
公衆衛生の世界的機関CDCは、職場ルールとして香料製品を使用禁止にしている
無香料にすることは、もはや「マナー」ではなく「職員の義務」
香水や柔軟剤、芳香剤などの「香り」によって体調を崩す、いわゆる「香害」は、日本では今なお「においの好みの問題」「気にしすぎ」と受け取られがちです。
しかし、世界の公衆衛生政策をリードしてきたCDC(米国疾病予防管理センター)は、香害を職場の安全と健康に関わる問題として捉え、その対策方法をルールとして明文化しています。
本記事では、CDCが、誰に対して、どのようなルールを課しているのかについて、紐解いていきます。
CDCとはどんな組織?
CDC(Centers for Disease Control and Prevention/米国疾病予防管理センター)は、アメリカ合衆国政府の公衆衛生を担う中核機関です。
感染症対策の他、環境医学、労働衛生、慢性疾患予防など、幅広い分野において、科学的根拠に基づくリスク評価と政策提言を行う実務機関でもあります。
CDCは
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科学的データに基づいて健康リスクを評価する
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国としての対応方針を示す
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医療・行政・産業の現場に具体的な指針を与える
などの現場と政策をつなぐ役割を担っています。
CDCの判断や方針は、アメリカ国内だけでなく、WHO(世界保健機関)や世界各国の保健当局にも、広く参照されています。
このCDCが、「香料」を職場の健康リスクとして明確に扱っていることには、大きな意味があります。
CDCが定めた室内環境にかかわる方針
CDCは、2009年に、「Indoor Environmental Quality Policy」という文書を、CDC職員向けに配布しています。
「Indoor Environmental Quality Policy」とは、CDC職員や来訪者の健康を守ることを目的とし、そのためには室内環境の質を維持する必要があるという視点から、CDCのすべての施設における建物管理方法、清掃方法、使用される製品、職員の行動に至るまでを定めた、室内環境を保全するための包括的な方針です。
「Indoor Environmental Quality Policy」では、香料製品の取り扱いについても、明確な規定が設けられています。
C. Building Occupants:建物利用者
「Indoor Environmental Quality Policy」において、香害の観点から特筆すべきは、
C. Building Occupants(建物利用者)の項目です。
C. Building Occupants
It is important that personnel be aware that the use of some personal care products
may have detrimental effects on the health of chemically sensitive co-workers.
Personal care products (colognes, perfumes, essential oils and scented skin and hair
products) should not be brought into, used, or otherwise applied at or near actual
workstations, in restrooms, or anywhere in CDC facilities.
C. 建物利用者
重要なのは、パーソナルケア製品を使用することによって、化学物質に敏感な職員の健康に有害な影響を与える可能性があることを認識することです。
パーソナルケア製品(コロン、香水、エッセンシャルオイル、香り付きのスキンケア製品やヘアケア製品)は、作業スペース、その付近、トイレ、そしてCDC施設内のいかなる場所に持ち込むことも、使用することも、塗布することもできません。
つまり、CDCは、香りの問題を「好み」や「感覚」の話ではなく、「健康に有害な影響を及ぼしうるもの」として、全職員に説明するとともに、CDCの施設内では香料製品を使用してはならないことをルール化しているのです。
明確な「職場ルール」
CDCの考え方と対応は、とてもはっきりしています。
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香りで体調を崩す人がいる
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それは職場として配慮すべき健康問題である
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ゆえに、全職員に対して、施設内における香料製品不使用を義務付ける
つまり、香害対策を、
● 苦しんでいる人に我慢を強いる
● 周囲にいる人の善意に委ねる
のではなく、職場ルールとして明文化しているのです。
日本では・・・
日本では今なお、
「香りが苦手なのは個人の問題」
「気にしすぎ」
と扱われることが少なくありません。

しかし、世界的な公衆衛生機関であるCDCが、香料を「健康に有害な影響を与えうるもの」として位置づけ、使用不可とすることを明文化している事実は、軽視してよいものではありません。
香害は、好みの問題ではなく、健康問題
日本においても、まずは、
・役場
・病院
・学校
において、香害は「個人の感じ方の問題」ではなく、「職場の安全・健康管理の問題」であると明文化し、職員に対して、施設内で香料製品を使ってはならないと義務付けることが望まれます。
それは、「労働契約法」「労働安全衛生法」「学校保健安全法」が、雇用主に課している安全配慮義務とも整合します。
◆労働契約法
労働契約法 第5条には、事業者には、労働者の生命や身体の安全に十分配慮する義務があると定められています。
労働契約法(労働者の安全への配慮)
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
◆労働安全衛生法
労働安全衛生法 第10条にも、事業者には、労働者の健康を守るための措置を講じる義務があると定められています。
労働安全衛生法(総括安全衛生管理者)
第十条 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定めるところにより、総括安全衛生管理者を選任し、その者に安全管理者、衛生管理者又は第二十五条の二第二項の規定により技術的事項を管理する者の指揮をさせるとともに、次の業務を統括管理させなければならない。
一 労働者の危険又は健康障害を防止するための措置に関すること。
二 労働者の安全又は衛生のための教育の実施に関すること。
◆学校保健安全法
学校保健安全法は、学校における児童生徒等及び職員の健康の保持増進を図ることを目的として定められています。
学校保健安全法
(学校保健に関する学校の設置者の責務)
第四条 学校の設置者は、その設置する学校の児童生徒等及び職員の心身の健康の保持増進を図るため、当該学校の施設及び設備並びに管理運営体制の整備充実その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
・役場 ・病院 ・学校 はもちろんのこと、法的に「安全配慮義務」を課せられている民間企業が、そのことを認識し、こうしたルールを採用するようになれば、香害という問題は沈静化していくはずです。