し、その潜在的危険性を評価することです。

 

 

アプローチ/Approach

この研究のために、くわしい手順を開発しました(表1を参照)。

各住宅地で、同じ手順を用いて衣類乾燥機と洗濯物を準備し、サンプルを収集して分析しました。

衣類乾燥機から排出される空気は

(a)洗剤類不使用
(b)洗剤のみ使用
(c)洗剤とドライヤーシートを使用

それぞれについて、乾燥運転開始から約15分後、真空にしたステンレス製容器(内側は石英ガラスコーティング)400mL に収集しました。

周囲の空気(衣類乾燥機の排気口から出てくる空気以外)の混入を最小限に抑えるために、容器は、排気口に直接的に接続させました。

この調査は、ワシントン州シアトルの、調査協力志願者の居宅にて、2日間にわたって実施しました。

洗濯機も衣類乾燥機も良好な状態にあり、衣類乾燥機からの排気は、柔らかいアルミニウム管から屋外に排出されていました。

 

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居宅①では、香料配合製品を、たまに使用していました。
居宅②では、香料配合製品を、典型的なパターンで使用していました。

調査には、アメリカ国内の年間売上高トップの液体洗剤(香料配合)とドライヤーシートを使用しました。

洗剤使用量は下記の通りです。どちらも適正量です。
居宅① 縦型洗濯機向きの「regular」量
居宅② ドラム式洗濯機向きの「high efficiency」量

 

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メソッド/Methods


【衣類乾燥機からのサンプル収集】
衣類乾燥機の排気口からの集めた空気を容器に入れ、炭化水素を含まない空気で加圧しました。

 

【ヘッドスペース法】
香料が配合された液体洗剤とドライヤーシート約2 gを、実験室周辺の空気だけが入っている清潔なガラスフラスコ0.5 L に入れ、室温で24時間平衡化しました。

ヘッドスペース法とは

試料水に含まれる有機性揮発性成分を気体としてガスクロマトグラフ(GC)の試料導入部に注入するための前処理・導入方法のひとつです。

試料水を密閉容器に入れて加温すると、試料水上部の空気層に有機性揮発物質が試料水の中から揮散しますが、同時に揮発した物質が試料水へ戻るため、いわゆる気液平衡の状態になります。

この気液平衡の状態となり濃度が一定となった気相部分を、シリンジ等で静かに採取するのが「平衡ヘッドスペース法」と呼ばれる静的サンプリング法です。

ヘッドスペース法とパージ&トラップ法 | 理化学検査 | お役立ち情報 | 株式会社 東邦微生物病研究所

 


ヘッドスペース法によって調整した空気と、衣類乾燥機からの排気、それぞれに含まれるVOC(揮発性有機化合物)を分析しました。

サンプル分析とデータ整理手順は、名目上、(Steinemann etal。2011)に示されている手順と同一です。

米国 EPA Compendium Method TO-15(US EPA 1999)のガイドラインにのっとって、Entech7100A 極低温予備濃縮装置に接続された Agilent6890 / 5973ガスクロマトグラフ/質量分析計(GC / MS)システムを使用し、分析を行いました。

予備濃縮システムは、マイクロスケールのパージ&トラップ法によって、2 mL(ヘッドスペース法)と200 mL(衣類乾燥機からの空気)を濃縮しました。

総イオン電流面積上位20のピークは、各クロマトグラムから選択され、質量スペクトル・ライブラリのマッチングと、提案された構造および分子量と観測されたリテンションタイムとの整合性を考慮したうえで識別されました。

選択したサロゲート化合物の相対応答係数を使用して濃度を推定し、容器内のレベルを希釈補正しました。

ヘッドスペース法によるサンプル濃度が 100μg/ ㎥ 以上、衣類乾燥機からのサンプル濃度が 2μg/㎥ 以上のを超えるVOCのみが報告されました。


結果/Results

衣類乾燥機の排気中から検出されたVOC(揮発性有機化合物)の詳細は、表2の通りです。

(a)洗濯製品不使用
(b)洗剤のみ使用
(c)洗剤とドライヤーシートを使用

洗剤を使用中に、両居宅にて、21種類のVOC(揮発性有機化合物)が検出されました。(居宅①で13種類のVOC、居宅②で19種類のVOC)

以下の次のVOC(揮発性有機化合物)は、「洗剤のみ」使用中に、片方または両方の居宅から検出されましたが、「洗剤製品不使用」では検出されませんでした。

・アセトアルデヒド
・アセトン
・ベンズアルデヒド
・ブタナール
・ドデカン
・ヘキサナール
・リモネン
・ノナナール
・1-プロパナール
・2-ブタノン

「洗剤のみ使用」の排気から検出されたVOC(揮発性有機化合物)のうち4種類が、洗剤製品のGC /MSによる分析によって、ヘッドスペース法のサンプルからも検出されました(表3):

・ドデカン
・エタノール
・リモネン
・2-ブタノン

洗剤とドライヤーシートの使用中に、両居宅にて25種類の化合物が特定されました(居宅①で16種類のVOC、居宅②で24種類のVOC)。

以下のVOCは、「洗剤および乾燥機シート」の使用中に、片方または両方の居宅で検出されましたが、「洗剤製品不使用」では検出されませんでした。

・アセトアルデヒド
・アセトン
・ベンズアルデヒド
・ブタナール
・ドデカン
・ヘキサナール
・リモネン
・ノナナール
・オクタナール
・テトラメチルプロピリデンシクロプロパン
・1-(1,1-ジメチルエチル)-4-エチルベンゼン
・1-プロパナール
・2-ブタノン
・2,7-ジメチル-2,7-オクタンジオール


 「洗剤とドライヤーシート」を使用したサンプルから検出されたVOCのうち、4種類が、洗剤製品のGC /MSによる分析によって、ヘッドスペース法によるサンプルからも検出されました(表3):

・ドデカン
・エタノール
・リモネン
・2-ブタノン


下記8種類のVOCが、ドライヤーシートのGC /MSによる分析によって、ヘッドスペース法によるサンプルからも検出されました(表4):

・アセトアルデヒド
・アセトン
・ブタン
・エタノール
・イソプロピルアルコール
・リモネン
・メタノール
・2,7-ジメチル-2,7-オクタンジオール

香料配合製品使用中の衣類乾燥機から収集したサンプルにおいて、濃度が高かったのは、アセトアルデヒド、アセトン、エタノールでした。

・アセトアルデヒド:22〜47 μg /㎥
・アセトン:24〜36 μg / ㎥
・エタノール:15〜50 μg / ㎥

調査を行った地域の、アセトアルデヒドとアセトンの年間平均濃度は下記の通りでした。

・アセトアルデヒド:0.8 μg /㎥ (月平均範囲0.5~1.2μg/ ㎥)
・アセトン:2.3 μg / ㎥ (月平均範囲1.4~3.0μg/ ㎥)

調査地域の大気と比べると、衣類乾燥機の排気中のアセトアルデヒド濃度は25倍以上、アセトン濃度は10倍以上高かったわけです(USEPA2008)。

衣類乾燥機の排気中から検出されたVOC アセトアルデヒド、ベンゼン、エチルベンゼン、メタノール、m / p-キシレン、o-キシレン、トルエンは、米国環境保護庁(EPA)によって、危険な大気汚染物質「HAP」に分類されている物質です(US EPA 1994)。

衣類乾燥機の排気から検出された7種類のVOC(揮発性有機化合物)の濃度はどれも、大気中の年間平均濃度よりも高いことが判明しました。

衣類乾燥機からの排気が、大気汚染の原因になっている可能性があります。

7種類のVOC(揮発性有機化合物)のうち、アセトアルデヒドとベンゼンは、発がん性があるHAPに分類されており、安全とされる「しきい値」はありません(US EPA 2005,2010)。

 

衣類乾燥機:有害排気の深刻さ

衣類乾燥機の有害排気の深刻さを把握するために、本調査にて使用した洗濯洗剤のアセトアルデヒドの年間排出量を推定し、ワシントン州キング郡を走る自動車の排気ガスに含まれるアセトアルデヒドの年間排出量と比較しました。

ワシントン州キング郡では、本調査にて検出された、香料配合洗剤由来のアセトアルデヒドの年間排出量は、およそ1660ポンド/年(=753キロ/年)になります。

ワシントン州キング郡の自動車の排出量、56000ポンド/年(25401キロ/年)と比較すると、この洗濯洗剤のみを使用した場合の乾燥機の通気口の排出量は、自動車の排出量の3%に相当します。

売上ランキング2~5位内の香料配合洗剤の成分が、ランキングトップの香料配合洗剤の成分と大きくは変わらないと仮定し、それらの洗剤の市場シェアを踏まえると、家庭用衣類乾燥機からのアセトアルデヒドの排出量は3545ポンド/年(1608キロ/年)となります。これは、同地域の自動車由来のアセトアルデヒド排出量の6%に相当します。

 

 

議論/Discussion

香料配合の洗濯製品を、規定量を守って使用したときに、家庭用衣類乾燥機から排出される成分を調査しました。

調査した居宅2カ所の家庭用衣類乾燥機から、2種類の発がん性物質を含む7種類のHAPと、25種類以上のVOC(揮発性有機化合物)が検出されました。

衣類乾燥機から排出される危険有害物質の特定と定量化ができたことは注目に値します。

香料配合洗剤を使用後の衣類乾燥機の排気と、ヘッドスペース法によるドライヤーシートのサンプルから、アセトアルデヒドが検出されました。

しかし、ヘッドスペース法による香料配合洗剤のサンプルからからは、アセトアルデヒドは検出されませんでした。

したがって、アセトアルデヒドは、リモネンやテルペンなどの成分と「何か」が反応して生じた、二次汚染物質である可能性があります(Nazaroff and Weschler2004)。

その「何か」には、オゾン、以前使用していた製品の残留物質、熱、乾燥機の中で生じた化学反応、その他が考えられます。

ヘッドスペース法によるサンプルを GC / MS 分析することで同定できたVOCは、品質表示ラベルには記載されていない物質です。

洗濯洗剤の安全データシート(MSDS)に記載されていたのはエタノールのみ、それ以外のVOCは記載されていませんでした。

品質表示ラベルと安全データシート(MSDS)には、化学成分ではなく「生分解性界面活性剤」「軟化剤」「香料」などと説明されていました。

したがって、消費者は、製品から放出される、潜在的に危険な化学物質について、知ることができません。

本論は、香料配合洗剤で洗った衣類を、ドライヤーシートを投入した衣類乾燥機で乾かしているときの排気を分析した、初めての研究です。

衣類乾燥機の排気には、危険有害性が高いものを含む(US EPA2010)、多種類の化学物質が含まれていることを発見しました。

香料配合洗剤・ドライヤーシート・衣類乾燥機を使用すると、危険有害性が高いアセトアルデヒドが生成されます。このことが、人口密集地域の大気のアセトアルデヒド濃度を高めている可能性があります。

本論の目的は、サンプルに含まれる物質の種類、濃度、潜在的危険性を指摘することです。同定した化合物の正確な発生源を説明するものではありません。

衣類乾燥機の排気が、環境とヒトの健康に及ぼす潜在的影響を解明するためには、さらなる研究が必要です。

今後の研究が待たれる課題:
・香料が配合された洗濯製品の持続性(以前使用していた製品の残留度)
・香料が配合された洗濯製品を使用したときの排気
・無香料製品と香料製品の排気の比較
・半揮発性有機化合物の排出量
・二次生成物の排出量
・衣類乾燥機排気口周辺の空気調査