化学物質に関するグローバル枠組み
Global Framework on Chemicals(GFC)
化学物質や廃棄物の有害な影響から解放された世界へ
化学物質は私たちの日常生活に欠かせない存在ですが、その適切な管理が重要です。しかし、2020年までに化学物質の有害な影響を最小限に抑えるという目標は達成されませんでした。そのため、今後は全ての関係者が協力し、より積極的かつ迅速な行動が求められています。
この枠組みのビジョンは、「安全で健康的かつ持続可能な未来のために、化学物質や廃棄物の有害な影響から解放された世界」を目指すことです。そのために、以下の戦略目標が設定されています。
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法的枠組みと能力の整備:各国が化学物質と廃棄物を安全かつ持続可能に管理するための法律や組織を整備する。
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知識と情報の共有:意思決定や行動を支えるために、包括的で十分な知識や情報を生成し、全ての人が利用できるようにする。
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課題の特定と対策:懸念される問題を見つけ、優先順位をつけて対策を講じる。
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安全な代替品と持続可能な解決策の推進:製品の製造から廃棄までの過程で、より安全な代替品や革新的で持続可能な解決策を推進する。
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資源の動員と協力の強化:効果的な資源の確保、パートナーシップ、協力、能力向上を通じて、これらの目標の実現を促進する。
これらの目標を達成するために、2030年までに各国政府や企業が具体的な取り組みを行うことが求められています。例えば、各国政府は化学物質と廃棄物の有害な影響を防ぐための法律を制定し、企業は製品のライフサイクル全体で有害な影響を防ぐ責任を持つことなどが挙げられます。
「化学物質に関するグローバル枠組み(GFC)」と日本の取り組み
背景:なぜこの計画が必要なのか?
化学物質は、私たちの生活のあらゆる場面で使われている。例えば、食品の保存や医薬品、農薬、プラスチック製品、洗剤などに含まれている。しかし、一部の化学物質は人の健康や環境に悪影響を与えることが分かっている。
過去には、水俣病(水銀中毒)やイタイイタイ病(カドミウム中毒)などの深刻な健康被害が発生したこともあり、化学物質の管理の重要性が認識されてきた。しかし、現在も世界全体で化学物質の適切な管理が十分に進んでいるとは言えず、国際的な協力が求められている。
そこで、2023年9月に開催された**国際化学物質管理会議(ICCM5)**で、新たな国際ルール「化学物質に関するグローバル枠組み(GFC)」が採択された。この枠組みの目的は、「化学物質や廃棄物が環境や人間に与える悪影響を防ぐこと、または最小限に抑えること」にある。
日本の対応:国内実施計画の策定
日本政府は、この国際的な枠組みに対応するために「国内実施計画」を策定した。この計画では、政府だけでなく、企業や研究機関、市民も含めた多くの関係者が協力し、化学物質の管理をより強化することを目指している。
国内実施計画の5つの戦略的目標
GFCの理念を踏まえ、日本の計画では5つの戦略的目標を設定している。
1. 法制度・管理体制の整備
- 化学物質の管理に関する法律を整備し、適切に運用する。
- 環境・健康リスクを防ぐため、必要に応じて法改正を行う。
- 企業が化学物質の管理を適切に行うよう支援し、規制の遵守を求める。
関連する法律の例
- 化学物質審査規制法(新しい化学物質のリスクを審査する)
- 労働安全衛生法(職場での化学物質の管理)
- 大気汚染防止法(有害化学物質の大気への排出を制限)
2. 情報の共有と公開
- 企業が製造・使用する化学物質の情報を正確に把握し、必要なデータを公開する。
- 一般の人々や消費者が化学物質の安全性を理解し、適切に使用できるようにする。
- 環境や健康への影響を調査し、科学的なデータを収集・分析する。
具体例
- 化学物質総合情報提供システム(NITE-CHRIP)
→ どの製品にどんな化学物質が含まれているかを調べられるデータベース。
3. 問題のある化学物質への対応
- 人の健康や環境に深刻な影響を与える可能性のある化学物質を特定し、その使用や廃棄方法を厳しく管理する。
- 例えば、発がん性や生殖毒性がある化学物質の使用を制限し、安全な代替品を推奨する。
具体例
- 水銀に関する水俣条約(水銀の使用削減)
- 残留性有機汚染物質(POPs)条約(有害な有機化合物の使用禁止)
4. 安全な代替品と持続可能な技術の開発
- 環境や健康に優しい製品や技術の開発を支援する。
- 例えば、農薬の使用を減らすために有機農業を推進したり、プラスチックに代わる生分解性素材を開発する。
具体例
- みどりの食料システム戦略(化学農薬の使用を50%削減)
- リサイクル技術の推進(安全な代替材料の開発)
5. 国際協力とパートナーシップの強化
- 各国と協力して、化学物質の管理をより効果的に行う。
- 企業、研究機関、NGO、一般市民など、さまざまな関係者が連携して取り組む。
具体例
- バーゼル条約(有害廃棄物の国際的な移動を規制)
- ロッテルダム条約(危険な化学物質の輸出入に関する国際的なルール)
今後の課題と展望
日本はすでに多くの法律や制度を整備しているが、化学物質のリスクを完全に防ぐのは簡単ではない。今後の課題として、以下のような点が挙げられる。
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新しい化学物質のリスク評価
- 科学が進歩するにつれ、これまで安全だと考えられていた化学物質が健康や環境に悪影響を与えることが分かることがある。
→ 最新の研究に基づいた評価が必要。
- 科学が進歩するにつれ、これまで安全だと考えられていた化学物質が健康や環境に悪影響を与えることが分かることがある。
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企業や消費者の意識向上
- 法律を作るだけでなく、企業が自主的に安全対策を進めたり、消費者が環境に配慮した選択をすることも重要。
→ 教育や啓発活動の強化が必要。
- 法律を作るだけでなく、企業が自主的に安全対策を進めたり、消費者が環境に配慮した選択をすることも重要。
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持続可能な代替技術の開発
- 化学物質を減らしつつ、同じ機能を持つ代替技術を開発することが求められる。
→ 企業の研究開発支援が重要。
- 化学物質を減らしつつ、同じ機能を持つ代替技術を開発することが求められる。
まとめ
日本は国際的なルールである「GFC」に基づき、化学物質の管理を強化するための「国内実施計画」を策定した。この計画では、法律の整備、情報の共有、有害物質の管理、安全な代替品の推進、国際協力の5つの目標が掲げられている。
化学物質は私たちの生活を支える一方で、適切に管理しなければ健康や環境に大きなリスクをもたらす。そのため、政府、企業、研究機関、市民が協力し、安全で持続可能な社会を目指すことが求められている。