一般社団法人化学物質過敏症・対策情報センター

推定患者数1000万人。化学物質過敏症と共生できる社会は、誰もが安心して暮らせる社会。

化学物質過敏症とは アリゾナ先端医療センター2013年

Arizona Center for Advanced Medicine

 

以下、Arizona Center for Advanced Medicine Multiple Chemical Sensitivity (MCS) - 2013

の翻訳です。

 

 

翻訳文責:
一社)化学物質過敏症・対策情報センター
代表理事 上岡みやえ

 

 

 

 

学物質過敏症(MCS)

この現象は、1950年代初頭に、当時ノースウェスタン大学の教授だったランドルフ博士(Theron G.Randolph)によって、世界ではじめて指摘されました。

 

Hypersensibilités environnementales : deux solitudes médicales – Maison du  21e siècle – Le Magazine de la Maison Saine


ランドルフ博士は、彼の患者のなかに、インディアナ州北西部とシカゴ南部の、先進的工業地帯を通りがかるときに「石油化学由来の体調不良」を起こす人たちがいることを指摘しつつ、人間は、新しい合成化学物質には適応できないため、新しいタイプの「過敏症」がもたらされたのではないかと述べました。

ランドルフ博士は、化学抗原は、体から常時排除されるわけではなく、脂肪組織に留まり、免疫系への継続的な刺激物として作用する可能性があると考えていました。

ランドルフ博士は、物質に感作された人は、その後のばく露によって、深刻かつ衰弱させる反応性につながる可能性があると主張する、新しいタイプの「臨床生態学者」でした。

化学物質過敏症(MCS)は、臨床生態学者によって、空気、食品、水に含まれる、潜在的に有毒な化学物質に対する「副作用」として定義されています。副作用が起きる化学物質の濃度は、ほとんどの人に無害とされるレベルです。[1]

 

化学物質過敏症(MCS)を「究極の20世紀病」と表現する人もいます。これを発症した人は「現代の坑道のカナリア」と呼ばれることもあります。研究者・作家のパメラ・リード・ギブソン博士は、次のように述べています。

 

化学物質過敏症(MCS)は工業化によって引き起こされます。化学物質によって身体障がいを起こす化学物質過敏症(MCS)は、工業文明を告発する病、工業文明とは共存できない病といえます。
化学物質それぞれの「リスク評価」を行い、一定数の人々が、化学物質へのばく露によって病気になったり亡くなったりすることを許容することが、我々の文明なのです。[2]

パメラ・リード・ギブソン博士

 

現在、推定80,000種類の化学物質が流通しています。一つひとつの化学物質が、あるいは混ぜ合わされた化学物質が、ヒトの健康にどのような影響を及ぼすのかについては、ほとんどわかっていません。

化学物質過敏症(MCS)の人は通常、石油由来の化学物質に、高頻度で反応します。患者の多くは、以下のものにばく露したときに、体調が劇的に悪化します。

・屋外や建物に散布される農薬
・香水と人工香料
・タバコの煙
・香りづけされた石けん
・ドライクリーニングの残留物
・芳香剤
・食料品店内の、強い臭いがする洗剤コーナー
・においを残す洗剤や柔軟仕上げ剤で洗った衣類
・一般的な家庭用洗剤
・新しいカーペットまたはフローリング
・VOC(揮発性有機化合物)を含む一般的な建築用塗料
・溶剤
・水道の塩素
・プレスされた木材または合板、特にホルムアルデヒドを含むもの
・カビの生えたカーペット
・新聞紙
・天然ガス
・新車や柔らかくしなやかなプラスチック製の製品のように臭いが強いプラスチック
・コンピューター、プリンター、コピー機

 

特に危険にさらされているのは、重工業の労働者、シックハウスに住む人、湾岸戦争の退役軍人、有毒廃棄物の投棄・空中農薬散布・地下水汚染・産業汚染などが起きている地域の住民です。

化学物質過敏症(MCS)は、環境汚染によって、もともと遺伝的に脆弱だった解毒(代謝)機能が重層的に損壊され、危険な状態になっているように見受けられます。

 

化学物質過敏症(MCS)のきっかけとなる物質はあるのでしょうか。自宅の庭いじりをしているときに農薬を頭から浴びてしまったなど、1回の大量ばく露の後に化学物質過敏症(MCS)を発症したという人がいます。

新しい家に引っ越したときや、新しく建てられた、または新しく改造されたオフィスで働いていたときに、毎日少しずつ、トータルではかなりの量になる化学物質に、長期間ばく露した後に化学物質過敏症(MCS)になったという人もいます。

いちど過敏性が発現してしまうと、それは広がっていく可能性があります。時間の経過とともに、より多くの化学物質に反応するようになり、より多くの臓器系で機能障害が起きる可能性があるのです。

 

学物質過敏症(MCS)は気のせい?

「慢性疲労症候群」は、医療の専門家から、ある程度認識され研究もされていますが、化学物質過敏症(MCS)は、依然として医学的論争の的になっています。その定義、原因、および示された治療法に関しても、確立されているとはいえない状態です。

米国医師会(AMA)、米国アレルギー・喘息・免疫学アカデミー(AAAAI)、米国疾病対策センター(CDC)など、多くの認められた医療グループは、化学物質過敏症(MCS)を、明確な身体障害とは見なしていません。たとえば、安全衛生局(OSHA)によると、化学物質過敏症(MCS)は単なる「理論」に過ぎません。

 

化学物質過敏症(MCS)は、理論的には、多種類・一般的・低レベルの化学物質に対する、物理的副反応です。
化学物質過敏症(MCS)は、一般に、化学物質に対する反応として認知されていますが、これを疾病として分類できるかどうかについては決着していません。
化学物質過敏症(MCS)は、20世紀病、環境病、全アレルギー症候群、特発性環境病、化学物質エイズなど、たくさんの別名があります。

安全衛生局(OSHA)

 

化学物質過敏症(MCS)の発症機序を説明する理論としては、アレルギー、免疫系の機能不全、神経生物学的感作、心理学的理論などが存在します。こうした理論に基づいて、考えられうる原因と症状との関係性を証明するには、まだまだ科学的証拠が不足しています。[3]

化学物質過敏症(MCS)の患者は、医療サービスを受けることもままなりません。対症療法を実践している医師の多くは、化学物質過敏症(MCS)について理解しておらず、信じてもいません。患者に対して「すべて気のせいです」と言い放つ医師さえいます。

病院や診療所には、不快な化学物質(医師自身、化学物質の臭いを感知できていない場合があります)が充満しています。化学物質過敏症(MCS)の患者は、それらに耐えられないのです。

一方、医師の多くは、既知の疾患の診断カテゴリーに当てはまらない、複数の症状を訴える患者が来院すると、困惑します。一般的な臨床検査(CBC、肝機能検査、沈降速度、尿検査など)では、完全に正常であることが多いため、何の診断もくだせないのです。

倦怠感、集中力や記憶力の低下、神経過敏、神経緊張、うつ、日中の眠気、食べ物への渇望、不眠症、頭痛、鼻づまり、筋肉や関節の痛み、耳鳴り、胃腸の痛み、動悸など、さまざまな身体的・精神的症状を示すのが化学物質過敏症(MCS)です。

欠乏している酵素、化学伝達物質の変化[4]、気道の変化、鼻洗浄による改善、化学物質へばく露中の脳への血流制限などについて、熟知している対症療法の医師は、ごく少数です。

対症療法の従事者にとっては、病気として分類できないのが、化学物質過敏症(MCS)なのです。

 

化学物質過敏症(MCS)の存在を示す証拠など見たことがありません。(症候群は)人工の化学物質に対する不合理な恐れなのです。
ウィリアム・ワデル博士
(ルイビル大学医学部[5]の薬理学および毒物学の元学部長 同分野の産業コンサルタント)


化学物質過敏症(MCS)は、医師によって誤診または過小診断されることが常態化しています。[6] したがって、MCSの正確な有病率は不明ですが、全米科学アカデミーは、アメリカ国民の最大15%が、一般的な化学製品に対する過敏性の高まりを経験している可能性があると、推定しています。このことは、一般的な化学物質に低レベルでばく露した場合の過敏性に関する研究(1999年)で確認されています。[7]

ある疫学調査では、化学物質過敏症(MCS)の有病率は、人口の12.6%から33%の範囲にあることが示されています。[8]

 

学物質過敏症 点と線

化学物質過敏症(MCS)は、

・人種に関係なく、男性よりも女性に、30歳以降に発症することが多い。

・症状の度合いは、軽症から身体障がい者レベル、生命の危機レベルまで様々。

・慢性疲労症候群、過敏性腸症候群、線維筋痛症、カンジダ菌の異常増殖が観察されることが多い。これらが化学物質過敏症(MCS)とはまったく異なる病気なのか、症状は異なるものの同じ病因によるものなのかは、まだ明らかになっていない。

・汚染物質や毒物を完全回避するのは非常に困難ではあるが、最善の防御である。

・個人の遺伝子構成が鍵である。化学物質過敏症(MCS)の素因は遺伝する。


アフターシェーブローションのニオイをプンプンさせた男性がエレベータに乗り込んできたとき、エレベータに乗り合わせた人のなかでは、化学物質過敏症(MCS)の人にしか症状が出ないことを説明するのが、「遺伝子構成」理論だといえるでしょう。

 

肝臓

あなたの肝臓は、この世で遭遇する、あらゆる種類の物質を、一日中休みなく解毒し続けています。

肝臓は、良いものと悪いものを分類し、そのほとんどすべてを、尿、糞便、汗として排泄できるレベルにまで分解します。肝臓は、酵素という特殊なタンパク質を使って物質を分解し、抱合分子と呼ばれる化合物に老廃物を付着させます。これが代謝のプロセスです。

しかし、化学物質過敏症(MCS)のように、酵素や栄養素が損なわれたり枯渇したりすると、肝臓は、有毒物質を効率的に分解することができなくなります。

夕食に招待してくれた友人が、心地よい雰囲気をかもしだすためにキャンドルに火をともしたとしましょう。今、あなたが吸い込んだ、キャンドルから立ち上る香りは、つまるところ、石油化学製品です。

あなたの肝臓が素晴らしい状態にあり、日ごろの食事によって、吸い込んだ化学物質を分解して排泄するのに必要な栄養素すべてが供給されているならば、何の問題もありません。(そんな人は、最近では希少です)

肝臓の状態がそれほど悪くはなくても、石油由来の香料成分全ては分解できないでしょう。あなたの知らないうちに、香料成分の分子は、おそらくあなたの体の軟部組織に蓄積されます。

化学物質過敏症(MCS)になると、キャンドルの香りが漂いはじめた途端に気分が悪くなり、おそらくは数分以内にその家を出ていかねばならなくなるでしょう。

一般に、農薬が人間に、なかでも化学物質過敏症(MCS)に大きな問題となる理由のひとつは、殺虫剤成分を代謝させないために配合される「酵素ブロッカー」です。

これは、化学物質が(昆虫または人間の)体内に長く留まり、さらに毒性が増していくことを意味します。

ゴキブリを殺すという目的においては、望ましいことかもしれません。しかし、ゴキブリと同じ空気を共有し、有毒化学物質を吸い込んだり、皮膚吸収したりする人間にとっては、決して良いことではありません。

 

砂漠の嵐からの退役軍人 

砂漠の嵐からの退役軍人

「湾岸戦争退役軍人の多くが、化学物質過敏症(MCS)が示す症状に苦しんでいる」と、テキサス健康科学センターのアレルギー専門医/免疫学者のクラウディア・ミラーは述べている。

「作業仮説として化学物質過敏症(MCS)に目を向ける必要がある」

推定4,000人の、湾岸戦争退役軍人が、下痢、倦怠感、うつ病、神経過敏、記憶力と集中力の低下、筋肉痛、息切れなど、湾岸戦争中のばく露に起因する体調不良を訴えている。ばく露した物質には、油井火災、塗料、燃料、農薬、溶剤、ワクチンなどの燃焼生成物が含まれる。湾岸戦争に、化学兵器あるいは生物兵器が用いられたのではないかという疑念も、複数報告されている。

 

パーソナルケア製品 

パーソナルケア製品

・「フレグランス(人工香料)」には、複数の化学物質によって構成される化合物が、数百種類が含まれている可能性がある。

・フレグランス(人工香料)の95%は、石油由来の化合物である。

・健康関連商品から洗濯洗剤にいたるまで、日用品に配合されている香料の種類は、合計で5000種類にのぼる。

・「無香料」「香料無添加」と表示されている製品のなかには、他の成分の臭いを隠すために、マスキング「香料」が含まれている場合がある。

・廃水処理施設は、香料を構成する化学物質を除去できない。香料成分の多くは残留性有機汚染物質(POP)であり、環境に蓄積する。

 

 

酵素

女性は、「酵素不足」のために、化学物質過敏症(MCS)を発症しやすい傾向があります。

男性は、体内に、アルコール・デヒドロゲナーゼという、炭水化物、砂糖、アルコール、化学物質を解毒する酵素を、女性よりもはるかに多く有しています。[9]

化学物質を除去するブチルコリンエステラーゼという酵素の量は、10歳以上の女性では男性よりも少なく、30歳以上の女性では、さらに少なくなります。[10]

男性にくらべて、

•女性のほうが、化学物質を蓄積する体脂肪の割合が高い。
•女性の免疫システムは、子宮内の「外来」胎児を保護し成育する必要があるため、より複雑になっている。
•女性は、既知の有毒成分を含む、フレグランス、ヘアカラー、ヘアスプレー、口紅などの化粧品を多く使用する。
•女性は通常、家の掃除をし、有毒な製品に毎日さらされています。
•女性は、アスパルテーム(Nutrasweet®)、ソルビトールなどの合成甘味料が配合されたダイエット食品を食べる確率が高い。。
•過去または現在において使用している抗生物質や経口避妊薬は、さらなるリスク要因となる。

免疫系の閾値(しきいち/いきち)

臨床生態学者の多くは、免疫系には閾値があり、一度限界を超えると、毒性に反応して、さまざまな症状が引き起こされると信じています。

体の閾値は一定ではありません。ストレス、感染症、睡眠不足、運動不足、化学物質へのばく露によって低下する可能性があります。

鉛、水銀、など重金属の体内負荷量(体内に吸収・蓄積された有害化学物質や放射性物質の量)が高い人の場合、それらの重金属は、化学物質過敏症(MCS)の発症または悪化を促進させると考えられています。

化学物質過敏症(MCS)を発症すると、時間経過にともなって、食品、ペットのフケ、ハウスダスト、ダニ、花粉、カビ、合成繊維、電磁波など、生活圏に存在する、ありとあらゆるものに反応する可能性があります。

化学傷害(工場排出ガス・空気・水・食べ物・住宅などに含まれる有害化学物質が人体に及ぼす傷害)を経験したことのある患者は、慢性疲労[11,12,13,14]、頭痛、線維筋痛症を発症する可能性があります。

 

道のカナリア

環境汚染の拡大に巻き込まれた人が、肉体的・精神的に弱くなったとしても不思議ではありません。これを「坑道のカナリア理論」といいます。

 

毒耐性

テキサス・ヘルス・サイエンス・センターのクローディア・ミラー、そして米国内の化学物質過敏症(MCS)の専門家は、現代病の多くの発症機序は、毒耐性を失うことであると主張しています。

ミラーは、1997年、科学にとって、病気の原因として毒物を理解するよう方向転換することは、病原菌理論を理解するのと同じくらい重要である可能性があるという仮説を打ち立てました。

嗅覚機能と大脳辺縁系

ミラーと、アリゾナ大学健康科学センター・精神科のアイリス・ベルは、化学物質過敏症(MCS)が、身体的要素と精神的要素の両方を有している理由を明らかにしています。

嗅覚機能と、大脳半球の辺縁系・側頭葉は、密に神経接続されており、気分と自律神経機能の一部を調節しています。

10年前の研究では、多様な環境化学物質が、嗅覚と大脳辺縁系を介して中枢神経系に到達し、広範囲におよぶ行動や生理学的機能を、持続的に変化させ、化学物質過敏症(MCS)を発症させることが示されました。

睡眠、気分、食事、攻撃性など、非常に基本的な生存行動を制御している、動物の脳の「古い」中心部、つまり大脳辺縁系と鼻は、直接的につながっています。

大脳辺縁系の「燃え上がり現象」は、神経組織を感作するプロセスです。たとえば、カエル​​の神経をペトリ皿に入れ、神経を「発火」させられないレベルの弱い電気刺激であっても、電気刺激を与え続けていくと、繰り返し効果によって、最終的に神経は「発火」します。

化学物質過敏症(MCS)の中には、低レベルの化学物質によって「燃え上がった」人がいると考えられています。

このように、ごく少量の化学物質によって、異常な反応が引き起こされる可能性があるのです。

大脳辺縁系は、非常に多くの体内機能の調節に関与しています。ゆえに、大脳辺縁系が破壊されると、化学物質過敏症(MCS)の症状の多くを、いとも簡単に引き起こす可能性があります。

脳機能の損傷

グンナル・ヒューザー博士とウィリアム・ロス博士は、脳スキャンによって、化学物質過敏症(MCS)のダメージを特定できることを発見しました。

MRIでは正常な結果を示す可能性がありますが、PETおよびSPECTスキャンを使用すると、患者が発現する症状と、相関する脳の領域の血流または代謝が低下している領域が見つかったのです。[15]

化学物質の悪循環

生化学者のマーティン・ポールは、化学物質の悪循環が原因かもしれないと述べています。

ポールは、化学物質へのばく露によって、脳内のニューロンに過敏症が引き起こされてしまうと、2つの化学物質が作り出されて、さらなる過敏症を引き起こしていくことを示す研究を引用しつつ、有機溶剤が、脳内のN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体を活性化し、ペルオキシ亜硝酸と一酸化窒素の両方が上昇する反応のループを刺激するのではないかと考えています。

NMDA受容体が過敏になると、シトクロムP450は一酸化窒素によって阻害され、ペルオキシ亜硝酸によって血液脳関門の透過性が高まります。

ポールは、有機リン系農薬とカーバメート系農薬、そして有機溶剤が、化学物質過敏症(MCS)の主たる増感剤だと見なしています。彼の理論は、化学物質過敏症(MCS)患者の、自己申告による感作歴と一致しています。[16]

「化学物質へのばく露によって、脳の広い領域にわたって過剰反応が生じたときに、化学物質過敏症(MCS)になる」と、ポールは主張しています。

つまり、正常かつ重要な反応機序によって、化学物質過敏症(MCS)が引き起こされている可能性があるわけです。

通常、脳は、何かしらの炎症を起こしやすい化学物質に浸かっていますが、化学物質過敏症(MCS)になった人の脳は、化学物質に対して、健常者の100倍から1,000倍も過敏になります。

化学物質過敏症(MCS)の症状は、慢性疲労症候群、線維筋痛症、心的外傷後ストレス障害、湾岸戦争症候群など、発症機序が解明されていない疾病の症状とも重なります。

ポールは、これらの疾病はすべて、同じ機序によって発症すると考えています。「生化学的悪循環が、これら4つの疾病すべての原因かもしれないというのは、とても刺激的な考え方です。これが正しいならば、ヒトの病気にとって、重要かつ新しいパラダイムになりえるでしょう。」[17,18]

 

化学物質過敏症:社会的認知度の広がり

多種類の化学物質に耐性がない人の存在は、一般にも知られています。

人気のテレビ番組「Northern Exposure」では、一般社会からも、工業社会の毒からも、隔離されたアラスカのドームに住む、化学物質に過敏な弁護士の生活が特集されたことがあります。

化学物質過敏症(MCS)を受け入れようとする意欲において、連邦政府は、医学界よりも進んでいるようです。

1990年、化学物質過敏症(MCS)は、広く認められている病状として、アメリカ障害者法に組み込まれました。アメリカ合衆国住宅都市開発省は、1992年半ばまでに、身体障がい者の地位を確立させました。

アメリカ合衆国環境保護庁(EPA)は、1987年、ワシントンDCのウォーターサイドモール本社に新しいカーペットを設置したときに、期せずして化学物質過敏症(MCS)について調査することになりました。

アメリカ合衆国環境保護庁(EPA)には、職員から、1100件以上の健康被害の訴えが寄せられました。カーペットが原因だと気づくまでに2年を要しました。

化学的に増感させられたとして、アメリカ合衆国環境保護庁(EPA)を提訴した職員は、陪審裁判に勝訴しました。しかし、裁判所は、妥当性に欠けるとして評決を覆しました。

床一面を覆うカーペットには、繊維を裏地にはりつけるために、合成接着剤が使用されています。

カーペットは、床にはりつけるためにも、のりや接着剤が使われます。カーペット表面には、防汚加工や防虫加工が施されています。

カーペットの織りには、目や気道を刺激する4-フェニルシクロヘキセン(4-PC)などを含む接着剤が使用されます。

 

都合な真実

医学の主流派は、化学物質過敏症(MCS)を、断固として認めません。

化学物質過敏症(MCS)を認めてくれるのは、委員会認定の外科医であり、この分野の先駆けとして高く評価されている、ダラスのウィリアム・j・レア(故人)だけです。

 

Visionary pioneer and clinician in environmental Illness, Dr. William J. Rea,  dies in Dallas. World loses the man who created the most comprehensive and  important environmental health clinic for the chemically sensitive,


彼は、過去25年間、医学の重鎮たちから攻撃され続けています。

レアは、体調不良のエクソン・ヴァルディーズ清掃員や、BPの石油流出事故によって流れ出た原油や分散剤に含まれる有毒化学物質によって健康被害をうけた人々を治療してきました。

2007年8月、テキサス医療委員会は、化学物質過敏症(MCS)と診断して治療することに異議を唱え、医師免許を取り消すと、レアを脅迫しました。

3年間の法廷論争の結果、委員会の主張には根拠がないことが証明され、リーにかけられた容疑はすべて晴らされました。レアは、莫大な弁護料の支払いに追われています。

委員会は、レアに、「これからは、化学物質過敏症(MCS)治療は食品医薬品局(FDA)に承認されていない旨を患者に知らせなければならない」と通告しました。

政党の多くは、ありとあらゆる化学物質を世界経済に組み込むことによって、既得権益を確保しています。

1990年に、化学メーカーの業界団体「the Chemical Manufacturers Association」が、医師会と協力して、化学物質過敏症(MCS)を承認させないよう誓いあったことには、心が痛みます。(アン・マッキャンベル博士の添付記事を参照してください。)

このような利益優先の態度は、「化学を通じてより良く生きる」という一般的認識を逸脱しているといえるでしょう。

 

変化の兆し

地球温暖化問題に続き、化学物質がヒトの健康に及ぼす潜在的危険性についても、より深刻に受け止められるようになってきています。

化学物質過敏症(MCS)が気のせいではないという科学的証拠も、拡大しつつある問題であることも、反論する余地はなくなりつつあります。

2007年11月、カリフォルニア医師会(CMA)は、「カリフォルニアの化学物質ポリシー」に関する決議を採択しました。

 

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「州、国、そして世界規模において、膨大な量の化学製品が生産されており、2050年までに、さらに4倍に増えると予想されている。」

「蓄積されてきた研究により、多くの化学物質が、人体機能や健康に有害であること、特に子宮内で発育中の胎児に良くないことが判明している。」

「欧州連合やカナダなど、多くの国々は、科学的知見、評価、一般的な公衆衛生の原則に基づいて、健康重視の化学物質政策を積極的に採用している。」

「アメリカでは、今後25年間(2007-2032年)で、毎月600の有害廃棄物処理場が作られ、化学物質製造にかかわる労働者のうち、毎年23,000人が慢性疾患を発症すると予測されている。」

「カリフォルニア医師会(CMA)は、カリフォルニア州ならびにアメリカ合衆国に、人間の健康についての科学的知識に基づいて、現代的かつ包括的な化学物質政策を導入することを求める。そのためには、現在使用されている既知の工業的化学物質ならびに新規に開発された化学物質が、健康へ与える影響を、完全に評価しなくてはならない。」[19]

 

リゾナ先端医療センター

MCSの診断を確認する簡単なテストはありません。

知識のある医師は、症状の原因として、アレルギーや、身体的・精神的な疾患を除外します。

アリゾナ先端医療センターでは、その人のあらゆる症状・病歴を調査し、徹底的な健康診断を行います。

【治療方針】

・できるだけ多くの有害物質を特定し、それらを排除します。食品、洗剤、重金属、農薬など膨大な物質が対象となります。

・ご自宅や職場を安全な環境にしていくために、家庭や職場に存在する有害物質​を特定できるようサポートします。

・栄養指導:体調を改善するために、有機食品とサプリメントを使用します。

・重金属:重金属検査を行い、重金属を体外へ排出させます。

・大腸洗浄:大腸(結腸)の有害物質を洗浄し、有益な腸内細菌叢バランスを取り戻します。

・免疫療法:防腐剤を含まない抗原を用いて、アレルギーテスト、感受性テストを行い、これら感受性を改善させる免疫療法を行います。

治療のゴールは、化学物質過敏症(MCS)び過敏性を緩和させて、社会復帰していただくことです。

アリゾナ先端医療センターは、化学物質過敏症(MCS)の人が、商業ビルの多くに反応することを踏まえたうえで、環境と調和するように設計されています。

 

 

【参考資料】
ジェームズマディソン大学MCS研究チーム、バージニア州ハリソンバーグ。
http://www.mcsresearch.net/

フレグランス製品情報ネットワーク
http://www.fpinva.org/ 

化学物質過敏症情報ネットワーク(CIIN)
http://www.ciin.org/
化学物質過敏症を支援する非営利団体。化学物質による被害者のために、化学物質による被害者によって運営されている。

 


[1] Dr. William J Rea, et all; Confirmation of chemical sensitivity by means of double-blind inhalant challenge of toxic volatile chemicals, Clinical Ecology, Volume VI, number 3.

[2] Pamela Reed Gibson, Ph.D.; Understanding & Accommodating People with Multiple Chemical Sensitivity in Independent Living, James Madison University, 2002

[3] http://www.osha.gov/SLTC/multiplechemicalsensitivities/index.html. Accessed November, 2007

[4] Millqvist E, Ternesten-Hasséus E et al. Changes in Levels of Nerve Growth Factor in Nasal Secretions after Capsaicin Inhalation in Patients with Airway Symptoms from Scents and Chemicals, Environmental Health Perspectives, 113: 7 (July 2005).

[5] William Waddell, MD, Better Data Needed on Sensitivity Syndrome, Science, Vol 251, p 1558

[6] Kutsogiannis, DJ., & Davidoff, A.L. (2001). A multiple center study of multiple chemical sensitivity syndrome, page 19. Retrieved June 22, 2004, from http://www.findarticles.eom/p/art icles/mi_m0907/ is_3_56/ai_77276221

[7] Caress, S.M., & Steinemann, A.C. (2003). A review of a two-phase population study of multiple chemical sensitivities. Retrieved June 22, 2004, from http://www.emagazine.com/septembero\ctober_1998/ 0998feat2.html

[8] ibid

[9] Cichoke, A. The Complete Book of Enzyme Therapy. Penguin Putman Inc., 1999, page 107

[10] Cynthia Wilson, Chemical Injury As A Women’s Health Issue, Our Toxic Times, 8(9):1,3, 1997

[11] Buskila, D. Fibromyalgia, Chronic Fatigue Syndrome, and Myofascial Pain Syndrome. Current Opinion in Rheumatology, 11:119-126. 1999

[12] Dunstan, R.H.; Donohoe, M.; Taylor, W.; Roberts, T.K.; Murdoch, R.N.; Watkins, J.A.; McGregor, N.R. A Preliminary Investigation of Chlorinated Hydrocarbons and Chronic Fatigue Syndrome. Med. J Australia, 163: 294-297. 1995.

[13] Heuser, G.: Chemical Exposure as a Cause of Chronic Fatigue. Fourth Annual Conference on Medical Neurobiology of Chronic Fatigue Syndrome and Fibromyalgia, Los Angeles, California, May 7-9, 1993.

[14] Tirelli, U.; Chierichetti, F.; Tavio, M., Simonelli, C.; Bianchin, G.; Zanco, P.; Ferlin, G. Brain Positron Emission Tomography (PET) in Chronic Fatigue Syndrome: Preliminary Data. Am. J. Med. 105: 54S-58S. 1998.

[15] Heuser, G., Wu, J.C. “Deep Subcortical (Including Limbic) Hypermetabolism in Patients with Chemical Intolerance: Human PET Studies.” Annals of the New York Academy of Sciences 933 (March 2001):319-322.

[16] http://www.mcsresearch.net/causes.htm

[17] Progress in MCS Research: Washington State Univ. Biochemist Provides Theory & Evidence that a Vicious Chemical Cycle May Cause Multiple Chemical Sensitivity, Mold Reporter, 2002, Vol 2, No 5

[18] http://www.fasebj.org/cgi/content-nw/full/16/11/1407/T1.

[19] Pall, Martin L. NMDA sensitization and stimulation by peroxynitrite, nitric oxide, and organic solvents as the mechanism of chemical sensitivity in multiple chemical sensitivity. The FASEB Journal. 2002;16:1407-1417 Multiple Chemical Sensitivity (MCS)