一般社団法人化学物質過敏症・対策情報センター

推定患者数1000万人。化学物質過敏症と共生できる社会は、誰もが安心して暮らせる社会。

抗生物質・耐性菌・感染症

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畜への抗生物質投与

家畜を育てるとき、抗生物質が投与されます。抗生物質を使用する目的は2つです。

1 家畜を早く太らせること

2 病気が拡がりやすい、過密で不衛生な条件下で飼育しても健康を保つこと

家畜は、栄養剤を与えるよりも、抗生物質を与えるほうが、短時間で肥え太ります。抗生物質を与えておけば、劣悪な環境で育てても病気になりにくいため、畜産業者にとっては一石二鳥です。

全世界の抗生物質の50%を消費する中国では、抗生物質の半分を、家畜や水産養殖の分野に使っています。


トへの抗生物質投与

2009年に発表された、医師169人(うち開業医67人、勤務医98人、記載なし4人)へのアンケート調査の結果です。

問: 前日から発熱(38度以上)し、症状から鼻咽頭炎と診断した子どもに抗菌薬を使用するか

答: 処方する       48% 

   処方せずに経過をみる 47%


検査の物理的・時間的制約がある中で、早期判断を迫られる医師が『念のために』と処方する、重症化したときのリスクが高い子どもには前もって処方する、という傾向があるとみられています。

免疫機能の発達途中である乳幼児や⼦どもほど、抗⽣物質が処⽅されるのは世界的傾向ですが、抗⽣物質を乱⽤すると、有益な常在細菌が減り、免疫機能に異常をきたすという問題も起こります。

 

剤耐性菌の出現とヒトへの感染

抗生物質を投与されたヒトや家畜の体内では、大半の細菌が死滅しますが、遺伝子変異により抗生物質が効かないものが生まれます。「薬剤耐性菌」です。


抗生物質の開発と耐性菌の出現はいたちごっこです。1960年に作られた抗生物質メチシリンに対してメチシリン耐性⻩色ブドウ球菌(MRSA)が出現し、そのMRSAの治療のために開発された抗生物質バンコマイシンに対して、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)が出現しました。


のちの遺伝子解析によって、オランダに、自身が飼育する家畜と接触したたことが原因で、MRSAに感染した農夫がいたことが判明しています。家畜への抗生物質使用から耐性菌が出現し、ヒトへ感染したことがわかった事例です。

 

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薬剤耐性菌が増えると、命にかかわるような病気や手術のときに、抗生物質が効かなくなってしまうため危険です。

世界では毎年、推定6億人(およそ10人に1人)が大腸菌やサルモネラ菌などによる食中毒に感染しており、特に死亡率が高いのは5歳未満の子どもです。食中毒のほとんどは、抗生物質の効かない細菌によって引き起こされており、その多くは大量生産される鶏肉によってもたらされているともいわれています。

WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長は「薬剤耐性は、私たちが無視することのできないグローバルな脅威です。強力な一丸となった行動でこの脅威に取り組まなければ、私たちは抗菌薬耐性により、人間が一般的感染症を恐れ、ちょっとした手術でも生命が危険にさらされていた時代に逆戻りしてしまうでしょう」と語っています。

2014年に発表されたレポートには、抗菌薬耐性菌による死者は、世界中で70万人に上り、何も対策をとらなければ、1千万人が命を落とす可能性もあると報告されています。


トへの抗生物質乱用をとめよう

「小児呼吸器感染症診療ガイドライン」(日本小児呼吸器疾患学会・日本小児感染症学会発行)には、いわゆる「風邪」は、そのほとんどがウイルス感染によるもので、細菌を殺すための抗生物質に直接的な効き目はないとされる。むしろ抗生物質を乱用すると、体内に耐性菌が増殖し、感染症治療を難しくする恐れがあるため、乱用を抑制する指針が示されています。

もちろん、抗生物質投与が望ましいケースもあります。あくまで、乱用するのは避けようという話です。

医師から抗生物質を出されたときには、それが検査結果に基づいた処方なのか、あるいは「念のために」「前もって」処方されたものなのかを確認することが、患者サイドに求められる時代になっています。

抗⽣物質を乱⽤すると、有益な常在細菌が減少し、⼈間⾃⾝の免疫機能に異常をきたしてしまいます。抗生物質は、どうしても必要なときだけ、必要最小限の量だけを服用するよう気をつけましょう。



畜への抗生物質乱用をとめよう

豚コレラの拡大により、中国では1億頭の豚が、世界では1/4の豚が処分されています。家畜を早く太らせるために抗生物質を投与しながら、病気が拡がりやすい、過密で不衛生な条件下で飼育しているわけですから、伝染病が流行しても不思議ではありません。

家畜に抗生物質を与えて劣悪な環境で育てることは、短期的にみれば高い利益をあげられるかもしれませんが、豚コレラのような伝染病が流行すれば、それまでの利益も吹っ飛んでしまいます。

家畜に抗生物質を投与せず、ストレスを受けにくい環境で育てることによって、家畜の免疫力が高まれば、豚コレラのような伝染病が大流行することもなくなり、食肉を安定的に生産できるようになるのではないでしょうか。

長期的にみれば、そのほうが、畜産業者にも、消費者にも、そして環境にも利益となるはずです。

2014年、年間90億羽の鶏を生産する、米国で4番目に大きな鶏肉会社パデュー(メリーランド州)が、抗生物質の使用を中止すると宣言しました。

これが突破口となって、コストコ、ウォルマート、マクドナルド、タコベル、サブウェイ、ケンタッキーフライドチキンなどの企業が抗生物質の使用を減らしていくと発表しました。

病院、学校、調理師団体、農家、そして子を持つ普通の親たちが、これ以上質の悪い食品を作らないでほしいと声を上げたことも、企業の方針転換を促しました。消費者として声を上げることも大切です。