一般社団法人化学物質過敏症・対策情報センター

推定患者数1000万人。化学物質過敏症と共生できる社会は、誰もが安心して暮らせる社会。

腸内細菌による環境汚染物質の解毒④ 翻訳

以下、The gut microbiota: a major player in the toxicity of environmental pollutants? 2016   「腸内細菌による環境汚染物質の解毒」という論文の翻訳です。

腸内細菌による環境汚染物質の解毒③ の続きです。

 

翻訳文責:
一社)化学物質過敏症・対策情報センター
代表理事 上岡みやえ

 

目次

 

腸内細菌によって代謝される環境化学物質

 

アゾ染料

アゾ染料は、1つまたは複数のR1-N=N-R2結合を含む化合物のグループです。繊維、紙、食品、化粧品、医薬品などの製造に、少なくとも3,000のアゾ染料が用いられています。

アゾ染料のうち、食品の着色料として、シトラスレッドNo.2、アルーラレッド、タルトラジン、サンセットイエロー、オレンジB の5つが使用されています。

広く使用されているアゾ染料には、細胞毒性、変異原性、発がん性はないとされています。

アゾ染料の一種「スーダン染料」は、プラスチック、印刷インク、ワックス、革、布地、床磨き剤に使われています。

スーダン染料は、ほとんどの国で食品への使用が禁止されているものの、食品の色を維持するために、違法使用されています。

ヒトは、飲食、吸入、皮膚接触を通して、スーダン染料とパラレッドを摂取しています。

複数の研究によって、腸内細菌が生成するアゾレダクターゼが、様々なアゾ染料のアゾ結合切断を触媒し、発がん性がある芳香族アミンを作りだしていることが証明されています [72]。

たとえば、ヒトの糞便懸濁液は、スーダンI、スーダンII、パラレッドを、アニリン、2,4-ジメチルアニリン、o-トルイジン、4-ニトロアニリンへと代謝する可能性があります [73]。

通常ラットを用いた生体実験では、アゾベンゼンはアニリン(アミノベンゼン)に還元されますが、無菌ラットでは還元されませんでした {74}。

これらの、細菌によって代謝される物質のうち、o-トルイジンはヒトの発がん物質、アニリンは潜在的な発がん物質として分類されています。

 

 

メラミン

中国では、タンパク質含有量をかさ増しするために、ペットフードと幼児用ミルクにメラミンが配合されていました。2008年、このメラミンによって、動物と子供が腎不全になって死亡したと報道され、注目を集めました。

この腎障害は、メラミンと尿酸、またはメラミンとシアヌル酸から形成された腎臓結石が原因だと考えられています。

Zheng らは、抗生物質を投与したラットでは、メラニン毒性が有意に減弱したと報告しています。試験管テストでは、メラミンは、ラットの糞便から培養した細菌によってシアヌル酸に変換されました。

その後、メラミンをシアヌル酸へと変換したのは、糞便中のクレブシエラ菌だったことが特定されました。

クレブシエラ菌 terrigena がコロニー形成したラットは、メラミン誘発性の腎毒性が悪化することが示されました [75]。

したがって、メラミンの腎毒性は、腸内細菌によって媒介されている可能性、腸内細菌の組成と代謝活性に左右される可能性があります。

 

 

人工甘味料

人工甘味料は、カロリー摂取量を減らすために、1世紀以上前に、ヒトの食事に導入されました。現在では、ダイエットドリンクや食品などに添加され、広く消費されています。

人工甘味料が健康に与える影響については、激しい議論が交わされ続けています。

人工甘味料が、消費者に利益をもたらすことは、複数の研究によって示されています [76]。その一方で、人工甘味料は2型糖尿病の発症リスクを高めるという報告もあります [77]。

チクロは、ヨーロッパで最も広く使用されている人工甘味料の1つです。チクロはチクロヘキサミンへと代謝されます。英国と米国では、チクロヘキサミンがチクロに発がん性をもたらしていると考えられており [78]、チクロを禁止しました。ただし、チクロの毒性については、議論する余地は残っています。

興味深いのは、チクロ代謝を誘導できるところです:
放射性標識用量を投与する前のラット、ウサギ、モルモット、そしてチクロを日常的に消費しているヒトの尿中から、14C-チクロの主な代謝物としてチクロヘキサミンが検出されています [79]。

チクロ代謝を担っているのが腸内細菌であることを示す証拠はたくさんあります:
試験管実験では、チクロは、下腸の内容物によってチクロヘキサミンへと変換されますが、チクロで前処理されたラットの組織によっては変換されないことが示されています [80]。

数か月間、チクロ入りの水を飲まされたラットは、チクロヘキサミンを排出する「コンバーター」になりましたが、水に抗生物質を加えると、チクロはチクロヘキサミンに変換されなくなりました [81]。

これらの観察結果をヒトにまで広げている論文は多く [82]、チクロ代謝を担っているのは腸内細菌だけであるという証拠を提供しています。

 

 

腸内細菌による環境汚染物質の解毒⑤ に続く