チェルノブイリの長い影
『チェルノブイリの長い影(要約版)』(2006年)は、1986年4月におきたチェルノブイリ原発事故の当時国ウクライナの政府が、放射能汚染がもたらした健康被害と、その対策についてまとめた報告書です。
『チェルノブイリの長い影(要約版)』(2006年)には、「放射性物質と化学物質が相互的に作用して複合的影響をもたらしている」という報告があります。
以下、101頁からの抜粋です。
放射性~生化学の相乗作用
チェルノブイリの生存者の健康状態が、放射線曝露だけでなく、他の多くの環境汚染による悪影響も受けていることに留意することが重要である。
ウクライナの放射線汚染区域は、まさに壊滅的な環境状態にある。放射線と、工業毒や農業毒の複合的影響は、放射性~生化学の相乗作用を蓄積させる役目を果たすものとなっている。
さらに、保存剤、安定剤、乳化剤、調味料、着色料をはじめとする物質が含まれている食品によって、有害な異物が体内に入り込むこともある。
2006年現在、生物学的検査によって、80年前は自然界に存在しなかった、ほぼ500種類の化学物質が、平均的な人体に含まれていることが確認されている。
われわれの体そのものが、「生化学的混合物」の体系に変換し続けているのである。
この複雑さのなかで、ストレス要因またはストレス負荷、生活の質の低下および睡眠不足や栄養不良が増強すると、身体的疾患、病的状態、身体障害が悪化し、平均余命がさらに短縮するおそれがある。
このため、環境の悪化した地域や汚染された地域に居住する人については、健康を守り、体を回復させるための予防策をとり、至適条件を作り出すことが特に重要である。
ではどうすれば、上に挙げたことを達成し、達成可能にすることができるのであろうか。
このような場合の最も効果的措置のひとつが、放射線で汚染された食品の排除、放射性または毒性の化学汚染物の低減または排除など、有害因子を残らず取り除くことである。
残念ながら、そのような根本的かつ包括的な方法は、事実上不可能である。
この現状において最も現実的で実行可能であると考えられるのは、毒性または放射性の健康影響を少なくし、複雑な予防策や公衆衛生プログラムによって、これ以外の有害因子を減少させることである。
日本国内の土壌汚染
2011年3月に起きた福島第一原発事故によって、大量の放射性物質が環境中に放出されてしまいました。農林水産省が作成した「農地土壌の放射性物質濃度分布図」には、放射性物質が広範囲に飛散したことが示されています。
画像引用:農地土壌の放射性物質による汚染状況の把握
原発事故は、長期間にわたって、甚大な被害をもたらします。
2019年9月に東京都内の公園の土を計測したところ、高濃度の放射性セシウムが検出されました。
事故から8年以上経過してもなお、原発事故の現場から200キロ以上離れた場所の土壌が高濃度に放射能汚染されているという事実は、重いです。
予防策を講ずる
「工業毒」や「農業毒」が、放射性物質とあいまって更なる悪影響をもたらすことは、原発事故「後」を生きねばならなくなった私たち日本人にとって、非常に大きな問題といえます。
原発事故も、放射能汚染も、なかったことにはできませんが、だからこそ、「工業毒」や「農業毒」を回避することの重要性は高まるばかりです。
ウクライナ政府は、「予防策や公衆衛生プログラムによって、有害因子を減少させること」が現実的かつ実行可能であると提言しています。
有害因子とは、
・「工業毒」や「農業毒」
・ストレス要因またはストレス負荷
・生活の質の低下
・睡眠不足
・栄養不良
などです。
これらが増強すると、身体的疾患、病的状態、身体障害が悪化し、平均余命がさらに短縮するおそれがあると、ウクライナ政府は憂慮しています。
有害因子は、日々の生活のなかに潜んでいます。
日々の「生活術」を通して有害因子を排除することが、ひとりの生活者としての合理的かつ有効な「予防策」となります。
原発事故「後」を生きねばならなくなったことも、その先例があることも、悲しいことではありますが、どのような策を講じればよいのかの指針が存在することに感謝し、有効な予防策を実行していくことが、今を生きる私たちと、未来世代の命を守っていくことになるはずです。